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連載: 

ローカルコミュニティが力になる―Drupal Summit Tokyo 2016レポート

2016年11月30日(水)
鈴木 教之(Think IT編集部)

海外で大企業や政府機関などを中心に普及しているオープンソースのCMS、Drupal(ドゥルーパル)に関するイベント「Drupal Summit Tokyo 2016」が10月21日、都内で開催された。主催はCI&T Japan。キーノートにはDrupalの創始者であり、Acquia Inc. 共同創業者兼CTOのDries Buytaert(ドリス・バイテルト)氏が2年ぶりに来日した。

※Think ITでは2年前の初来日の際もイベントレポートインタビュー取材を実施している

今回ホストを務めるCI&Tの上田氏による開会の挨拶でイベントがスタート、CI&Tでは2年ほど前からDrupalのイベントを協賛各社と企画しているが「Drupal Summit」という名称では初の開催となる。会場アンケートでは7割ほどがDrupalの経験者だった。上田氏は「ドリス氏の講演は通常3,000人くらいのオーディエンスを対象に実施される、少人数で直接話しを聞けるのはレアケースだ」として来場者を盛り立てた。

Drupal創始者でありAcquia Inc. 共同創業者兼CTOのドリス・バイテルト氏

Drupalが世界の改善に力をもたらす

メインのドリス氏のキーノートでは4つのテーマを中心に講演が繰り広げられた。まずは、DrupalとAcuiaの歴史について。Drupalの起源は2001年、彼がまだ学生寮にいたときに遡る。最初から大きなコミュニティを考えていたわけではなく、スモールメッセージボードを作ることを考え、PHPとMySQLの2つの技術を選択した、これが人生をかけた仕事の始まりになったという。Drupalをパブリックなものとして公開し、Webの機能や将来性に対するブログで積極的な情報発信も行った。現在ではDrupalには35,000人のアクティブなコントリビューターが存在し、多くの人々の生計を立てるまでにエコシステムが成長した。drupal.org には月間200万ユーザーが訪れてくれているそうだ。

Drupalはオープンソースであることから変更を加えてさらに改良できる、OSSはライセンスフィーがかからないことも特徴の1つだ。コラボレーションを引き起こし、コミュニティによってイノベーションを生み出している。さまざまな人々や企業がよりスマートに、迅速にサイトを構築できるようになる。多くのモジュールで機能を追加することもできる。当初は趣味で作っていたが、Acquia社を起業して9年、今では700名の社員を抱える企業になったという。

続いてはケーススタディ。MTA(Metropolitan Transportation Authority)というニューヨーク州の地下鉄会社のシステムでは列車情報をDrupalに読み込ませ、そこからOpenAPIを提供し、駅のスクリーンで列車の情報を表示している。次に自動車メーカーのテスラモーターズ、自動車購入のWebサイトでは、車の設定やダッシュボードアプリなどを提供している。シスコシステムズでは、大企業向けのテクニカルサポートのサービスを構築し430Mドルの経費削減に寄与した。Weather Channel、世界Top50のアクセスを誇るWebサイトで自社サイトのみならず数多くのサイトにデータフィードを提供している、パーソナライズや多言語化に活用された。大手の製薬会社ファイザーでは、1,000を超える製品・サービスのサイトがありそれぞれをグローバルに展開している。Drupalの拡張性に注目し、製品サイトやコマースといった社外向けのサイトのみならず、自社のサービスマンが活用するような社内向けシステムにも活用している。最後はホワイトハウスが提供する「We the PEOPLE」という嘆願書のシステム、Drupalではお馴染みの有名な事例だ。

そして話題はDrupal 8の新機能へと移る。Drupal 8は約1年前の2015年の11月19日にリリースされた4年半振りのメジャーアップデート。世界中で240のリリースパーティーが開催されるくらい盛り上がったという。8ではコンテンツを作成するのがより簡単になるように、Drupalをスクラッチで書くならモバイルファーストにするという方針で向かったという。Drupal 8のcoreにコードを提供したのは3,300人にものぼり、モバイルへの最適化、モダンPHPのスタンダードに沿った開発、Symfonyフレームワークの採用など非常に大掛かりなアップデートとなった。最初の6万サイトを3ヶ月で実現し、すでに14万サイトを超えている。

新しい6ヶ月ごとのリリースサイクルにはセマンティック バージョニングを適用、すでに最新バージョンの8.1、8.2もリリースされており、Facebookが開発した「BigPipe」という高速化の手法や、「Place Block」と呼ばれる管理画面に遷移しなくてもブロックやメニュー配置をビジュアル的にリアルタイムで変更できる機能などが追加されている。「Drupal 8はゲームチェンジャーになっていく」と自信を見せた。

Drupal 8で搭載された新しい機能たち

最後に、同氏が語る将来に向けての展望だ。何十億人という人々がオンライン上で繋がり、多くのCPUやストレージなどのコンピューティングリソースが実現的になった昨今であるが、これからのテクノロジーのキーワードとして「Machine learning」「Robotics」「IoT」「Biotechnology」「3D printing」「Speech technology」「Energy storage」「Quantum computing」「Nanotechnology」などを取り上げた。

IoTやノーティフィケーション、モバイルのコマースなどでは、Webページを介することなく直接情報を届けることができるとし、顧客データとコンテンツからコンテキストを解析して体験を届けるような仕組みを紹介した。例えば、すべての人々に同じ情報を見せることは顧客利益とビジネス価値が低い、パーソナライズをデジタル世界で展開していくことで、B2CからB2Oneの世界がやってくるとした。また、Amazon Echoに組み込まれている音声認識など、新しいUX、プラットフォームの変化は毎5〜10年でやってくる、他の企業の動向を見ても対話的なUIがその次になる可能性があると期待を覗かせる。デモムービーでは、音声でAmazon Echoに注文した商品が、Drupal8のバックエンドで処理されモバイルに通知を送る様子が映し出された。

同氏は「Drupalを活用することが、世界の改善に力をもたらす」としてキーノートを締めくくった。

Drupalにまつわるその他のセッション

Acquiaが考えるエンタープライズクラウド

続いて登壇したのは、Acquia Inc.のアジアパシフィックのアーキテクトリーダー、デビッド・ピーターソン氏。ドリス氏と同様にシスコやUnity、Twitter、Pinterrest、テスラ、Box.comといった大手企業のDrupal導入事例を紹介していったが、「重要なのはどうやってDrupalを活用するのかという点だ」(同氏)。

そこで同社の「Acquia Lightning」という開発向けのプラットフォームサービスを紹介した。DrupalをベースにしたPaaSと言えば分かりやすいだろうか、汎用性をもたせることができるレイヤーだと解説する。Lightningは、ドラッグ・アンド・ドロップレイアウトやメディア管理、ワークフローやプレビューの強化といった機能をパッケージングしたディストリビューションとして提供されており、Drupalと同様に無償で利用できる。

Acquia Inc. Asia Pacific & Japanのデビッド・ピーターソン氏

次に紹介されたのは、大規模サイトの構築管理を容易にする「Acquia Cloud Site Factory」。例えばグローバルでサイトを管理する場合に、新機能を各国サイトに反映する際のローカライズにこれまで3ヶ月かかっていたものを、コードベースでベースのサイトイメージをコピーすることで1週間程度に短縮できるようになったという。既存のサイトをコピーしてローカライズすることから、他のサイトに同時並行できること、オーストラリアからフィリピンにロールアウトしたい、マニュアル管理していたのではなく、1つの画面で統合管理瞬時にコピーできる。

また、オーストラリア政府と共同開発したという「Acquia Cloud Platform」の紹介では、1年半ほどで既存のすべてのサイトをマイグレーションし100近くのサイトを統合管理できるようになり、ローンチまでの速度が向上した例などが発表された。

Acquia Cloud Platforumのデモ画面、開発環境からステージング、本番環境の統合的に管理できる

アジャイル・グロース・エージェンシーを標榜するCI&T

CI&Tはブラジルのサンパウロに本社を持つ、社員総勢2,600名ほどで70%がエンジニアのグローバル企業。”全てはデジタルのビジネスになり、ITはプロダクトになる”というエンタープライズの未来に向けて、リーン・アジャイルプロセスを全面導入していると語る。コカ・コーラのプロモーション、モトローラのコマース、グーグルの業務システム、itauのアプリといった大企業の事例を紹介した。CI&Tでは300名のDrupla技術者を抱えており、ジョンソン・エンド・ジョンソンやファイザーなどのデジタル戦略とデリバリーも支援している。

CI&T Japan ゼネラルマネージャーの上田 善行氏

ではなぜ大企業がDrupalを使うのだろうか? 同氏は、海外では先ほど挙げたような事例があり、マルチサイトや多言語サイトの基盤、そしてグローバル展開がポイントになっていると説明した。また、CxOと呼ばれる企業の経営陣に選ばれる理由として、1. 柔軟性:世界各国のモジュールでカスタマイズが可能、2. エコシステム:開発者や開発会社が多くコミュティが成長しておりこれから更に広がっていく、3. プラットフォーム化:(グローバルサイトの場合)これまでは各国の担当が各社独自のCMSを導入していたものから、例えば本社手動のディストリビューションを配布したり、集約して多言語化できるようになる、4. スケーラビリティとコスト:オープンソースであるがゆえに使うほどコストが下がる、といった点を挙げた。セキュリティに関してはアメリカ国防総省やホワイトハウス、オーストラリア政府機関の事例が有名だ。

Drupal 8で開発した新メディアDigital Peoples

続いてCI&Tが運営するオウンドメディアである「Digital Peoples」の紹介があり、編集長の中島 浩則氏が登壇した。Digital Peoplesは、ビジネス、テクノロジー、プロセス、デザインに関する情報を提供するWebサイトで、B2Bのエンタープライズの認知から解決まで、読者レベルに応じて段階的に、読者利益や課題解決を追求したコンテンツが特長(同氏)。海外では自社内にエンジニアやデザイナを内製化してスピードを早くしているが、日本では事業部門や情シス、経営との縦割り組織が多く開発体制もSI依存が高い。国内から海外に打って出ているサービスも少なく、「このままでは日本が乗り遅れていくのではないかと危機意識を持った」と、同サイトの立ち上げの背景を語った。

新サイト「Digital Peoples」を紹介する中島 浩則氏

Drupalで中小のマーケットも開拓していきたい

ここからは協賛企業セッションにうつり、最初にジェネロ株式会社の竹内 大志氏が登壇した。同社は、Drupalをビジネスの核とするAquia社がガートナーのマジック・クアドラントでTop 3のリーダーになったことに着目し、この勢いがDrupal 8でさらに加速されていくだろうとDrupalに注力し始めたという。DevShopというディストリビューションモデルによってサポートベンダーが出てきていたり、分野別のSaaSのようなビジネスが成り立っていく可能性があると、ビジネス面からDrupalを解析。「大企業向けと言われることが多いDrupalだが、中小のマーケットも開拓していきたい」と抱負を語った。

Drupalでのビジネスの立ち上げについて語るジェネロの竹内 大志氏

Drupalは単なるCMSにとどまらない

続いて登壇したのがDrupal専門をうたうANNAI株式会社の紀野 恵氏。「Drupalを選ぶのは、デジタルの世界においてゴールを実現するために最適なツールだから」と同社の方針を説明し、Drupalを単なるCMSとは考えておらず、Webのプラットフォームや開発プラットフォームとして捉え、Drupalの幅を広げていきたいと語る。NTTコミュニケーションズのIoTプラットフォームやAPIデベロッパーポータル、MauticとのAPI連携などの事例を織り交ぜつつ、Drupalの最大の魅力はコミュニティでありムーブメントであると説明した。また日本のDrupalコミュニティを牽引する立場としてDrupal Japan Associationを立ち上げ、2017年1月にDrupal Camp Japan in Tokyoを開催予定だという。

Think ITのWeb連載でもお馴染みのANNAI社の紀野 恵氏

ドリスに聞いてみよう! Q&Aセッション

プログラム最後は再度ドリス氏も登壇しQ&Aセッションが行われた。ここからはモデレーター兼通訳としてCI&Tの川渕 洋明氏(写真右端)にマイクが引き継がれた。一問一答形式で振り返ってみたい。

左からジェネロ竹内氏、ドリス氏、ANNNAI紀野氏、CI&T川渕氏

1. なぜオープンソースに? ライセンス形態の変更は考えなかったのか

Dries:OSSにしたことに疑問はまったくない、それが最高の選択だと。LinuxのコントリビューターをやっていたこともありDrupalにはそのコードをGPLで埋め込んだため自然発生的にそうなった。紀野(質問者):モジュールも含めてDrupal.orgで管理されているのも大きい。

編注:Drupal.orgで配布されているものはモジュールも含め GPL version 2 で管理されている

2. Drupalは中小企業をターゲットにしていないのか

Dries:Drupalは複雑な構成を持っているサイトに適している、スタートアップのような小さな会社でもグローバルな大企業でも複雑さが伴うケースもある。竹内(質問者):Dries氏から直接どういった方針が聞けたのかは良かった。

3. 日本市場についてどう思っているか、日本のコミュニティや企業に期待するものはなにか?

Dries:2年前と比べてSMB(中堅・中小の企業)やコミュニティの様子が前進しているのを感じている。ローカルのリーダーシップが推進して、エコシステムが発展していく必要がある。紀野(質問者):我々も明らかに伸びているのを感じる。

4. Drupalの資格は日本語化されないのか? 日本の技術者がDrupalを学ぶためにどうしたら良いのか

Dries:資格の多言語化はしていないが、今後ローカルのパートナーシップで日本語化していくことは考えられる。

5. DrupalはオープンウェブだがFacebookなどのクローズドウェブをどう考えるのか、どちらが勝つのか

Dries:自分の子どもや孫にはオープンウェブを楽しんでほしい、(クローズドなSNSである)Facebookが巨大になりすぎてしまってオープンネスではないことは悲しい。

6. Mauticなどのファンドをされてますが、他に面白いOSSプロダクトはありますか

Dries:マーケティングオートメーションにおけるMauticのようにソフトウェアすべてのジャンルにおいてOSSの可能性があるのではないか。Eコマース、ヘッドレス、マイクロサービスなど。OSSにはビジネスを良くすることはもちろん、コミュニティへの反映も重要なこと。

7. リリースサイクルが後方互換を重視するようになった、これは進歩がスローになってきたということか

Dries:より速いテンポで機能が提供されるのは嬉しいことで、コミュニティ活動が活発になっていく。(後方互換性をもたせたことで)今後Drupalがバージョンアップしてもユーザーベースが増え続けることに繋がる。

8. DrupalCon Japanはいつごろ実現できそうでしょうか

Dries:やるなら早いほうがいいでしょう(笑)。開催候補地はDrupal Associationで検証されるが、日本のコミュニティのサポートが必要になる。DrupalConは毎年米国と欧州で開催されているが、最近は南米やアジアでの実績もある、コミュニティやアソシエーションの受け入れ体制が重要。

CI&TやAcquia社員のほか、Drupalへの貢献者として登壇する日本のコミュニティメンバーたち
著者
鈴木 教之(Think IT編集部)
株式会社インプレス Think IT編集部 編集長

Think ITの第X代目編集長。新卒第一期としてインプレスグループに入社して以来、調査報告書や書籍(紙/電子)、Webなどさまざまなメディアに編集者として携わる。Think ITの企画や編集、営業活動に取り組みながら、プログラミングやWebマーケティングに関する書籍を手がけている。OSSのRe:VIEWを活用した電子書籍と紙書籍のハイブリッドな出版サービスを構築するなど、プラットフォームやビジネスモデルへの関心も高い。

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