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  インタビュー

「新人教育向けカリキュラム」をステップボードに、さらなるマンパワーの強化・育成を加速(後編)

2024年1月30日(火)
工藤 淳

ネットワーク社会の広がりで、都市圏と地方の格差は縮まりつつあると言われるが、人材の採用・育成となると、まだまだ現実は厳しいと感じている企業がほとんどだろう。そうした中、東京に本社を置きながら2018年には富山県に新事業所を開設。さらに最近は研修・教育をそちらに集中させつつあるのが、クリエーションライン株式会社だ。同社では2023年、新しい「新人教育カリキュラム」による研修を、この富山事業所を拠点に開始した。後編では、研修を受講した若手社員や、採用・人事担当者の声を聞く。

●クリエーションライン株式会社 富山事業所
https://twitter.com/cl_toyama

●前編はコチラ↓
https://thinkit.co.jp/node/22709/

冒頭の画像は、夜の富山城。年末に向かう11月中旬にはライトアップが始まっていた。冬の凜とした空気の中の佇まいは非常に美しい。

受講者3人が協力して課題に取り組む体験に
一番の熱気を感じた

新しい「新人教育向けカリキュラム」による研修の、第1回目を受講した若手社員は3名。そのうち1名は東京からのリモート参加で、残り2名が今回インタビューに応じてくれた富山事業所のスタッフだ。由井氏は、高専を卒業する際に、仲の良い研究室の先生から勧められてクリエーションラインに入社。もう1人の柴田氏は、Twitterのインターン募集を見て応募し、そこで入社を決めたという。2人とも、2022年の新卒入社だ。

「入社の最終的な決め手は、生まれ育った地元の富山で働けるということ。私もインターンシップをさせてもらったのですが、すごく雰囲気が温かくて、世間一般で聞く会社のイメージよりずっとアットホームな感じなのが良いなぁと思って、ここに入ろうと決めました」(由井氏)

「インターンの時に、社員同士で切磋琢磨しているけれど勝ち負けじゃなくて、それで失敗してもまた頑張ればいいよという、諦めずに挑戦したくなる雰囲気があると思ったので、そこが気に入って入社しました」(柴田氏)

クリエーションライン株式会社 富山事業所開発チーム エンジニア 由井 秀弥氏(左)、柴田 凌輔氏(右)

新人教育向けカリキュラムには、さまざまな研修が用意されているが、2人が一番楽しいと感じたのは、2022年7月頃に実施したPBL(Project Based Learning)というプロジェクト型式の実習だったという。これはモバイルアプリを作る記事を書きながら、並行してスクラムの研修も受けるという内容だ。

「このとき、初めて3人が協力して1つの課題に取り組みました。僕は記事などを書いていたのですが、そのスクラムが3日スプリントという速さで、毎日が1分1秒無駄にできないという感覚でした。事業所長やスクラム経験者の先輩も加わり、全員が意見を出し合って、時には意見の食い違いもあってそこをどうするかを真剣に議論したり、研修の中でも一番熱気を感じた体験でした」(柴田氏)

「システム開発におけるチームワークをどう考えるか」を学んだ

わずか3名とは言っても、技術系の学校出身者もいれば、文系でほとんど経験のない人もいる。新卒研修はどうしても初歩の人を取りこぼさないようレベルを設定しがちな分、高専でプログラミングを学んだ経験のある由井氏には、物足りないところもあったのではないだろうか。

「確かに自分は学校で教わるレベルのプログラミング知識なら、ほぼ習得していました。でもそれと業務や商用ソフトウェアに使う場合の書き方は、構成などが少し変わってきます。その学校と実務のギャップを学ぶ機会が非常に多くて、自分としてはすごくためになったし、今担当している業務でも使えるところが色々あるので、結果的に新しい知識を身につけることができて面白い研修だったと思っています」(由井氏)

一方、難しいと感じたのは、システム開発におけるチームワークをどう考えるかだったと2人は口をそろえる。特にクリエーションラインではチーム開発を重視しており、研修のカリキュラムでもそこを意識しているという。研修の意図と、これまでチームでプログラムを書いた経験のなかった新人の意識の違いが、おそらく「難しさ」という言葉になっているのだろう。新人向け教育を考える上では、重要なヒントになるエピソードだ。

由井氏は今回、基礎の大切さを改めて実感できたと明かす。研修ではLinuxを始めネットワーク、あるいはパソコンとはなんぞやといったところまで、ITに携わる者が知っておくべき「基礎の基礎」を叩き込まれた。それが応用の連続である今の業務に生きていると感じることが多いという。

また柴田氏は「研修で一番勉強になったのは、分からないことは必ずあるので、分かっていないということを、はっきり伝えて意思表示する大事さ」だと語る。

「やはり会社で仕事をする場合、業務を確実に進めるためにみんな協力しているので、たとえわからないというネガティブなことでも、はっきり意志表示するのは何より大事です。そのことを理解してから、1人で悩まないというのを意識するようになりましたね」(柴田氏)

ITの技術的知識だけでなく、
社会人としての常識やマナーも必修

「新人教育向けカリキュラム」では、ITの技術以外にも社会人としての基本をまなぶプログラムが盛り込まれている。例えば会議や打ち合わせの席での「上座、下座」のような席次のマナーや、それこそ挨拶の仕方など、しかるべき場所で恥をかかない、失礼を働かないための基本を教え込まれる。社会に出れば、エンジニアである前に一人前の社会人としてのふるまいが要求されるのは言うまでもない。実際に受講した由井氏も、その必要性は十分に認めている。

「正直、最初は『そんなの必要かな』と思うこともあったのですが、自分たちのような若い人だけで仕事をしているわけではないし、取引先もご年配の方やいろいろな考え方の方がいます。そういう方々への礼儀を覚えていて、やはり損はないと思います」(由井氏)

そこは柴田氏も同感だ。特に富山県の会社は伝統を非常に大切にする企業が多く、そうした会社はこれからIT導入を進めていくというところも少なくない。

「そういうお客様に接する機会があったら、名刺交換1つとってもちゃんとできるかどうか。こちらが真剣に向き合っていることが先方に伝わるかどうかで、お客様がIT導入・活用に前向きな気持ちを持ってくださるかどうかが大きく変わっていくと思います。自分も現場に入って1年経ち、そうしたことが仕事の力量の差につながるのだと思うようになりました」(柴田氏)

採用だけでなく入社前・入社後を通じた
育成のサポートを目指す

インタビューの最後は、新人研修とは切っても切れない採用担当者の話を伺ってみよう。クリエーションラインの採用・人事を担当する辻 佳那氏は、現在の新卒採用の状況はさらに厳しさを増していると明かす。

「優秀な人材を求めるのはどこも同じで、採用する側の倍率はかなり厳しいものがあります。特に新卒の場合は、企業のネームバリューやイメージが大きく影響するため、そういう要素が特に大きいわけではない当社はなかなか苦労します」(辻氏)

クリエーションライン株式会社 富山事業所 辻 佳那氏

だが富山事業所の場合、Uターン指向の人も含めて「地元で働きたい」人材に対する訴求力が強い武器になっているのも事実だ。富山出身やいったん県外に出ても戻りたい人たちが一定数いて、そこが手堅い応募者層になっているという。またクリエーションラインの本社は東京だが、研修はほとんど富山で行われている。このため全員が東京で採用された場合も、研修だけは富山で一定期間受講することになっている。

「別に富山事業所が研修施設という位置づけではないのですが、カリキュラムや指導が手厚い分、研修を受講した人が現場で活躍する例も多く、また会社としてもそういった教育体制を特定の拠点に集めて、効率よく育成できる点に強みがあるのではと、人事担当としては考えています」(辻氏)

一方で、人事の管理体制は、拠点を超えてより一体感のあるものになりつつあると辻氏は言う。これまで富山事業所の採用・人事担当者は、本社の業務を手伝うというイメージだったのが、現在は富山も全社的な採用に関わるように変わってきているのだ。

「東京の採用に関わるのはなかなか大変ですが、やはり何か新しいことにチャレンジさせてもらえるのはありがたいと感じています。また富山事業所は、人数も規模も確実に拡大しているので、採用面で貢献するのはもちろんですが、採用して終わりではなく、入社前から入社後もどんどん活躍してもらえるためのサポートにも、これからは力を入れていきたいと願っています」(辻氏)

恒例となったメンバーの集合写真。前回は4名だったが、今回は7名で。富山事業部は人も会社も日々成長しているのだ

* * *

今回の「新人教育向けカリキュラム」をステップボードに、技術力・開発力強化に向けた人材育成を加速しつつある富山事業所の、さらなるチャレンジに注目していきたい。

フリーランス・ライター兼エディター。IT専門出版社を経て独立後は、主にソフトウェア関連のITビジネス記事を手がける。もともとバリバリの文系出身だったが、ビジネス記事のインタビュー取材を重ねるうち、気がついたらIT専門のような顔をして鋭意お仕事中。

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