第6回:新たなIT部門のあり方 (3/4)

最新 図解 CIOハンドブック
最新 図解CIOハンドブック

第6回:新たなIT部門のあり方
監修者:野村総合研究所  淀川 高喜   2005/12/15
前のページ  1  2  3   4  次のページ
ユーザ企業本体に持つIT運営機能の範囲

   既述した通り、IT部門が持つ機能は以下の7つである。
A:IT戦略・計画機能
B:システム化企画機能
C:開発・インフラ統括機能
D:プロジェクトマネジメント・設計機能
E:運用管理機能
F:製造機能
G:運用オペレーション機能

表3:IT部門が持つ機能

   最近は、何らかの形でアウトソースを活用するのが一般的であり、これら7機能をすべて自社でまかなう必要はない。そこで、これらの機能のうち、いずれを自社に保有し、いずれを外部に委託すべきかということが大きな問題となってくる。

   その検討を行うにあたっては、IT運営の達成要件は何か、情報子会社や外部パートナーの力はどうかなどの要因を総合的に考える必要がある。表3の機能Aのように上流工程のものは、一般にユーザ企業本体で保有することが多い。

   いっぽう機能Fや機能Gなど下流工程は、本体で保有せずに情報子会社あるいは外部パートナーが担当することが多い。ユーザ企業が自社で保有する機能について、代表的な3パターンをあげて説明していくことにする(図2)。

本体に持つIT機能の範囲のパターン
図2:本体に持つIT機能の範囲のパターン
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)


フルスコープ型:機能A〜Eを保有

   プログラミング(機能F)や、データセンターにおけるシステムのオペレーション(機能G)を除いた、すべてのIT運営機能を保有するのがこのパターンである。これを選択するのは、経営環境変化に対するシステム対応のスピードや、事業部門に密着した対応を志向している企業の場合が多い。

   この形態の特徴は、ユーザに密着した高品質なITサービスや、ユーザ企業本体と同じ処遇による優秀な人材確保などが期待できる反面、要員単価が高止まりする、あるいは、IT人材に専門家としてスキルアップする機会を、十分に与えることができない、などのリスクもあることである。

   また、限られた要員で幅広い情報システムの運営に関わることが必要なため、情報システムが本社に集中していて、要員の分散を防ぐことができることが前提となる。


上流機能特化型:機能A・B・Cを保有

   「フルスコープ型」と「戦略機能特化型」の中間に位置するのが、この形態である。この場合、「戦略機能特化型」で保有する機能Aに加え、ITを利用した業務改革企画・業務設計・業務要件定義といった機能Bおよび全社視点での開発やインフラの統括といった機能Cをユーザ企業の社内に保有し、実装レベルの設計や開発・運用は外部ベンダーもしくは情報子会社に委託する形となる。

   この形態のメリットは、組織のスリム化を図りながら、ユーザ企業として統括が必要な領域(機能A〜C)を掌握し続けることができることである。

   その反面、デメリットとして中期的にIT部門に開発・運用などの実務経験が乏しい要員が増え、機能Bや機能Cが外部ベンダーの「手配師」化してしまうことにより、品質低下やコスト高などに繋がってしまうおそれがある。

   このため、この形態をとる場合にはIT部門が開発・運用機能の委託先である情報子会社や外部ベンダーに対して牽制力を発揮し、ベンダー間の競争環境を維持することによって、品質やコストの適正化をはかっていかなければならない。


戦略機能特化型:機能Aのみ保有

   このパターンは、実際のシステム企画・設計・開発・運用に関する業務(機能B〜G)は外部を活用し、全社IT戦略の立案やITガバナンス機能(機能A)のみを、本体で保有するものである。

   この形態のメリットとして、「IT運営組織のスリム化により、コスト削減に寄与できる」「IT部門の要員を他のコア業務へシフトさせることができる」などがある。しかしデメリットとして、IT部門の「目利き力」の低下を招きがちであり、表4のようなリスクがある。

  • IT部門が単なる「事務屋」になってしまい、見積り/開発内容/採用技術などの妥当性を判断する力が弱まる
  • 外部ベンダーまかせや丸投げになってしまいがちである
  • IT部門の企画力が低下してしまい、業務ノウハウが外部に流出してしまう

表4:戦略機能特化型における「目利き力」低下のリスク

   また、ユーザ企業本体と情報子会社や外部パートナーとの間で、責任が不明確になりがちなため、ブラックボックス化が発生しないよう、機能Aによる十分な統制が必要となる。

   このように、3つのパターンにはそれぞれメリットとデメリットがあり、いずれが優れているかは一概にはいえない。自社の現状や経営戦略などを考慮した上で、自社に最適なパターンを選択することが重要なポイントとなるであろう。

前のページ  1  2  3   4  次のページ


株式会社野村総合研究所 淀川 高喜
監修者プロフィール
株式会社野村総合研究所  淀川 高喜
プロセス・ITマネジメント研究室長 兼 金融ITマネジメントコンサルティング部長。国家試験 情報処理技術者試験 試験委員会 委員。1979年野村総合研究所入社。生損保、銀行、公共、運輸、流通、製造業などあらゆる分野における幅広いシステムコンサルティングに携わる。専門は情報技術による企業革新コンサルテーション、情報システム部門運営革新コンサルテーションなど。


INDEX
第6回:新たなIT部門のあり方
  ユーザ企業に必要なIT人材
  機能A:IT戦略・計画
ユーザ企業本体に持つIT運営機能の範囲
  情報子会社の基本戦略

人気記事トップ10

人気記事ランキングをもっと見る