DevRel関連職の求人から見る、職責の細分化
はじめに
今回は海外のDevRel関連の求人から、ひと言で「DevRel関連職」と言ってもさまざまな職務に分かれているという現状を紹介していきます。海外の場合、JD(Job Discription。職務記述書のこと)により職責(ロール)が異なります。そのため、求める仕事内容で名前が分かれている傾向があります。
しかし、それもDevRel関連職の広がりとして見られます。多くの職業が開発者としてのバックグラウンドを必要としていますので、開発者のキャリアパスとして見てもらえればと思います。
デベロッパー・アドボケイト
最近では、エバンジェリストよりもデベロッパー・アドボケイトの求人が多いです。エバンジェリストの求人は、海外ではずいぶんと見なくなっています。
デベロッパー・アドボケイトに求められるのは、サービスの利用ユーザーをサポートし、サービス活用を促すことです。また、コミュニティ育成もタスクに含まれることが多いです。
そのためには、開発チームやマーケティングチーム、セールスチームとの密なコミュニケーションが求められます。各チームの戦略を理解し、その計画に合わせたアドボカシーの実施が可能になるでしょう。
デベロッパー・アドボケイトは、企業によってはスタッフ・デベロッパー・アドボケイトと呼ばれていたり、テクノロジーエバンジェリストと呼ばれることもあります。
タスク
デベロッパー・アドボケイトの細かなタスクとしては、以下のようなものがあります。
- チュートリアルや開発ガイド、技術コラムなどのコンテンツ制作
- ライブストリームや開発者向け教育動画などの作成
- 既存ユーザーや見込み顧客とのコミュニケーション
- イベント登壇
- ワークショップコンテンツの作成と実施
- 社内の各チームとのコミュニケーション
求められるスキル
デベロッパー・アドボケイトに求められるのは、各サービスの技術領域における経験はもちろんのこと、コミュニティへの参加経験や技術コンテンツの作成経験です。
また、プレゼンテーションの経験やソーシャルメディアへの理解も必要なスキルとなります。
シニア・アドボケイト
「シニア〜」と付く役職としては、シニアDevRelエンジニアやシニア・エバンジェリスト、リードDevRelなどがあります。シニアなので、チーム体制のもとでメンバーに対する教育や指導、戦略策定などが求められます。
この役職になるには、デベロッパー・アドボケイトとしての経験の積み重ねが必要となります。また、担当レベルではなく、マネージャーレベルでのチームを横断したコミュニケーションスキルも必要です。
予算配分についてもある程度の権限が付与されるので、各種スポンサーや渡航費用、外注費などの管理能力も必要です。
タスク
シニア・アドボケイトのタスクとしては、以下のようなものがあります。
- 開発者向けコンテンツのロードマップ、戦略、ビジョン策定
- プロジェクト管理、編集作業などコンテンツのプロデュース力
- ドキュメントやチュートリアルの統一感ある、分かりやすい編集能力
- サービスの開発者体験(DX)戦略策定
DXについては、開発者が触れるコンテンツチャネルやフォーマットを決めたり、その戦略策定が含まれます。
求められるスキル
シニア・アドボケイトについてもエンジニアとしての経験は必要です。サービスの提供分野以外に対しても、十分な技術的知識が求められます。
動画作成に関する知識や経験、プレゼンテーション能力も必要です。また、コミュニケーション能力も求められます。さらに、自身のアドボケイトとしての経験が十分あり、その上でチームメンバーを教育できるスキルがも必要となります。
DevRelマネージャー
DevRelマネージャーになると、より高位の職責とのリレーションが求められるようです。デベロッパー・アドボケイトの場合はテックタッチ・コミュニティタッチが多いですが、DevRelマネージャーはCTOや経営層とのハイタッチ戦略が求められます。
もちろん、チームメンバーのリソースや予算の管理能力も必要となります。また、DevRelとして開発者との関係性を重視するのはもちろんですが、ビジネス面も考慮した動きが必須です。
タスク
DevRelマネージャーとしては、以下のようなタスクが与えられます。
- サービスが市場を勝ち取るためのビジネス戦略を策定する
- CTOや経営陣との関係性を構築する
- サービスの利用対象となる開発者向けイベントや活動への参加をリードする
- 開発者向けプログラムを策定・拡大し、利用者を支援する
求められるスキル
DevRelマネージャーでは、DevRelに関するナレッジだけでなく、BizDev領域の知識も求められるようです。
- DevRelの経験
- BizDevの経験
- 経営層への影響力・プレゼンテーション能力
- 顧客の意思決定を加速させるためのコミュニケーション能力
- サービスの価値を開発者に伝え、彼らの希望を実現する能力
カスタマー・エクスペリエンス・アドボケイト
カスタマー・エクスペリエンスは、顧客体験を意味します。この職種では、主にオンラインにおける顧客体験を良いものにすることが求められます。
カスタマーサクセスでは、顧客ごとに異なる体験の提供を行いますが、カスタマー・エクスペリエンス・アドボケイトの場合はStack Overflowやソーシャルメディアを通じて、顧客全般に実施することが特徴のようです。
タスク
カスタマー・エクスペリエンス・アドボケイトの主なタスクは、以下のようになります。
- Discord・X・Stack Overflow・Redditなどでテクニカルサポートを提供する
- ユーザーのコードに対するフィードバックやデバッグに関するサポートを実施する
- 開発者とのオンラインコミュニケーション
- フィードバックを求め、開発チームに受け渡す
求められるスキル
カスタマー・エクスペリエンス・アドボケイトは、開発者との経験はもちろんですが、特にサポート面での経験が求められます。サポートエンジニアであったり、カスタマーサクセスでの経験が役立つでしょう。
また、オンラインで公開された場でのサポートがメインになるので、そうした場での振る舞いを知っている必要があります。ソーシャルメディアの利用経験や、サポート経験も必要でしょう。
テクニカルライター
テクニカルライターは、ドキュメントやチュートリアル、ブログ記事などを執筆する職務になります。開発者にとって分かりやすいドキュメントであることが求められるので、簡潔で十分な情報量を含んだ分かりやすい文章を書く能力が必要でしょう。
また、海外サービスを日本に輸入している場合は翻訳能力も必要です。単純な翻訳だけであれば翻訳サービスを利用すれば良いですが、それを分かりやすい文章にする点がテクニカルライターに求められる能力でしょう。
タスク
テクニカルライターに与えられるタスクは、以下のようになります。
- 製品やサービスを深く理解し、簡潔かつ効果的なドキュメントを作成する
- ユーザーガイド、リリースノート、APIドキュメントなどの作成と編集
- ドキュメントの品質基準の策定と改善
- コンテンツ管理、配信、フィードバックの測定と改善する仕組みの構築
- 技術に関するブログ記事の執筆
テクニカルライターはDevRelに関係するドキュメント全体に関わります。開発者の書いた文章を読みやすく清書したり、ガイドラインの策定などにも関わるでしょう。
求められるスキル
テクニカルライターに求められるのは、まずライティングスキルです。その中でもテクノロジー分野における執筆経験は重要です。
技術に関するスキルはそれほど重視されませんが、やはりあるに越したことはありません。技術スキルがあれば製品やサービスへの理解が早くなりますし、技術ワードにも戸惑わずに済むでしょう。
コミュニティマネージャー
コミュニティマネージャーは、その名の通りコミュニティの管理が役割となります。デベロッパー・アドボケイトにもコミュニティ育成がありましたが、より専門的な取り組みを行う際にはコミュニティマネージャーが求められるでしょう。
昔はリアルで出会うコミュニティの運用・管理が主な役割でしたが、最近ではオンラインイベントの運用・管理や、その配信なども役割として追加されるケースが増えています。
タスク
コミュニティマネージャーの主なタスクは、以下の通りです。
- コミュニティ戦略の策定
- ユーザーコミュニティ構築(オンライン、オフライン)
- イベントやカンファレンスへの主催、出席、さらに登壇
- 動画コンテンツの作成、配信
- ポッドキャスティング
- イベントのレポート・計測
カンファレンスへの登壇はアドボケイトの役割になりますが、コミュニティマネージャーのタスクに含まれるケースもあります。
求められるスキル
開発者と話す機会が多いので、開発者としてのバックグラウンドが求められます。また、製品やサービスに関する深い理解が必要なため、その点でも開発者と関わる経験が必要でしょう。
そして、もちろんコミュニケーション能力は必須となります。開発者が集まる場におけるファシリテーション能力や、きめ細やかな気配りも必須です。
コミュニティイベントは楽しいものですが、仕事として行う場合にはコミュニティ戦略を策定し、そのための計測や会社に対するレポーティングを行わなければなりません。
マーケティングマネージャー
主に認知度向上のためにDevRelを行っている場合、マーケティング能力が必要です。「日本はマーケティングが弱い」とよく言われますが、専門的にマーケティングを学んでいる人が少ないためでしょう。
ここでは「マーケティング大国」と呼ばれる米国における、DevRelに関連したマーケティングマネージャーの求人から要素を抜き出していきます。
タスク
マーケティングマネージャーには、いくつかのカテゴリーに分けて、必要なタスクが挙げられています。タスクは広範囲に渡っていますが、これはマネージャーとしてチームで臨む内容だからでしょう。印象としてマーケティングに関する内容は細分化されておらず、雑多になっているようです。
- ソーシャルメディアとコンテンツ
- ソーシャルメディア戦略の策定
- ブログ記事や動画、ソーシャルメディアへの投稿などのコンテンツ作成
- ウェブサイト
- ウェブサイト管理(コンテンツの作成と更新)
- ウェビナーとイベント
- ウェビナーやイベントの企画、推進および実施
- 見込み顧客のリードジェネレーションをサポート
- ニュースレター
- ニュースレターやEメールキャンペーンの作成と実施
- デマンドジェネレーションの実行
- 各種施策を通じて、確度の高い見込み顧客のリストを作成する
- 質の高い見込み顧客のリストをセールスチームへ引き渡す
- 分析とレポート
- キャンペーンのパフォーマンス測定
- ソーシャルメディアのエンゲージメント測定
- ウェブサイトの指標測定
- 測定した結果のレポーティング
求められるスキル
海外の場合、マーケターにはマーケティングに関する学士以上が求められることが多いです。また、企業におけるマーケターとして経験も必要です。
DevRelの場合、デジタル領域でのマーケティング活動が多いことから、ブログや動画などデジタルコンテンツの作成経験も必要です。
イベントについては、ウェビナーやワークショップなどのコーディネート経験が求められます。
おわりに
日本ではまだまだDevRelに関するリソースが少なく、属人的なスタイルになっているため、その人が持っているスキルに合わせて戦略を進めざるを得ないのが現実です。
一方で海外に目を向けると、職責を細かく分けることでチームとしてのDevRelが確立してきています。専門家集団になることで、より企業やサービス戦略に合わせた動きができるようになります。
今後、日本でもDevRelが拡大していく中で、こうした職種も広がっていくと思われます。ぜひ自分のキャリアとして、DevRel関連職にもトライしてください。