2026年3月10日に都内で開催されたElastic{ON} Tokyo 2026から、主催であるElasticのCEO、Ash Kulkarni氏のキーノートセッションを紹介する。ElasticはElastic{ON}と称して世界各地でロードショー的なミニカンファレンスを開催しており、今回もその一環として開催されたようだ。
オープンソースのサーチエンジンだったElasticsearchだが一時期は独自のライセンスに移行して非オープンソースとして展開されていたが、2024年8月にライセンスをAGPLにすることでオープンソースといえるソフトウェアになった。ビジネスとしてはクラウドサービスを追加、サブスクリプションとして売上をあげる方式がElasticのビジネスの根幹である。検索機能も進化し、BM25による全文検索にベクターサーチを加えたハイブリッドサーチエンジンとなっている。2022年11月に行われたElasticONで来日した当時の責任者、Matt Reily氏のインタビューにハイブリッドサーチを採用した経緯などが解説されている。
●参考:Elasticのサーチエンジンビジネスの責任者にインタビュー。ビヘイビア分析の未来とは?
今回はカンファレンスの冒頭に行われたCEO、Ash Kulkarni氏のセッションから、AIを主軸においてハイブリッドサーチの進化、Elasticが推奨するコンテキストエンジニアリング、マルチモーダルな検索機能、AIエージェント開発のためのツール、オブザーバビリティ、セキュリティ、サーバーレスプラットフォーム、ワークフローなどの解説をゲストとしてプロダクト担当者やソリューションアーキテクトを登壇させデモを混ぜながら解説した内容を要約する。
Kulkarni氏はAIがこのセッションの中心的なテーマであることを示すように、AIの使われてきた形態が徐々に変化してきたことを説明し、人間を補助するAIからAIが主体的にタスクを処理する形に移行していくことを訴えた。
そのうえで主体的にAIが働くためには高い品質のデータが必要だとして、ここからはコンテキストエンジニアリングの必要性を訴求した。
ここでElasticsearch Platformの概要を説明。これはAIが使うデータを保持するベクターデータベースや、ハイブリッドサーチエンジン、オブザーバビリティなどが列記されている。Elastic自身は大規模言語モデルを生成したり保持したりすることはなく、モデル自体は外部のサービスを使うということに徹している点は興味深いと言える。現在の大規模言語モデルの隆盛は2017年、当時Googleに所属していた複数のエンジニアが執筆した「Attention is All you Need」というトランスフォーマーモデルに関する論文から発している。その後、Anthropic、Meta、OpenAI、中国のAlibaba、Baidu、ByteDanceなどが多数のモデルを発表して性能やサイズについてしのぎを削っているという状況だ。
大規模言語モデルを持たないという選択をしたElasticにとってみれば、ブラックボックスの大規模言語モデルそのものよりも、どうやって企業が持つ非構造化データを効率良く、高速に処理するのか? これが当面の課題となる。そのためにBBQと呼ばれるデータの圧縮のテクノロジーを始め多くのテクノロジーを開発していることを訴えた。Elasticを実際に使っているデベロッパーであればこのスライドに書かれたテクノロジーは目新しいものではないかもしれないが、知らない参加者にとって中身はわからないながらも「削減」「節約」「高速化」というキーワードでElasticが前進していることを見せた形になった。
しかしElasticは2026年10月にJina.aiを買収したことでエンベデッドモデルであるJinaをElastic CloudのGPU上で実行できるようになった。Jina.aiは文章要約や生成、推論に特化した一般的なLLMとは異なり、検索に特化したモデルであるという。長文の検索や検索結果のリランキングに特化した性格からElasticが求める検索のための次世代プロダクトと言ったところだろう。
そしてその検索に特化したモデルを支える周辺のツールも用意していることを示したのが次のスライドだ。EISはElastic Inference Serviceの略称である。
ツールだけは揃ったとしても簡単にAIエージェントは開発できるわけではないとして、次に解説したのはElastic Agent Builderというツールだ。
ここでは生成AIサーチのシニアマネージャーを登壇させて実際にAgent Builderをデモとして見せた。
ここでは週末にキャンプへ行くことをプロンプトとして与え、特定のオンラインショップから必要な用具を購入することを実行するエージェントを作る部分を見せて、エージェントが外部のツールを使って検索から購入に至るまでの処理を見せた。しかしデモ自体は必ず成功するストーリーをなぞる形のデモでいわゆる「やってみた」系の内容で確かに外部のツールが呼ばれて結果が返ってくることはわかるが、これが実際の業務で使えるレベルになるのか? という疑問には応えてないといえる。
次に紹介したのはオブザーバビリティだ。
先ほどまではデベロッパー向けの訴求内容だったが、ここからはシステムを運用するエンジニア向けの機能の紹介となった。Elasticsearch Platformの機能は変えずに「オブザーバビリティ特化型AI」というやや抽象的なコンポーネントが提示されている。
ここではオブザーバビリティで利用されるログなどのデータが膨大で十分に活用できていないという観測から新規機能を紹介した。ここからはElasticserach株式会社のソリューションアーキテクトも登壇して、デモを交えて解説を行った。
これはSignificant Eventsと呼ばれるログの中から重要なイベントに注目してフィルターする機能のようだ。
何が重要か? についてはクエリーを実行してフィルターする従来の手法もあるが、ここでは生成AIがクエリーを生成してフィルターするというデモを実行している。
次に解説したのはセキュリティに関する機能だ。
これまで検索機能のデベロッパー向け、システム運用エンジニア向けのオブザーバビリティを紹介してきたが、ここからはセキュリティ担当者向けの内容となった。ここでもセキュリティ特化型AIを使った機能を実際のアプリケーションとして提案している形になっている。
ここでの新機能はElastic Workflow for Securityという機能だ。これは検知で見つかった脅威について自動的に対処するフローを作成し、その中に生成AIによる分析などが組み込めるという内容をデモで見せた。
ここでは単一のインシデントの対処を生成AIとの会話で行うというこれもよくデモと行われる「脅威発生、AIが検知、すぐに分析してSlackで担当者に通知」という流れを行うだけではなく、ループなどの手続き的に処理を記述できるという部分が差別化のポイントだろう。この実体が何か? について展示ブースでElasticの社員に質問したところ実際にはKibanaの処理をキックしているという内容だった。また、ここで記述されたワークフローをGitなどで管理することは可能か? という質問については回答がなかったことはメモしておきたい。
またその他の新機能としてElasticで取得されたデータをオンプレミスに置いたままクラウドサービスの機能を使うCloud Connectや3大パブリッククラウドで提供されているサーバーレスインスタンスの紹介を行った。
最後に紹介したのはElasticが開発した教育に関する内容だ。これは34種類のトレーニングコースを無償で提供するというものだ。
またElastic Security Labs(ESL)も紹介した。
総合的にみれば、デベロッパー向け、SRE向け、セキュリティ担当向けの機能をまとめて解説した内容となり、Elasticに馴染みのない参加者にはわかりづらかったのではないだろうか。参加者もベンダーが行うカンファレンスらしくスーツ姿が目立ち、デベロッパーはごく少数という状況だったように思われる。ただしエンドユーザーとして株式会社ぐるなびや製造業向けのソリューションを開発提供するキャディ株式会社、クラウドベースの文書管理ソリューションを開発するFRAIM株式会社などからの登壇者も登壇していることから、Elasticのソリューション自体は広く利用が進んでいることを示した内容となった。
