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事例から学ぶBCMの本質

第1回:BCMとは何か

著者:みずほ情報総研  多田 浩之   2007/1/12
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BCPのルーツとは

   最近、BCPに関して数多くの解説書も出ていますので、BCPの内容についてご存知の方は多いと思います。ではBCPのルーツは何であるかご存知でしょうか。

   実はBCPのルーツは、冷戦の初期、すなわち1950年代にまで遡ります。これは米国の国家機密に属する事項でほとんど公にされていない話なのですが、米国では1950年代から、旧ソ連から核攻撃により国土が大きな被害を受けた際に、少なくとも6ヶ月間耐えられるように、憲法に基づく政府の存続を保障することを目的とした連邦政府存続維持計画(COG:Continuity of Government)が準備されていたそうです。

   その後、1962年に「キューバ危機」が起こりました。これは旧ソ連がキューバに核ミサイルを配備したことから、ケネディ米国大統領がキューバから核ミサイルを撤去しない限り、旧ソ連との対決を辞さない態度を表明し、核戦争の危機に陥った事件です。最終的にその危機は回避されましたが、この経験を受けてケネディ大統領の命令により、市民防衛の観点からCOGが策定されたようです。
米国におけるBCPのルーツとしてのCOGおよび現在のCOOPとBCPへの展開 出展:みずほ情報総研作成
図1:米国におけるBCPのルーツとしてのCOGおよび現在のCOOPとBCPへの展開
(みずほ情報総研作成)
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)


COGとCOOP

   ところが1993年のニューヨーク世界貿易センタービル爆破事件、1995年のオクラホマシティ連邦政府ビル爆破事件、また1998年のケニアとタンザニアで米国大使館爆破事件が起きたことにより状況は変化していきます。

   当時のクリントン米国大統領は、これらのテロ事件を受けて連邦危機管理庁(FEMA:Federal Emergency Management Agency)を連邦政府のCOG活動のための執行機関として位置付け、1998年に憲法に基づく政府の存続(COG)と連邦政府機能の維持(COOP:Continuity of Operation)を保障することを規定した大統領決定指令67号(PDD67:Enduring Constitutional Government and Continuity of Government Operations)を発令しました。

   PDD67では、テロを含むあらゆる不測の事態下で政府の存続と政府機能維持を保障する包括的かつ効果的な計画を備えることの重要性を強調し、行政府や省庁に対してCOOPの策定を要求しました(PDD67は機密文書であり、その具体的な内容は、ホワイトハウスから公表されていません)。

   1999年7月、FEMAはPDD67を受けて、行政府や省庁が実行可能なCOOPを開発するためのガイダンスを提供することを目的としたFPC65(Federal Preparedness Circular 65)を発行しました。また2001年4月には、COOPの訓練および演習を継続的に行うことを要求したFPC66を発行し、同時期に行政府・省庁の一次的施設が運用できなくなった場合に、省庁・連邦機関の本質的な機能を維持するための代替施設(二次的施設)の設置に関する考慮事項を示したFPC67を発行しました。

   9・11同時テロ事件後、州・地方政府に対しても、テロ対策として既存の防災・危機管理計画の強化が求められるようになってきています。2002年8月に、FEMAは州・地方政府に対して、既存の防災・危機管理計画を強化する一環としてテロ対策を含む全ハザード対応としてのCOOP策定のためのガイダンス(Introduction to State and Local EOP Planning Guide)を発行しました。現在、米国の州・地方政府においても、防災・危機管理計画の一環として、COOPを盛り込んだ包括的な緊急時管理計画を策定することが求められています。

   最近、国内でも省庁としてのCOOPをBCPに関連付けて検討を開始しましたが、米国ではBCPとCOOPを同義で扱う傾向があります。いずれにしろBCPの原点は核戦争、後にはテロという、非常に重い国家安全保障問題に焦点を置いたCOGにあることを覚えておいていただきたいと思います。

   なおジョージ・W・ブッシュ大統領は、2002年に米国連邦議会から連邦政府のCOGの存在に関する質問を受けその存在を認めましたが、内容については言及しませんでした。また、行政府および省庁・連邦機関の具体的なCOOPは存在していますが、その内容は公表されていません。

   では本論に戻って、ハリケーン・カトリーナ災害における企業のBCMの事例について話を進めていきましょう。本論に入る前にまずハリケーン・カトリーナ災害とはどのようなものであったのか、また米国政府の対応はどのようなものであったのかについて簡単に見ていきます。

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みずほ情報総研株式会社 多田 浩之
著者プロフィール
みずほ情報総研株式会社
多田 浩之

情報・コミュニケーション部 シニアマネジャー
1984年、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院工学研究科修了、富士総合研究所(現みずほ情報総研)に入社。専門は非常時通信、危機管理および産業インフラリスク解析。現在、ICTを活用した産学連携安全安心プラットフォーム共同研究に携わる。中央防災会議「災害教訓の継承に関する専門調査会」下の小委員会・分科会委員、内閣府「消費者教育ポータルサイト研究会」委員などを歴任。


INDEX
第1回:BCMとは何か
  BCPとBCMとは
BCPのルーツとは
  ハリケーン・カトリーナ災害とは