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  インタビュー

コミュニティイベント「DrupalCamp DEN」主催者に聞く Drupalの人気急上昇の理由とは ー株式会社メタ・インフォ 井村 邦博氏

2023年4月13日(木)
工藤 淳

ゼロからのプログラミングを行わずに、コンテンツ管理システム(CMS)からWebアプリケーションまで、幅広いソリューションを開発可能な「Drupal」。2001年にオープンソースプロジェクトとして発足して以来、20年超の歴史を持つオープンソースのフレームワークが、再び人気の盛り上がりを見せている。

2023年1月に山口県岩国市で開催された「DrupalCamp DEN 2023 Iwakuni」の主催者であり、事務局を務めた株式会社メタ・インフォ 代表取締役の井村邦博氏に、Drupalの魅力やコミュニティの最新動向などを伺った。

「DrupalCamp DEN 2023 Iwakuni」公式サイト

「DrupalCamp DEN 2023 Iwakuni」公式サイト

Drupalならではの魅力に惹かれ、
開発会社の起業やコミュニティへ参加

井村氏が初めてDrupalに触れたのは、2012年のこと。当時、大学の図書館システム開発などを手がけていた同氏が、顧客からDrupalによるホームページ制作の依頼を受けたのが始まりだった。まだ日本語文献がほとんどない中、手探りで開発を進めるうち、次第にその魅力にとりつかれていったという。

「具体的には柔軟性と拡張性、特にモジュールを複数入れても連携して動ける点に惹かれました。また図書館向けパッケージなどでは、利用者のログイン機能なども要求されますが、Drupalにはそうした周辺機能も全部含まれていて、最初にインストールすれば後から追加で開発する必要がない。作業を進めるうちにそうしたことが分かってきて、こんなにすごいものはないと感じて、どんどんのめり込んでいったのです」

すっかりDrupalに魅了された井村氏は、2014年にDrupalによる開発に本格的に取り組もうと起業。さらに2018年に、Drupal専門の開発会社として、現在のメタ・インフォを創業した。文字どおりDrupalのエヴァンジェリストとして歩み始めた同氏が、2014年の起業と同時にコミュニティ活動にも加わったのは、ごく当然の成り行きと言えるだろう。

「Drupalは、開発も基本的に全てコミュニティベースで進んでいるので、あらゆるリソースが無料で利用できます。そういうオープンソースならではの文化の素晴らしさに感銘を受けて、これはぜひ日本でも広げていきたいと、コミュニティ活動にも積極的に参加し始めたのです」(井村氏)

そのためにはDrupalの情報発信が必要だと、ネットワーク企業のブログにライターとして記事を執筆したり、それを読んだ企業から問い合わせが来てビジネスにつながるなど、一つひとつの地道な努力が、着実に世界を広げていくのを感じたと井村氏は振り返る。

株式会社メタ・インフォ 代表取締役 井村邦博氏

株式会社メタ・インフォ 代表取締役 井村邦博氏

リリースから20年余、
人気再燃の背景にある3つの大きな変化

井村氏をはじめとする関係者の取り組みが、日本国内におけるDrupalの存在感を高めていったのは間違いないが、最初のリリースから20年余を経て改めて、現在大きな盛り上がりの波がやってきているという。たしかに近年は飛躍的な技術革新が続き、それが企業のITコスト抑制の取り組みとあいまって、世の中のオープンソース志向が急速に高まってきた。だがDrupalに関しては、具体的にどんな理由が人気の背景にあるのだろうか。

井村氏は、何と言ってもコミュニティの広がりを第一に挙げる。日本でのDrupal普及に取り組むコミュニティ「Drupalグループ DEN」では、2017年からDrupal MeetupやDrupal Camp DENなどのイベントを行ってきた。これまで東京、名古屋、大阪、そして2023年は岩国でオンライン参加も含めて開催してきたが、参加者は着実に増えていると井村氏は明かす。

「今回の岩国でも、現地(オフライン)だけで70名近い方に参加いただいたのですが、3分の1以上は初めて参加する方でした。Drupal関連はある意味ニッチなコミュニティなので、こうしたイベントを通じて知り合う方が増え、そこから生まれた交流や情報交換がさらに新たな参加者を呼んでいるのではないでしょうか」(井村氏)

メイン会場の様子

メイン会場の様子

また最近では、2021年にデジタル庁が政府統一サイトへのDrupalの採用を発表して以降、公共系のユーザーによる問い合わせも増えてきている。そうした複数の要因によって、Drupalという名前が広く知られるようになり、関心を持つ人も増えているのではないかと井村氏は推測する。

そしてもう1つ、人気再燃の重要なドライバーとなっているのが、Drupalの認定資格試験だ。これは現在、世界で唯一の認定資格であり、Drupalの創設者によって創業された米国のAcquia社が2014年から実施してきたものだ。これが2019年に一部の試験を日本語化したことで、2020年以降、一気に受験者が増えたという。

「現在は、日本法人であるアクイアジャパン合同会社が翻訳などのローカライズを行っています。やはり、日本語で受験できるというのは大きいですね。またオンラインで受験できるのも、挑戦のハードルを下げている要因の1つだと思います」(井村氏)

日本におけるDrupal認定資格の取得状況

日本におけるDrupal認定資格の取得状況【出典】アクイアジャパン合同会社

「地方から世界へ」を目指し、
本年1月に「DrupalCamp」を岩国市で開催

こうした国内のDrupal人気とコミュニティの盛り上がりを象徴する最新トピックが、2023年1月21日に山口県岩国市で開催された「DrupalCamp DEN 2023 Iwakuni」だ。このイベントは、Drupalグループ DENの主催で、2017年以降これまで4回の開催実績を持つ。井村氏は第1~3回までは一般の参加者として、そして4回目となった今度の岩国で初めて主催者側として加わり、メタ・インフォがイベントの事務局を務めた。

ちなみにこのイベントやコミュニティの名称にある「DEN」だが、その由来は「田(でん)」、すなわち「Drupalをデジタルの『産業の米』として育てる、田としてのコミュニティ」を目指すという意志が盛り込まれている。全国に田んぼが広がることで農業が盛んになるように、全国にDEN=コミュニティを作ることでDrupalの活用を促進しようとの、熱い思いが込められた名称なのだと井村氏は説明する。

「今回の『DrupalCamp DEN 2023 Iwakuni』の開催にあたっても、全国へ活動を広めるための地方開催ということが話し合われました。その結果、テーマも『岩国から世界へ、Drupalの架け橋を』と、地方で行う意義を前面に押し出したものになったのです。当初は開催地も決まっていなかったので、地方への展開に少しでもお役に立てればと、当社のサテライトである岩国オフィスで事務局をお引き受けしたいと手を挙げたところ、岩国市での開催が決まりました」(井村氏)

「地方から世界へ」を意識して、参加形態も現地(オフライン)/オンラインのハイブリッド開催とした。その結果、現地68名、オンライン58名の合計126名が参加する盛況となった。国内はもちろん、海外はアジア圏を中心に参加者を集め、オンライン発表ではエストニアからのエントリーもあったと井村氏は振り返る。

「イベント後の懇親会を別会場に設けたのですが、こちらも予想を大きく上回る52名の参加があって非常に驚きました」(井村氏)

懇親会の様子

懇親会の様子。イベントに引き続き、こちらにも大勢の参加者が

コンテンツ企画にあたっても、より幅広い層にアピールできる内容を心がけた。セッションはA、B、Cの3トラックに分かれて行われたが、Aは初心者を想定して、Drupalを知らなくても聞ける内容。反対に、Bは完全に上級者を対象にしたテクニカルな話題。そしてCは国際色を意識して、英語によるセッションが可能なスピーカーを招いたという。

行政との連携やケーブルTVの報道を通じて
地域の関係者にアピール

今回の「DrupalCamp DEN 2023 Iwakuni」では、地方への拡がりと浸透というコンセプトの展開として、地元への積極的な働きかけも行った。そのために井村氏は、岩国市に2つの「お願い」をしたと明かす。

「1つは、イベントで市長にご挨拶いただけないかというお願い。もう1つは、市の管理している施設を会場に借りるので、その利用料金をできるだけディスカウントしていただけないかお願いしました。料金の方は、営利目的ではない無料イベントということで、本当に格安の料金で貸していただけました。市長の方はお忙しい方なので、直接お願いに上がるなどして、やっと開催前月の12月末にご了解をいただくことができました」(井村氏)

今回の会場となった岩国市民文化会館

今回の会場となった岩国市民文化会館

とはいえ、いったん決まれば、市側も非常に協力的な姿勢で臨んでくれたという。特に岩国市長の福田 良彦氏は、普段からDX推進に積極的に取り組み、IT企業の誘致やIT関連イベントの地元開催に力を入れていることから、Drupalのイベントにも深い理解を示してくれたと井村氏は語る。

「山口県内にはIT企業が少ないため、岩国市もそうした情報を発信することで、企業誘致につなげる取り組みを進めています。そうした自治体側の意向と、私たちの活動がうまくマッチングできたのではないかと自負しています」(井村氏)

また、福田市長は自らDrupalについて勉強を進めており、イベントの開会挨拶では、Drupalがホワイトハウスで使われていた実績や、ノーコード/ローコード開発への活用などの例を紹介。さらに地元の参加者に学習を勧めるなど、まさにDrupalの普及イベントにふさわしいスピーチを披露してくれたという。

イベントで開催挨拶をする山口県岩国市長 福田 良彦氏

イベントで開催挨拶をする山口県岩国市長 福田 良彦氏

「また地元のケーブルテレビ局が取材に来てくれて、翌日のニュースで取り上げていただいたところ、予想外の反響がありました。後日、岩国市の担当の方から、ニュースを見た市民から『このキャンプの情報を事前に知らせて欲しかった』『Drupalを学びたいのだが、どうしたらよいか』といった問い合わせがあったとのご連絡をいただいたのです」(井村氏)

初めて事務局として参加した今回のイベントで、予想を超える成果を出せたことに、井村氏も「自分から手を挙げて取り組んだことで、皆さんに認めていただいて本当に嬉しかったです。最後の懇親会で、事務局の皆さんから拍手をいただいた時は、頑張ってよかったと心から思いました」と笑顔を見せる。

福田市長と井村氏

ボランティアの学生にも気さくに声掛けをする福田市長と井村氏

Drupalはキャリア形成を考える技術者にとっても
有力な選択肢に

井村氏は、現在のDrupalの人気の盛り上がりを踏まえて、今後ますます日本国内での需要は増えてくると語る。

「Drupalへの関心も需要も徐々に広がってきていますが、私自身はある時点でいわゆるキャズムを超えるというか、爆発的に出てくる可能性が高いと考えています。その意味でも、皆さんには今からDrupalを勉強しておくと、将来のキャリア~国内だけでなく海外での活躍の可能性にもつながるとお話ししています」(井村氏)

では最後に、そうした若手技術者をはじめ将来のキャリアを考える読者に、改めて井村氏の考える「Drupalの魅力」を語っていただこう。

「現在のトレンドで言うと、やはりノーコード/ローコード開発ができることですね。世の中の技術やビジネスが加速していく中で、これまでのようにゼロからコードを書いて開発したり改修していては間に合いません。Drupalを使えば、そうした煩雑な作業が不要になる。あるいは少し手を入れるだけで、思う通りの機能が実現できる。その点で開発者にとってはすばらしいツールだと思っています」(井村氏)

さらに最近は、コンテンツやソフトウェアをWebサービスという形でインターネットに公開することが非常に多い。その点Drupalならば、複雑な設定をしなくても堅牢かつ確実なセキュリティ対応が容易に行えるというメリットもある。

さらに、もう1つのメリットは「継続性」だ。従来の日本におけるシステム開発というのは、一度開発してしまえば完了で、後は5年も10年も同じシステムを使い続けるパターンが多く、途中でJavaのバージョンアップについていけなくなるといったケースが珍しくなかった。それがオープンソースを使うことで継続的にWebの新しい技術を取り入れながら、比較的低コストでシステムを成長させ続けられる。これはDrupalを使う大きな魅力だと井村氏は強調する。

「そうしたDrupalの魅力を、より多くの開発の現場に活かしてもらうためにも、引き続き日本各地にコミュニティを根付かせ、それをやがては点から線、面につなげていかなくてはなりません」(井村氏)

その足がかりとして「DrupalCamp DEN」のようなミートアップやキャンプの実績を着実に積み上げていくことが重要であり、その場を通じて全国から新しいDrupalの仲間に加わってもらいたいと力強く語る井村氏。ますます盛り上がるDrupalの新しい波に、今後も大いに注目していきたい。

フリーランス・ライター兼エディター。IT専門出版社を経て独立後は、主にソフトウェア関連のITビジネス記事を手がける。もともとバリバリの文系出身だったが、ビジネス記事のインタビュー取材を重ねるうち、気がついたらIT専門のような顔をして鋭意お仕事中。

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