TOP調査レポート> 企業価値を高め、ユーザの満足度を高める「日本型SLA」
PMOによるSIerの定量評価 〜 外注業務を円滑管理する試み
PMOによるSIerの定量評価 〜 外注業務を円滑管理する試み

第2回:戦略アウトソーシングによる情報組織改革(後編)
日本総合研究所  加藤 克則氏   2006/5/2
1   2  次のページ
企業価値を高め、ユーザの満足度を高める「日本型SLA」

   「アウトソーサーのサービスレベルを評価する場合、アウトソーサーの努力改善を評価できる指標をもとにSLAを取り決めないとアウトソーサー側の力を引き出せません」

   加藤氏はSLAでアウトソーサーの力を引き出すことが重要だと強調した。アウトソーサーの足りない部分を見極める場合、SLAは明確な物差しとなるからだ。ユーザ企業が本格的に戦略アウトソーシングを導入し、情報組織の運営をアウトソーサーが担う場合、一般的なSLA(定常作業に品質を定量評価するSLA)ではなく、さらに難易度が高い指標を定義すべきだという。

  SLA 戦略アウトソーシングの指標
目的 アウトソーサーのサービス品質を定量評価することが目的 革新を生み出し、IT組織が継続的に成長することにより顧客に満足してもらう、すなわちビジョンの実現を目的としている
指標の性質 アウトソーサーの作業項目と密接にリンクしている 一見、改善努力により解決できない指標もある。日々の改善努力の結果、間接的にでも顧客満足の指標が向上すればよい
担い手に必要なスキル 定常作業をより効率的に改善する、また品質指標の目標値に近づけるためのノウハウ IT組織の提供サービスで何が一番重要かを理解し、戦略をつくりだし、実行し、管理し、変化や間違いに気づいて修正する能力
難易度ともたらされる価値 比較的容易
小〜中
(費用やミスの削減)
複雑かつ困難
大きい
(顧客満足度の向上)

表1:SLAと戦略アウトソーシングの対比
出所:日本総研資料

   「戦略アウトソーシングを導入して情報組織の運営をアウトソーサーが担う場合、一般的なSLA(定常作業に品質を定量評価するSLA)ではなく、さらに難易度が高い指標を定義すべきです」

   加藤氏によると、SLAは優れた指標であるものの、日本企業にはそのまま適応できないという。なぜならば、日本企業は部署間によって業務がはっきりと分割されていないすり合わせの文化であるからだ。

SLAよりも難易度が高い指標/出所:日本総研資料
図1:SLAよりも難易度が高い指標
出所:日本総研資料
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)

   「欧米の考えでつくられたSLAはサービスをはかる上では優れた指標ですが、そのまま日本で活用しても意味がありません。そういった個々に分かれている考えは日本ではそのまま使うのは難しいといえるでしょう」

   加藤氏は欧米文化でつくられた指標をそのまま日本で使うのは問題があると述べた。システム開発にかかわる指標は多くあるが、それら指標を活用することが課題となっており、多くの企業が気になるところであろう。

加藤 克則氏    「欧米のアウトソーサーはそれぞれのサービスのスペシャリストです。DB管理者であれば、基本的に一生を通じてその職種であり、スペシャリスト志向なのです。しかし日本はすり合わせの文化ですので、その文化を活かすやり方があると思います。SLAをたくさん細かく定めるよりも、意味のある(改善をドライブできる)指標を20くらい定めればよいと考えます。

   運用代行的なサービス提供では「いわれたことをするだけ」になりますが、『戦略アウトソーシング』では担当者の考え方やコミュニケーション能力も重視します。『そもそも顧客の一員として戦略をつくりだし、実行・管理して変化や間違いに気づき自律的に行動していくもの』であり、これはトヨタ式に代表される日本独自のものです」

   加藤氏は日本文化を考慮した戦略アウトソーシングは日本のソフトウェア産業の競争力を高めていくと自信をみせた。トヨタ式に代表されるように、日本は製造業では優れた競争力を誇っている。それは細かなものづくりへの配慮が根底にあるといわれているが、それをシステム開発に反映させていくためには欧米と日本の文化を理解する必要があるのではないだろうか。

   また加藤氏は「欧米はコストが安ければそれなりのサービスレベルで納得します。欧米諸国はBRICs(注2)諸国にオフショア開発を発注していますが、日本は欧米諸国以上の品質をオフショア開発に求めており、それに答えるのは日本のソフトウェア産業しかありません」と、日本のソフトウェア産業にエールを送った。

※注1:
BRICs(ブリックス)とはブラジル(Brazil)、ロシア(Russia)、インド(India)、中国(China)を指し、それらの頭文字をとったもの。オフショア開発委託先として注目されている。

1   2  次のページ


日本総合研究所  加藤 克則氏
プロフィール
日本総合研究所  加藤 克則
産業ソリューション事業本部 戦略アウトソーシング・コンサルチーム シニアコンサルタント。


INDEX
第2回:戦略アウトソーシングによる情報組織改革(後編)
企業価値を高め、ユーザの満足度を高める「日本型SLA」
  パートナーシップの考え方