OpenShift Commons GatheringからMicroShiftとCockroachDBを紹介
OpenShift Commons Gatheringsから、エッジ向けのプラットフォームであるMicroShiftとクラウドネイティブなデータベースのCockroachDBのセッションを紹介する。またRed HatがBitergiaと共同で行ったコミュニティのデータ分析に関するセッションのスピーカーへのインタビューも併せて紹介する。
エッジ向けのMicroShift
最初に紹介するのは「A Lightweight OpenShift for the Edge」と題されたセッションで、スピーカーはRicardo Noriega De Soto氏とMiguel Angel Ajo Pelayo氏だ。所属はEdge Computing Teamであるという。
セッション動画(MicroShift):MicroShift a lightweight OpenShift at the Edge Ricardo Noriega & Miguel Angel Ajo Pelayo (Red Hat)
De Soto氏はまずMicroShiftの位置付けについて解説を始めた。
MicroShiftはサーバーサイドのOpenShiftとエッジのデバイスで稼働するLinuxの中間に位置するものであると語った。
このスライドでわかることは、MicroShiftとはエッジもしくは組み込みデバイスの中で必要なアプリケーションを動かすためのOSやネットワーク、そして限られたメモリーやストレージなどを最適化するのではなく、サーバーとなるべく同じ開発手順、実装方法、管理方法、アプリケーションのライフサイクル管理などをエッジ側に展開したらどうなるのか? ということをOpenShiftの側から発想したものということだろう。
Zephyrのように組み込み系から発展したOSもあるが、このスライドにあるようにRHEL for EdgeとDocker互換のコンテナ実行環境であるPodmanを使ってOpenShiftのクラスターの一員として利用するというイメージだ。リアルタイム性やメモリーやストレージのサイズに制約がある場合またはIPによる通信が行えないようなケースであれば選択肢としては別のものになると思われるが、このプラットフォームにはエッジでのアプリケーションの実装と管理を、クラスターのサーバーと同じように扱えるという利点がある。またRHEL for Edgeがx86系のプロセッサしか対応してないのに比べてARMやRISC-Vなどにも対応、ネットワークが常時接続できない環境でも単独のイメージを使ってデプロイすることが可能であるというのは大きな利点だろう。
ここからはAjo Pelayo氏も加わって後半のデモで利用するNVIDIAのJetson Nanoのデバイスを例にエッジデバイスでの例を紹介した。
ここからはOpenShiftとMicroShiftの違いを解説。複数のコンポーネントから構成されるOpenShift(Kubernetes)に比べて極力小さいことを目指していることがわかる。
rpm-ostreeで構成されたOSイメージとコンテナランタイムのcrio-oが配置されているように極小のLinuxであることがわかる。この後はデモとしてJetson Nanoをサーバー、カメラを接続して顔の認識を行うPythonのアプリケーションをocコマンドでデプロイするという操作を行った。
また途中でアプリケーションのバージョンを入れ替えて機能が変わるという部分を見せて、OpenShiftを使ってアプリケーションのローリングアップデートを行った形になる。ここまでサーバー上でデモを動かすのとほぼ同じ操作、管理方法が行えるというのがMicroShiftの大きな特徴だろう。あくまでもサーバーの延長線上にエッジデバイスを置くという発想であれば、OpenShiftから同じように運用ができるというのは、運用担当者にとっては良い提案だ。
CockroachDB
次にCockroach LabsのエバンジェリストであるJim Walker氏が行ったCockroachDBのライトニングトークを紹介する。Walker氏は元CoreOSでマーケティングをやっていたという経歴の持ち主だが、CoreOSがRed Hatに買収される前に他社に移っている。
セッションの動画(CockroachDB):Data Management for a Hybrid World That Was Easy - Jim Walker (Cockroach Labs) OSCG 2022 Spain
Walker氏はクラウドネイティブなシステムとはスケールすることと効率的であることが目的であるとして、その目的を満たすためにKubernetes(の元となったGoogleのBorg)が作られたということを簡単に紹介した。その上で複数のサーバーを抽象化してアプリケーションがどこで実行されているのかを意識する必要がなくなったのがKubernetesの特徴の一つであると説明。
その上でデータベース自体もスケールすること、効率的に実行できることが必要だと説明した。そしてそれを可能にするリレーショナルデータベースがCockroachDBであるというのがこのライトニングトークのコアのメッセージだ。
具体的な説明は省いたが、従来のリレーショナルデータベースとの互換性も保ちながらクラウドのスケールと耐故障性を備えていると説明した。ちなみにコックローチ(ゴキブリ)という名称は「なかなか死なないから」というのは以前、Cockroach Labsのブースで説明されたことがある。
続いて、OpenShiftのマーケットプレイスでもワンクリックでCockroachDBをデプロイできる機能を紹介した。これはまだプレビューという段階なので今後、本番環境でも使えるように進化していく予定だろう。
最後にCockroachDBの解説本を紹介してセッションを終えた。これはオライリーで出版されているCockroachDBの解説書籍となり、以下のURLから無償でダウンロード可能となっている。
参考:CockroachDB:The Definitive Guide
Bitergia
最後に紹介するのは、Bitergiaというスペインで創業されたデータ分析のベンチャーがRed Hatとともに行ったオープンソースコミュニティに関する分析のセッションだ。
セッションの動画(Bitergia):Interconnectness and Growth of OpenShift & Cloud Native Ecosystem Miguel Ángel Fernández (Biterga)
このセッションの内容は、オープンソースの活動をGitHubのコードコミットの数をベースにどのくらいコミュニティが活発に活動しているのか? を分析するというものだ。コミュニティに注目してデータを集計するという方法から視点を変えて、コードを提供しているデベロッパーに注目して誰がどのプロジェクトに貢献しているのか? をグラフ化している。プロジェクトに貢献しているデベロッパーが何人いるのか? というのはオープンソースプロジェクトの活気を図る指標だが、それをデベロッパー(コントリビューター)に移して複数のプロジェクトが人をベースにどのように繋がっているのか? を可視化している。
KubernetesとOpenShiftに同じRed Hatのエンジニアが貢献しているというのはわかりやすいが、他のプロジェクトとエンジニアの時間を分け合っているようすが見えるのは確かに興味深い。しかしここから考察を引き出すのは難しいだろう。Red Hatのように100%オープンソースにコミットできる環境は特異な状況だろうし、自社のシステムに関連が強いプロジェクトに引き寄せられるのは仕方ないだろう。オープンソースにコードの提供をする労力を絞り出すのも、業務として任命されるようになるというのが第一歩かもしれない。
他にも各プロジェクトのコントリビューターの数の推移やエコシステムの拡がりについて解説を行ってセッションを終えた。
このスライドではオープンソースプロジェクトが確実に拡大していることがわかる。CNCFのサンドボックスプロジェクトもグラデュエーションするプロジェクトに加えて新たに加わるプロジェクトも着実に推移しているのが、ここでも可視化されている。
このセッションの後にFernández氏にインタビューを行った。要旨は以下の通りだ。
企業としてはすでに10年という歴史を持つBitergiaだが、Fernández氏は5年前に入社したそうだ。それまでは大学でデータ分析を学び、Bitergiaとはパートナーとして研究をしていたという。Bitergiaでは主にオープンソースプロジェクトのコミュニティに関わるデータ分析を行っている。Bitergia自体は、分析の仕事をCNCFやRed Hatから請け負っていることが主な収益源だという。Bitergiaが使っているツール自体もオープンソースソフトウェアなので、誰でも同じような分析を行うことは可能だが、実際には名寄せなどの細かい処理を行う必要があるので、その部分にBitergiaの差別化ポイントがあるという。また時系列の変化も分析できるので、どのプロジェクトに活気があるのか、どのプロジェクトがそろそろ終わりそうか、などもわかるという。
この分析プロジェクトにはOpenShift Commons Gatheringsの運営担当でもあるDiane Mueller氏も冒頭の挨拶で触れており、人をベースにして分析するという視点の新しさが注目されているのがわかる。
プロジェクトの分析を行ったとしても活動の基礎データは人の行動なので、パンデミックなどの大きな社会変化によって変化することもあり得るだろう。GitHubによるリポジトリー内のミクロなコミュニティの活動データ分析(例:Rubyのコントリビューターはコメントに絵文字を使う傾向が高い)も非常に興味深いものがあったが、Bitergiaの定点観測によって可視化される時系列、国や地域別の活動データにも注目していきたい。
他にもHCLというシステムインテグレーターがCloud FoundryからOpenShiftへのコンバージョンサービスを発表したほか、Red Hatが2021年に買収したStackRoxのセキュリティに関するUpdateがあるなど、OpenShiftをコアにエコシステムの拡がりを感じられるカンファレンスとなった。2022年10月にデトロイトで行われるKubeCon+CloudNativeCon NAでの進捗が楽しみだ。
KubeCon+CloudNativeCon NA 2022:https://events.linuxfoundation.org/kubecon-cloudnativecon-north-america/
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