エンジニアの成長に欠かせないのは「何かを面白がれる気持ち」を持っていること

2024年2月14日(水)
小林 道寛 (こばやし みちひろ)伊藤 隆司(Think IT編集部)
第1回の今回は、自己紹介として、エンジニアとしての原点や、社長になってからの人づくりの考え方について語って行きます。

今の時代、若手エンジニアが勉強したいと思えば、いくらでも教材や資料はインターネットで手に入る。だがそんな便利な時代であっても、やはり先輩たちの生きた経験に裏打ちされたアドバイスは貴重だ。今回から始まる本連載では、情報インフラ系SIerとしての実績の一方で、現場で活躍できるエンジニア育成を目指した独自の技術研修「BFT道場」を展開。若手技術者の育成に取り組む、株式会社BFT 代表取締役 小林道寛氏に、ご自身の経験に基づくスキルアップのヒントや、エンジニアに大切な考え方などを語っていただく。

いい加減だった新人時代に
部長からの厳しいひと言が今の自分の出発点

皆さん、はじめまして。株式会社BFTの小林道寛です。

連載の初めにあたって、少し自己紹介をさせてください。私が代表取締役を務めるBFTでは、いわゆる情報インフラと呼ばれるITシステムの開発をはじめとしたシステムインテグレーション(SI)と、一方ではこれからの時代を支えるIT人材の育成に取り組んでいます。

情報インフラとは、例えば鉄道や銀行、あるいは携帯電話のように、現在の社会の仕組みを根底で支えるITシステムです。そのシステムを開発・運用するエンジニアもまた、世の中に欠かせない大切な人的インフラと言えるでしょう。私たちの「人とシステムを作る会社~情報インフラで社会を元気に」という会社スローガンにも、そうした考え方が込められています。

さて、私の自己紹介でしたね。こんなシステム開発の会社のトップなら、さぞかし若い頃からプログラミングなどに関心を持って、エンジニアを目指して腕を磨いてきたんだろうと思われるかもしれません。ところが私は学生時代、全くそちらには興味がなく、大学も専攻は文学部哲学科という人文系の最たるもので、就職先も証券会社が志望でした。

そんなわけで就活も大手証券会社を目標に頑張ったのですが、実際に各社を回ってみるうちに「この仕事は自分には向かないな」と分かってきたのです。そう悟ったら、このまま続けるわけにはいきません。内定をいただいていた会社もあったのですが、すべてお断りすることに決めました。それでアルバイト先の知人から誘われて受けて、内定をもらっていたシステム会社に入ったのです。

その会社は、あるテレビ局のシステム子会社でした。私の担当は通販のシステム運用でしたが、言われるまま適当にやっていた入社1年目のある日、部長に呼び出されました。あまりのいい加減な仕事ぶりに「いますぐ辞めるか、それとも心を入れ替えて働くか考えろ」と言われたのです。さすがにこの言葉には目が覚めて、初めて「真剣にITをやってみよう」と思いました。この部長との出会いがなければ、結局はダメ社員の烙印を押されて、じきに辞めていたかもしれません。今でもその厳しさと同時に、やり直す選択肢をくれた温かな配慮に感謝しています。

心を入れ替えて腕を磨きながら
OA化など新しい試みにもチャレンジ

部長の言葉通り「心を入れ替えた」私は、一人前になるためには自分だけの得意分野、専門分野を作らなければと考えました。それには誰もやっていないような難しいことを選べばライバルも少ないだろうと、ADABAS(アダバス)というデータベースを選んだのです。これを軸に、データモデルなどの概念などを学んでいったことが、後々役に立ちました。

その次の開発部門に移ったときに、また転機がやってきました。ある若い同僚が「親会社のテレビ局をOA化しよう」と誘ってくれて、面白そうだと感じた私はすぐに意気投合しました。親会社の人も始めは「何を言っているのか?」という感じでしたが、オフィスにOA端末が入ってくると「これは便利だ」となり、たちまち端末の台数も増えていったのです。

さらにイントラネットが導入されると、みんな朝出社するとすぐにパソコンを立ち上げて、システム上に公開されている前日の視聴率を確認し、その数字に応じて次の打ち手や企画を考えるというように、彼らの働き方も変化していきました。それを目の当たりにして私も、自分の仕事が人々にこういう影響を及ぼせることに感動し、「言われたままやるよりも自分で考えて何かを作る仕事が面白いな」と思うように変わっていったのです。

現在のBFTに移ったのは2004年でした。その当時はまだ10人くらいしか社員がいなくて、専門分野もセキュリティやSIなど試行錯誤を繰り返していました。それがいつか社員の中から「自分たちが努力しても報われない仕事はやめよう」という声が出てきて、改めて話し合った結果、インフラ基盤の開発が選ばれました。当時社内にはハイエンドなUNIXの開発技術を持った人たちが複数いて、それが差別化のポイントになると考えたのです。

「システム開発は人だ」
~システムの先にいる人々に想像力を働かせよう

そろそろ本題の、若い読者の皆さんに参考になる話に移りましょう。若手エンジニアの関心事といえば、やはり「いかにスキルアップするのか」ということですが、当社には大きく2本の事業の柱があります。1本は、情報インフラを中心としたSI。そしてもう1本の柱が「BFT道場」という、現場で活躍できるエンジニア育成を目指した独自の実践型IT技術研修の提供です。

これは2017年から始まったサービスですが、元々は「自社で採用したIT未経験者をエンジニアとして育てよう」と始めた社内の人材教育プログラムでした。それを、たまたまIT要員の育成に悩んでいた知り合いの企業に「よかったら試してみては」と提供したところ、非常に評判が良かったので、それならもっと多くの企業に活用していただこうと、現在の「BFT道場」という形に整備して公開したのです。

このように当社が人材育成という領域に関心を持ち、力を注いでいる背景には、私自身の「システム開発は人だ」という考え方があります。実は私も30代くらいまでは、課題を解決するのは技術だと思っていました。そしてお客様の課題が解決しないのは、技術が足りないからだとも。しかしさまざまなお客様のSIを手掛けるうちに、「自分は技術の世界の中でしか課題を捉えていなかったのでは?」と思うようになったのです。

考えてみれば当たり前ですが、システムを使うのは人です。そしてその先にはシステムを用いて課題を解決したいと思っている人々の集まり=社会があります。そう考えると、本当に課題を解決しようと思うなら「何が課題なのか?」の次は「このお客様は、その課題をどうして欲しいのか?」「そうなったら嬉しいのか、嬉しくないのか?」という問いが来なくてはなりません。

昔、商品の配送管理システム開発を担当したことがありました。もちろんこのときも「お客様の要望をよく聞いて、それを必ずかなえよう」と意気込んでいました。でもそのシステムの機能が、物流(ロジスティクス)という形で社会全体に適用されるものだという発想はなかったのです。この「発想」を例えば、配送管理が的確でないと荷物が途中でなくなってしまうと気づく「想像力」と言い換えても良いでしょう。

行方不明になった荷物が納期厳守の機械の部品だったら、荷主のメーカーだけでなく、エンドユーザーや関係部署にまで影響が及びます。あるいは単身赴任のお父さんから子どもたちへのプレゼントだったら、せっかくの気持ちや笑顔が消えてしまうでしょう。しかし当時の私は、顧客の要求する機能やサービスを形にできればそれがゴールだと思っていました。もしその先にいる人々にまで思いを広げられたら、もっと違うものづくりができていたかもしれません。そうした反省と気づきが、今の「システム開発は人だ」の根本にあります。

危機の時代を乗り切るためにも
人間力あふれるエンジニアの教育は急務

人の話が出てきたところで、では、その人をいかに育てるのか? 「教育=人づくり」について、私の考えをお話ししたいと思います。

まず、ビジネスの視点から。企業や組織がITを導入・活用する主な目的は、長いこと「コスト削減」でした。ITで効率を上げて生産性を向上させ、結果としてコストを抑えて利益を増やすという考えです。しかしこれからの時代のITに求められるのは、もはやコスト削減ではなく生産性向上だと私は思っています。それは、世の中のDX推進の大きな潮流を見ても明らかです。

ITやデジタル技術で生産性を飛躍的に向上させ、ビジネスの成長はもちろん新たな事業創出までを目指す時代には、エンジニアにもさらに高い力量が求められます。その力量とは、デジタルの技術だけではありません。まさに上でも触れた「システムの先にいる人々」を理解する想像力まで含めた「技術」です。というのも、お客様のビジネスを大きく変革し新しいステージに進ませるには、これまで以上に深くお客様の中にエンジニアが入っていかなくてはできないからです。

今、日本の経済や産業は、非常に危うい場所にいると思います。長年にわたって売上が全く伸びていないのに利益だけは上がっている。これはコスト削減の賜物です。しかし肝心の売り上げが伸びなければ、それを超えて利益が増えることは絶対にありません。すでに未来に向かう道は消えかかっています。一刻も早く、売上そのものを伸ばして生き残っていく方向に頭を切り替えないと、さらに危機的な状況に陥ってしまうのは間違いありません。

そういう時代にあって、人々のために仕事のできるエンジニアになるには、本業の技術力はもちろんですが、しかしそれ以上に、今私たちが置かれている状況を正しく把握し、どこに向かって進むべきか、目標は何か、そのために何をすべきかを考え、システムを通じて人々に価値を提供できる。そういう「人としての力量」が欠かせません。

とは言え、私自身も社長になって間もない頃は、コストや利益を中心に考えていました。しかし、社員一人ひとりの「稼ぐ力」を伸ばすにはどうすればよいかを考えるようになって、「頑張れ」と言うだけではダメで、みんなが力を発揮できる仕組みを会社として作る必要があると気づきました。

仕組みというよりは「価値観」かもしれません。何が本当に大事なのかを知れば、人はおのずと動き出すものです。しかし動くには知識や技術が欠かせません。それが、私が「教育=人づくり」を大切なものと考え、当社の事業の柱に据えている理由です。

「現場で活躍できるエンジニアを育てる」
をコンセプトに社内研修を刷新

最後に、今回お話してきた人材育成の考え方を、当社のエンジニア育成に即して、もう少し具体的にご紹介したいと思います。

私が役員になったばかりの頃は、人材採用担当の役員を兼務して経験者採用を中心にした採用を行っていました。経験者を採る目的は、エンジニアチームの拡大です。当時まだ社員が100人くらいでしたが、それだと最大で10人体制のプロジェクトまでしか受注できないのです。もっと大きなプロジェクトを受注するには、エンジニアを増やして技術陣の分母を広げるしかありません。しかも大規模案件に応えるには、常に自前で人数を揃えて置く必要があって、とにかく即戦力になる経験者をメインに採用していたのです。

社員が200人くらいになった頃、また転機が訪れます。ある程度の規模の体制ができて実績も増えてきました。お客様からの期待度も上がってくるにつれて、経験者に限定せず未経験者でも基礎からしっかり教育すれば、将来の戦力として期待できるのではと思うようになったのです。実はそれまで少数ながら未経験者採用も行っていて、彼らの中には志もあり、頑張って勉強して会社に定着してくれる人も何人もいました。それなら、いつまでも経験者にこだわるのは正解ではないと気づいたのです。

未経験者を積極的に採用することにして、まず取り組んだのは、社内の人材教育研修を見直して、目的に合った内容に刷新することでした。そのときに考えたコンセプトが「研修を受けた人が、実際にプロジェクトに入ってから活躍できる内容のものを作ろう」というもの。当時、世の中にあったインフラ系研修は、ほとんどが資格取得か、その製品販売のための研修でしたが、当社の人材教育に用いる以上、現場で活躍できる知識や技術が身につくものを作りたかったのです。これは現在の「BFT道場」にも、しっかり受け継がれています。

この研修の最大の特徴の1つが「何かおかしいと感じる嗅覚を育てる」ことです。実際のシステム開発・運用では「こういう局面でこの状態はおかしい!」と気づく、野生動物の嗅覚のような力が働かないといけません。システム全体を見渡して、各項目が論理的に合っているかをチェックするだけでは、異常事態を見逃してしまいかねない。座学の知識だけでは闘えないのが、システムの現場なのです。

私自身の経験でも、現場で実際にシステムに触れて、繰り返し考え、悩んだからこそ身についた嗅覚や勘、そして実践的なノウハウが数えきれないほどあります。そこで、この研修では最初から全部優しく教えるのではなく、最初に与えられたヒントをもとに受講者が自分で調べ、考えるなかで実践的な力をつけていくカリキュラムを心がけました。詳しい内容は、この研修が「BFT道場」として公開されたときの記事があるので、関心のある方はご一読ください。リリースが2017年なので、もう7年前の記事ですが、基本的な考え方やカリキュラムの特徴などは今でも変わっていません。

そうそう、基本の考え方といえば、私がエンジニアにとってすごく大事なことだと思っているのが「何かを面白がれる気持ち」です。技術者として成長していくためにはいろいろな経験を重ねていく必要があるし、正直なところ地味な努力の繰り返しや、挫折しかけることもあるでしょう。そのとき自分に何か「面白い」と思えることがあれば、きっと諦めずに続けられるはずです。ITやデジタル技術以外の、世の中の話題や趣味でも何でもかまいません。ぜひ皆さんも自分の中に「何かを面白がれる気持ち」を持てるように、情報や興味のアンテナを高くして日々努力してください。

* * *

今回は連載の第1回とあって自己紹介などをしていたら、ちょっと長くなってしまいました。でも私のエンジニアとしての原点や、人づくりの考え方は大体お分かりいただけたかなと思います。少しでも興味を感じてくださった方は、ぜひ次回もお付き合いください。

著者
小林 道寛 (こばやし みちひろ)
株式会社BFT 代表取締役社長
1991年に株式会社フジミックに入社。親会社フジテレビジョンの情報システム局で、親会社やグループ会社のシステム構築と運用を経験。2004年に株式会社BFTへ入社。エンジニア部門のマネージャを経験後、取締役に就任。2015年に代表取締役社長に就任。システムづくりを離れ「人とシステムをつくる会社」をつくり続けている。
著者
伊藤 隆司(Think IT編集部)
株式会社インプレス Think IT編集部 担当編集長
IT系月刊誌、資格系書籍、電子書籍、旅行パンフレット等の企画・編集職を経て現職。Think ITのサイト運営と企画・編集、「CloudNative Days」の運営に携わりながら、エンジニア向け書籍の企画も手がける。テクノロジーだけでなく、エンジニアの働き方やキャリアップなどのテーマに造詣が深い。

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