連載 [第23回] :
  月刊Linux Foundationウォッチ

Linux Foundationのさまざまなプロジェクトに新メンバーが相次いで参加を表明

2022年8月31日(水)
吉田 行男

こんにちは、吉田です。今回は、Linux Foundation(以下、LF)のさまざまなプロジェクトに新メンバーが参加しているので紹介します。

ボーイングがELISAプロジェクトのプレミアメンバーに
ー セーフティクリティカルアプリケーションへの取り組みを強化

LFがホストするELISA(Enabling Linux in Safety Applications)プロジェクトは8月11日にボーイング社がプレミアメンバーとして参加し、セーフティクリティカルなアプリケーションにおけるLinuxの有効活用に取り組むと発表しました。

ELISA プロジェクトは、Linuxベースのセーフティクリティカル*なアプリケーションやシステムを企業が構築・認証するのを支援する共通のツールやプロセスを作成しすることを目的とし、2019年2月に開始されたプロジェクトです。

*セーフティクリティカルなアプリケーション: 人身傷害、人死、財産への損害、経済的損失、自然環境への損害、または壊滅的な全身的影響(株式市場価格の壊滅的な下落など)を回避するために正しく機能する必要があるシステム。例えば、航空・宇宙機に搭載されるシステム、医療機システム、原子力システムなどが該当する。

【参照】Boeing joins the ELISA Project as a Premier Member to Strengthen its Commitment to Safety-Critical Applications
https://elisa.tech/announcement/2022/08/11/boeing-joins-the-elisa-project/

そもそも、セーフティクリティカルは「安全性の維持・確保」を最重要視する言葉で、不具合があれば人命の損失、重大な物的損害、環境被害などにつながる恐れがあるもののことを言い、昨今ではLinuxベースのシステムもこのような領域で使用されることが増えてきています。具体的には自動運転車、医療機器、ロケットの主要なコンポーネントなどが該当します。

ELISAプロジェクトでは、Linuxカーネルおよびセーフティコミュニティと連携し、セーフティクリティカルなシステムでLinuxを使用する際に考慮すべき点について合意することを目的としています。このプロジェクトでは、システムインテグレータがシステム上で定性的および定量的に分析するために適用・利用できるリソースを提供することに重点を置いた複数の専用ワーキンググループを設置しています。

ELISAプロジェクトには、現在“Automotive WG”“Linux Features for Safety-Critical Systems WG”“Medical Devices WG”など7つのワーキンググループがあり、5社のPremier Memberと16社のGeneral Memberで構成されています。日本からはトヨタ自動車やアイシンやスズキなど自動車関連企業がメンバーになっており、海外でもBMWの他、Automotive Intelligence and Control of China(AICC)やLOTUS Carsなど自動車関連の企業がメンバーになっており、この領域での活動が活発になっています。

今回参画したボーイング社は、世界有数の航空宇宙企業として150カ国以上の顧客向けに民間航空機、防衛製品、宇宙システムの開発、製造、サービスを行っています。今後は、ELISA技術運営委員会(TSC)と協力して自動車、医療機器などの他のワーキンググループと並行して作業する新しい航空宇宙ワーキンググループを立ち上げる予定になっています。

BMWグループがYocto Projectに加盟:
BMW Group Joins the Linux Foundation's Yocto Project

8月15日、BMW GroupがYocto Projectにメンバーとして参加することを発表しました。

【参照】BMW Group Joins the Linux Foundation's Yocto Project
https://www.prnewswire.com/news-releases/bmw-group-joins-the-linux-foundations-yocto-project-301587610.html

Yocto Projectは、2010年に誕生したLF傘下のオープンソース・プロジェクトの1つで、柔軟なツールセットと開発環境を提供しています。世界中の組み込み機器開発者がカスタムメイドのLinuxイメージを作成する際に使用する技術、ソフトウェアスタック、構成、ベストプラクティスを共有し、高い相互運用性を達成しているプロジェクトです。現在、参画している主なメンバー企業はIntel、Comcast、Arm、Cisco、Facebook(Meta)、Xilinx、Microsoft、Wind River、AWSなどです。

Yocto Projectを採用するメリットはいろいろありますが、現在の組み込みLinux開発環境としてはデファクトスタンダードになっているとのことです。これによりさまざまな情報提供がされているだけでなく、ハードウェアベンタやソフトウェアベンダのエコシステムと結合されているため、最新のテクノロジーや専門知識が簡単に入手できます。

また、組み込みLinuxディストリビューションを作成するためのビルドシステムが提供されていることも大きなメリットで、このビルドシステムを活用することで自社独自の組み込みLinuxディストリビューションを作成できます。最終製品で利用するだけではなく、さまざまな機能の検証等で利用するためのLinuxを作成できることも大きなメリットだと言って良いでしょう。

Yocto Projectには「レイヤ」と「レシピ」という概念が存在します。レシピはビルドに必要な手順やソースコードの情報で、各レイヤには特定の機能に関連する命令を記述したレシピが格納されます。これらの命令を複数のレイヤに分けて格納することでレイヤを再利用できるようになります。

例えば、あるレイヤをボード・サポート・パッケージ(BSP)レイヤとしてハードウェアに関する情報を格納しておくと、BSPレイヤを差し替えるだけで任意のディストリビューションを任意のハードウェアで動作させることができます。

Yocto Projectの最新バージョンは、2022年4月にリリースされた「Yocto Project 4.0 Kirkstone」です。Linuxカーネルが長期サポート版の5.15となり、glibc 2.35など300近くのレシピがアップデートされました。また、OpenEmbedded-Coreのレシピも再現性をフルサポートし、オプションのreproducibleクラスにあった機能が土台のクラスにマージしています。

おわりに

今回紹介したように、LFはさまざまなプロジェクトをホストしています。分野も多岐に渡るためすべてをフォローするのは難しいかも知れませんが、興味のある部分を少しずつ覗いてみてはいかがでしょうか。

2000年頃からメーカー系SIerにて、Linux/OSSのビジネス推進、技術検証を実施、OSS全般の活用を目指したビジネスの立ち上げに従事。また、社内のみならず、講演執筆活動を社外でも積極的にOSSの普及活動を実施してきた。2019年より独立し、オープンソースの活用支援やコンプライアンス管理の社内フローの構築支援を実施している。

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