モバイルツールで1台のPCから解放される
機能を極限までそぎ落としたモバイルツール
iPhoneとは対照的に、pomera(http://www.kingjim.co.jp/pomera/)はそのそぎ落とされた機能美でガジェッターたちの心を奪ったモバイルワープロです。折りたたみのキーボードとディスプレーを有していますが、インターネットをつなぐことができなければ、BluetoothでPCにデータを送ることもできません(USBで可能)。文字を打つことだけに特化された機器と言えます。そのpomeraが発表直後からブログで大いに話題となり、各種メディアに開発者のインタビューが数多く掲載され、量販店では品切れ状態が続くほどです。何がそんなにウケたのでしょうか。
筆者もpomeraを実際に触ってみましたが、まずなんといっても、ラバー塗装が施された外面のマットな質感が、異常に良いです。もっと堅い、DSのようなものをイメージしていましたが、良い意味で裏切られました。質の高い文房具として、常にそばに置いておきたくなるプロダクトに仕上がっています。
サイズは、薄さうんぬんよりむしろ、物理的な厚みがあって重厚感があります。それは多少質感のせいもあるかもしれません。持った感じはちょうどシステム手帳に近いです。キーボードをたたいた感触は、現行のMacキーボードに近く、浅いキーを軽いタッチでサクサク打っていけます。小さい製品サイズによる先入観から、キーピッチの狭さが気になるところですが、Macユーザーにとっては、むしろキー配列の微妙なバランスの方が違和感があるかもしれません。
pomeraはその機能でできることに対して価格が割高なのは否めません。しかし、事実メーカーも万人受けする製品を作ろうとした訳ではないのですから、プロダクトとしての作り込みが甘くなるくらいなら、多少コストがかさんでも、細部までこだわり抜くという選択をした方が、結果的にユーザーの納得感を得られるはずです。そして、実際にpomeraはそのようになっていました。実機を見て、触って、がっかりさせられることは少なくありません。
ツールが導くワークスタイル
pomeraの良さの本質は、心理的雑音の排除にあると思っています。電話の鳴る音など物理的雑音のほかに、メールやメッセンジャー、あらゆるWebやRSSについつい気が行ってしまうという、心理的雑音がPCにはあふれかえっています。pomeraはその心理的雑音を排除して、文章を打つことだけに専念させてくれます。
また、文房具のひとつとして気軽に持ち歩けるサイズでありながら、ノートパソコン並みのキーボードを備えています。移動中の車内であろうが、旅先であろうが、pomeraを開いた瞬間から即座にスピーディーな文章入力をおこなうことができます。
特に、文章を書くことの多い人たちにとっては、心理的雑音を排除してくれるpomeraをお供に、物理的雑音の少ないお気に入りの場所に身を置くことで、快適な文筆作業の環境を得られるのではないでしょうか。これが、もうひとつの「PCからの解放」です。
携帯電話をはじめとして、私たちが持つモバイルツールは、高機能化の一途をたどってきました。それに伴って、ユーザーに与えられる情報やサービス、機能は豊富になり、バリエーションも豊かなものとなりました。
しかし、それらを摂取する私たちの方が飽和状態に陥る可能性もはらんではいないでしょうか。「情報」や「場所」から離脱することで、脳ミソに余白をつくりつつ、横方向に広げていた思考を縦の方向に深めていくような意識的シフトチェンジも、日常的に必要だと考えます。そんなワークスタイルやライフスタイルを私たちユーザーに、暗に提案してくれるようなツールの登場を、これからも楽しみにしています。