AAAI-26は人工知能に関する研究発表の場であり、研究者にとっては競争の場である。キーノートに相当するセッションで多くのアワードの表彰が行われるのもその証拠だろう。ベンダーが主導するカンファレンスやオープンソースコミュニティのカンファレンスでは参加者は競争を行うというよりも知識や情報獲得が主な目的だが、AAAIのようなアカデミアが主体のカンファレンスでは提出した論文が採択され、論文はポスターセッションやオーラルセッションとして公開されることが目的となり、結果として競争に勝ったという印になる。
AAAI-26において論文は30,948件が提出されている。分野ごとに異なるものの、全体としては17.5%という採択率であった。つまり3万を超える論文から、勝ち残ってポスターやオーラルセッションとして実施された論文は約5,000件ということになる。ちなみに論文に名前を記される著者の数は77,302名、これは2025年の46,050名に比べると1.7倍に増えている。AAAI-26に関する最後となるこの稿では、筆者が注目したポスターとスポンサーブースを紹介する。
ポスターセッション
約5,000件の論文からひとつだけ選ぶというのは研究者ではない参加者としては著しく公平を欠くことは承知の上で、この稿ではMicrosoft Researchが公開した「Next-Latent Prediction Transformers Learn Compact World Models」と題されたポスターを紹介する。
Next-Latent Prediction Transformer(NextLat)は、トランスフォーマーに世界モデルとしての性質を学習させるための新しい訓練手法である。具体的にはトランスフォーマーに「次の潜在状態を予測させる」追加タスクを与えることで、状態の変化を履歴として圧縮したデータとして学習させる手法だ。これにより推論、計画、世界モデルの構築など長期依存を必要とするタスクで大幅に性能が向上するという。
このポスターの内容は2025年12月6日にサンディエゴで行われたNeurIPSの「World Model Workshop」で行われたJohn Langford氏によるプレゼンテーションで紹介された内容を、論文として発表しているものだ。以下のNeurIPSのサイトでは解説の動画とスライドが公開されている。
●参考:Keynote #7 Next-Latent Prediction Transformers Learn Compact World Models
ここでLangford氏はトランスフォーマーモデルが状態を維持しないことで発生するカウントダウン問題に触れ、解説を行っている。GPTにおけるカウントダウン問題とは「100から1まで数える」という人間にとっては簡単なタスクの実行に破綻してしまうというもので、これはトランスフォーマーの構造的限界から起きているという。トランスフォーマーは状態や物理法則などを持たないために「世界が変化すること」を理解する能力が弱い。そのために100から1つずつ引いた数値を順番に提示するというタスクが破綻してしまうという問題だ。そのためトランスフォーマーに内部世界の状態を保持させる試みが行われており、その一つがNextLatである。
この論文については、東京大学の松尾・岩澤研究室が毎週開催している深層学習に関する論文の輪読会でも取り上げられているので参考にして欲しい。この動画では日本語による解説が行われている。
●参考:【DL輪読会 #474 2/3】Next-Latent Prediction Transformers Learn Compact World Models
次に取り上げるのはヒュンダイ自動車のポスターだ。
これはヒュンダイ自動車とLGの共同研究で、RatioMorphと命名されている。この背景にあるのは、車輛をデザインする際にベースとなるモデルの画像から車輛の主要なサイズ(車軸間の長さやキャビンの高さ、キャビンの位置)と位置などの割合(プロポーション)を維持したまま変形や視点の変更を可能にしたいというニーズだ。対象となる車輛を単に拡散モデルで変形させるとプロポーションが維持できずにPhotoshopなどで修正加工を行う手間が発生してしまい、車輛デザインのワークフローに追加することが難しかったという課題を解決する研究である。
LinkedInはMicrosoftが2016年に買収したビジネスに特化したソーシャルネットワークサービスで、主に転職に使われるサービスである。会員データを因果関係にある言語モデルであると想定してその関係性を使って有効な会員データの検索を行うという研究だ。
これはIBM Researchによるポスターで、大量に発生するシステムログを大規模言語モデルとして学習し、サポートの改善に使うというものだ。
これはアメリカの世界最大のスーパーマーケットチェーンWalmartの研究部門による人材の対話型マッチングシステムをRAGではなくエージェントを使って構築したという研究だ。Walmartは全世界で210万人を超える社員を持つ超巨大企業だが、社員に対する職務配置に対して大規模言語モデルを使ったレコメンデーション機能を開発したという研究だ。
ここで紹介したヒュンダイとLG、IBM、LinkedIn、Walmartのポスターは各社の業務に深く関連のある内容となっており、AIの利用という意味では即座に価値を企業に還元している実践という内容だ。AAAIは国際学会だが、基礎理論だけではなく実際にビジネスにした内容でも論文が採択されるという証拠と言えるだろう。
もう一つの分野として、人工知能の明るい面だけではなく大規模言語モデルに対する攻撃やマルウェア検知などのセキュリティに関するポスターも多く発表されていたようだ。
こちらはFAR.aiという2022年に創設された非営利団体で、AIにおける安全性を高めるための研究を行っているようだ。詳細は以下の公式ページを参照されたい。
●FAR.AI公式ページ:https://www.far.ai/
これはイギリスのThe Alan Turing Instituteとキングズカレッジロンドンなどによる共同研究で、マルウェア検知に強化学習を使うという内容だ。
これは悪意のあるMCPサーバーに虚偽のデスクリプションを付加することで、大規模言語モデル自体には変化を与えないものの生成されるアウトプットを操作するということを題材とした研究である。
またより実践に近いという意味では、集中治療室の中で患者が自身の気管に挿管されているチューブを抜いてしまうことを患者の手の動きなどの画像から予測してアラートを発生させて、抜管による医療リスクを減らすというポスターも発表されていた。
またリチウムイオン電池に対する診断を大規模言語モデルで行うという研究も発表されていた。これはLiBrainと呼ばれるシステムで、カスタマーサービスとデバイス上の診断の2つの実装が検討されているという。
中国で広く使われている電子バイクは、そのバッテリーの寿命を伸ばすことが可能になれば、社会的な意味は大きい。ただし電子バイクメーカーやインフラストラクチャーとして電子バイクを提供しているサービス企業がどれだけこれに興味を持つのかは未知数と言ったところだろう。実験としては良い数値が出ているので今後に期待したい。
スポンサーのブースを紹介
ここまでで膨大なポスターセッションの中から印象に残ったものを紹介した。最後にAAAI-26のスポンサーのブースを紹介する。
ポスターセッション会場の入口近くにブースを構えていたXiaomiは、自社の研究者が書いた採択論文を訴求材料として使っていた。
バナーとして合計8件の論文が採択されたことをアピールしていたXiaomiだが、ブース自体にはテーブルと椅子、そして背面のバナーは主に採用のための内容という状態で、主に採用が目的の展示となっていた。
ポスターセッションのエリアが多くの参加者で賑わっていたことから比べると、企業ブースの人気は今ひとつのようだった。
参加者はポスターの前で立ち止まり、内容を理解したうえで次のポスターに移動する、もしも著者がいればそこで質問するということを繰り返しており、聴きたいセッションがない時間はポスターセッションのエリアに滞在するというのが定番のパターンであったようだ。
このHPC-AI.comという企業のブースが一番大きく展開されていた。ダイアモンドスポンサーでもあり、単にホスティングを行うだけではなくChatGPTやSoraのオープンソース版のベースとなっているColossal-AIをGitHubで公開している。
●参考:https://github.com/hpcaitech/ColossalAI
ブースは確保できているものの、展示をそもそも諦めているに近いスポンサー企業も多く、KubeConやOSSSummitのようにビジネスが絡むカンファレンスとの違いを感じた内容となった。
また中国の企業は主にノベルティをアンケートと交換に提供することで賑わっていた企業が多く、自社の訴求や宣伝という段階ではなく参加者の情報を入手して次の施策に役立てるというレベルの商売っ気のない企業が多かった印象だ。
全体的にはビジネスのために参加しているスポンサーは少なく、人材獲得のためと自社のビジネスに使える論文がないかを探しに来ているという感想だ。
人工知能関係の国際会議ではNeurIPS(Neural Information Processing Systems)という別の会議も開催されており、AAAIよりもNeurIPSを優先する研究者もいるようだ。AAAIは人工知能関連の国際会議として40年という歴史を持つが、参加者は非常に若く研究内容も非常に先端的な理論から実装に至るまでさまざまである。コンピューターグラフィックスの国際会議SIGGRAPHに比べると派手さはないものの、ここで公開される研究が数年後にはビジネスの世界に応用されることを考えれば、引き続き注目していく対象だろう。すでに2027年に向けた活動が始まっている。興味のあるエンジニアは以下の公式ページを参照して欲しい。
●AAAI公式ページ:https://aaai.org/conference/aaai/
●NeurIPS公式ページ:https://neurips.cc/
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