リッチ・クライアントの胎動と現在

2010年4月2日(金)
永井 一美

Webシステムのおさらい

今回を含め、5回の連載で、Webシステムにおける画面と帳票について、歴史や動向、技術的な面を踏まえて解説します。筆者が所属するアクシスソフトの製品を題材にすることが多くなりますが、ほかの製品も中立公正に扱うつもりなので、ご容赦いただきたく思います。

まず最初に、Webシステムについておさらいします。言葉通り「Webを利用したシステム」のことであり、一般には「インターネットを利用したシステム」と言った方が分かりやすいでしょう。

早くからインターネットを利用してきた方は覚えているでしょうが、一時は通信料金が従量制であったため、大多数の方がNTTの「テレホーダイ」(1995年開始)を契約し、夜の11時になった途端、一斉にネットに繋いでいました。時間限定ですが、定額制を取り入れた初のサービスでした。

システムにかかるコストは重要です。通信コストもしかりです。通信事業者のサービス向上と技術の進展によってインターネットが安価/定額制とならなかったら、Webシステムの発展はなかったでしょう。また、高速になり、回線が切れることもなく、セキュリティもそれなりに担保されるようになったことで「システムのWeb化」は進みました。企業が当たり前のようにインターネットを利用し始めたのは、1997~1998年のことです。

Webの仕組みはこうです。クライアント端末(PC)側に必要なのはWebブラウザのみであり、ブラウザからHTTP(Hypertext Transfer Protocol)を使ってHTTPサーバーにリクエストを投げ、情報をもらいます。この情報とは、HTML(Hypertext Markup Language)という文書(テキスト)情報です。お分かりの通り、Webは本来、遠くの文書を閲覧するための仕組みであり、ステートレスなやり取りとして完遂されます。

Webシステムの特徴は、情報がサーバー側に集中していることで、これはかつてのホスト・コンピュータの頃と同様です。サーバー側だけを管理すればよいため、端末側(クライアントPC)の管理コストを大きく削減できます。

一方、ホスト・コンピュータの後に登場したクライアント・サーバー型システム(C/Sシステム)の場合、ホストの頃のような専用端末を必要とせず汎用のPCを利用できることに加えて、VB(Visual Basic)などによってWindowsのGUIを利用した快適な操作性を実現できるというメリットがありました。ただし、その代償として、プログラムをクライアントに配布する必要があり、その管理は煩雑で大きなコストがかかっていました。

Webシステム登場の背景

Webシステムが利用されるようになった背景には、以下の3つの要因があります。

  • 行き渡っているPCを、端末として利用できること(専用端末が不要)
  • 専用回線を構築することなく、汎用のインターネットを利用できること
  • サーバー集中型であり、クライアント管理が楽であること

しかし、誰もが経験されているように、汎用のWebブラウザ+HTMLの技術には、以下のような欠点がありました。

  • 画面描画が遅い
  • 入力サポートが弱い、できない
  • スクロールすると画面情報が欠ける

C/Sシステムの頃に利用者に提供できていた快適な操作性をなくしてしまったのです。クライアント管理コストの削減はシステム管理側にとって重要ですが、利用者から見た操作性の悪化は、業務生産性の悪化となります。数人から数十人程度の管理側コストの削減が、数百人から数千人規模のコスト悪化を招くことになるのです。

次ページからは、Webシステムの課題となっていた画面操作性を改善するために登場した技術について、その経緯と今後の動向を解説します。

アクシスソフト株式会社 代表取締役社長
SI会社においてOS開発、アプリケーション開発、品質保証、SI事業の管理者を経て、ソフトウェア製品の可能性追求のため、当時のアクシスソフトウェアに入社、以降、一貫して製品事業に携わる。2006年より現職。イノベータであり続けたいことが信条、国産に拘りを持ち、MIJS(Made In Japan Software consortium)にも参加、理事として国産ソフト発展に尽力している。

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