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ホワイトハウス、アステラス製薬のグローバル事例ーDrupal Summit Tokyo 2017レポート

2017年11月16日(木)
鈴木 教之(Think IT編集部)

CI&T株式会社とAcquia, Inc.は10月19日、都内で“GO GLOBAL OR GO HOME”をテーマに「Drupal Summit Tokyo 2017」を実施した。ビジネス/テクノロジーの2トラック、計12のセッションが行われた中で、本稿では基調講演のセッションをお届けする。

冒頭に登壇したのは、CI&T株式会社の上田 善行氏。イベント当日はあいにくの雨模様であったが、Drupalのロゴが“レインドロップ”であることに触れながら基調講演をスタートさせた。来場者の多くはグローバルを意識した大企業、クリエイティブ・エージェンシー、その他IT系のパートナー企業などだ。同氏は2001年にOSSとして公開されたDrupalの歴史を振り返り、いまではCore(編注:Drupalの標準機能)のアクティブな開発者が8,000名以上、コミュニティは100万人以上にのぼる世界最大規模のOSSプロジェクトに成長していると紹介した。

CI&T株式会社 ビジネスディレクター 上田 善行氏

Drupalは、BBS(掲示板)を作るオープンソースとして発表されてから、CMSを中心とした開発フレームワーク、そして現在はデジタルエクスペリエンスのプラットフォームに進化している。また、クラウドやサブスクリプションと結びつくことでさらに大きな力になると述べ、主催者の1社であるAcquiaを紹介した。同社は、DrupalをPaaSとして提供する企業で、政府や大企業を中心に、オリンピックなど世界規模のイベントでの活用実績を持つ。

「Drupalはエンタープライズ向けではデファクトスタンダード。グローバルでは活用されているのに日本では事例がまだまだ少ない」(同氏)として、テーマである“go home”、つまり国内での普及を広げようと来場者を盛り立てた。

米ホワイトハウスのデジタル変革

続いてゲストで登壇したのが、オバマ政権時代にホワイトハウスのデジタル改革を推進したTom Cochran氏(現在はAcquia, Inc.のChief Digital Strategist & VP Public Sector)だ。「米ホワイトハウスのデジタル変革」と題し、オバマ政権時代の政策を振り返りながら、同氏がなし得てきたことを発表した。

Acquia, Inc. Chief Digital Strategist & VP Public Sector Tom Cochran氏

オバマ氏が選挙戦にインターネットを活用したことは、いまでは有名な話である。具体的には、2008年の選挙では500万の支持者、1,300万の会員を獲得し、10億通以上のe-mailが配信された。その投資額は5億ドルにのぼるという。また、再選を果たした2012年の選挙戦ではそれぞれ2,000万の支持者、2,100万の会員、e-mailの配信は20億通以上になり投資額は6.9億ドルであった。

オバマ氏は就任直後の2009年1月に「透明性」「国民参加型」「協業的」の3つを軸とした「Open Government Directive」(開かれた政府の誓約書)に署名をする。しかしCochran氏の話では、開かれた政府を標榜するホワイトハウス自体がまだまだ閉鎖的で、およそ効率的とは言えない状況だったという。当時は、80%以上のハードウェアが8年遅れで、e-mailは4日に1日は停止し、携帯端末は限られた人にしか配布されていなかった。また、過剰な制約が多く申請フローも複雑なものになっていた。

そこで同氏は、MVP(Minimum Viable Product)の考えに則り、規定概念を取り壊して結果をもたらすために最低限の実行可能なチームを構築しようとした。「私の部屋には6名の椅子しかないから7人以上は会議に参加できない。人を増やすことで減速してしまうからだ。」と同氏は語る。

では、具体的にどうやって政府組織を改善していったのか。その1つが2011年9月に構築された「WE the PEOPLE」、ホワイトハウスへの請願ポータルだ。ここでは50万件の嘆願書が提出され4,000万件の書名が実施され、まさに開かれた政府として国民の意見を広く取り入れていく土台となった。こうした大規模かつ公共性の高い取り組みを実現するためにはDrupalのようなOSSのテクノロジーなしではなし得ない」と同氏は説明した。

最後にホワイトハウスでの8年間から学んだこととして、

  1. 政府(組織を)を変えていくのは難しい
    実際の仕事をしながら文化を変えていくためには信頼性を確保することが大切、私は6ヶ月をかけて150名のチームメンバーとランチをした。
  2. 続いてリスク
    政府の変更には失敗が許されない。ただWebサイトでは人命がかかることは少なく失敗から学ぶアプローチを実行できる、リスクを理解しないとイノベーションを起こせない。
  3. そして最後にテクノロジー
    ホワイトハウスのテクノロジーは酷いものだった、今ではソーシャルメディアでのプロモーション、モバイルデバイスは当たり前のものになっている。
と語った。

セッション後の質疑でセキュリティに関する見解を求められた同氏は、「Drupalはセキュリティが高いが、使い方次第でもある。多くの場合はパッチがあたっていないといった、技術そのものではなく使用者による問題。プラットフォームに熟知している人がいればセキュリティレベルを高く保てる。」とアドバイスした。また、政府機関へのDrupalの浸透率に関しては、オーストラリア、エストニアなど75%の国が何らか政府内で使っている。米国に関しては、もともと数%だったものが2017年現在では40%あたりまで伸びているという。「政府がOSSを採用することによって、ソフトウェア自体のライセンスではなくソースコードやそのコミュニティに還元でき、市民とのエンゲージメントをあげることに繋がる。」と述べ、講演を締めくくった。

アステラス製薬情報システムのグローバル化

もう1名のゲスト登壇者は、アステラス製薬株式会社 情報システム部長 須田 真也氏。同氏が推し進めるアステラス製薬情報システムのグローバル化について講演を行った。

アステラス製薬株式会社 情報システム部長 須田 真也氏

国内屈指の製薬会社であるアステラスは、新薬のビジネスを中心にグローバルで活躍している製薬会社だ。世界約70カ国で販売しており、すでに海外売上比率が50%を超えている(日本の比率は36%程度)グローバルメーカーといってもいいだろう。その情報基盤を司る情報システム部では、須田氏が部長に着任してから、システム中心だったものから「情報」を核としたものにミッションを作り変えている。

さらに同氏は、情報システムのプロジェクトを経営的な観点から捉えて、構築時点では投資しているものが稼働後に回収している「年度予算は借金の借入枠」と持論を述べた。情報システム戦略としては「グローバリゼーション」「デジタリゼーション」「シンプリゼーション」を掲げていった。組織構造を例に取ると、勤務地や人種に関係なく日本と米国、英国にまたがった一体のチームを構築している。

Drupalの採用実績としては、アステラスおよびグローバルの外部向けサイトが挙げられる。情報開示に関するポリシーを新たに設定し、それになぞらえてすべてのステークホルダーに対して適時適切な配信を実現できるプラットフォームを探していた。各国で少しずつ違いがあったコーポレートサイトのリニューアルを、「新ブランド・ガイドライン適用/グローバル展開」「グローバルWebガバナンスの確立」「WebIT基盤のグローバル最適化」を軸に進めていくにあたり、DrupalとAcquiaの組み合わせが最適であろう、という回答にたどり着いたという。

なお、開発パートナーであるCI&Tとは、2〜3週間ごとのスプリント開発で、実際に動く成果物を経営に確認しながら進めていった。「早い段階で課題の発見や対応ができてよかった。」と須田は語る。実際のアーキテクチャとしては、AWSのインフラ基盤にAcquiaのクラウドプラットフォームを構築し、そのうえでDrupal上のコンテンツが管理されている。今後は、日本含む各国のサイトをこのプラットフォーム上に載せていくプランとし、コンテンツの変更を世界中で同時もしくは管理された状態で反映するために「ワンコンテンツマルチサイト」を実現すると期待をのぞかせた。

最後に同氏は、検討段階で「Drupalはオープンだから心配だ」という意見が社内で出たことに触れ、信頼していた知人からDrupalのことを聞いていたため再考した。そこには縁や運もある、と振り返った。同社情報システム部としては開発はアウトソースする方針で、今後も継続して進化を続けて欲しいとCI&TやAcquiaに投げかけた。会場からは内製化に関する質問もあったが、「そうした基盤を安心して使うことでアステラスとしての本業の製薬に注力していきたい」と述べた。

著者
鈴木 教之(Think IT編集部)
株式会社インプレス Think IT編集グループ 編集長

Think ITのX代目編集長。新卒第一期としてインプレスグループに入社して以来、調査報告書や(紙|電子)書籍、Webなどさまざまなメディアに編集者として携わる。Think ITの企画や編集、営業活動に取り組みながら、プログラミングやWebマーケティングに関する書籍も手がけている。OSSのRe:VIEWとプリントオンデマンド技術を活用したThink IT Booksシリーズを展開するなど、プラットフォームやビジネスモデルへの関心も高い。

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