ビジネス・プロセス・マネージメントの現状 〜 「経営と情報の架け橋」の実現にむけて 5

業務を分類する

業務を分類する

現在の企業活動にとってITシステムはなくてはならない存在となっています。しかしながら、企業活動の全てが、ITシステム化されているわけではありません。例えば、工場で試作を行うために部材を倉庫から持ちだす場合は、表1のような作業が行われます。

  1. 人が、どんな部材が必要なのか考え、ある場所から部材を持ってきます
  2. 勝手に部材を持ち出すわけにはいかないので、倉庫システムに出庫情報を入力します
  3. 倉庫システムは、日次の特定の時間で部材在庫情報を集計し、危険在庫数に至っていれば、アラームをあげます
表1:部材を倉庫から持ちだすプロセス
 

表1の作業を前回までにご説明したeEPCモデルで表現します(図2)。すると、企業活動全体において各業務は、「人が行う業務なのか?」「人がシステムを使って行う業務なのか?」「システムが行う業務なのか?」と区別することができます。

業務の区分とeEPCモデル
図2:業務の区分とeEPCモデル
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)

 

特に、「人がシステムを使って行う業務」は、人がシステムから情報を抽出し、情報をシステムへ入力するためには、何らかのユーザインターフェースを必要とすると いうことです。今、皆様がこの文章を読まれているPCの画面が、このユーザインターフェースに当たります。そして、技術の進展によって出現してきたマイク による音声認識、指紋・静脈認証、RFIDなどのインターフェースを利用した様々な解決方法(ソリューション)が検討されています。ここで重要なことは、 「人間の脳がITシステムと直結しない限り、何らかのインターフェースが必要」ということです。

このように可視化されたビジネス・プロセス・モデルにおいて、課題がある業務のうちITシステム化すべき対象業務を洗い出していきます。

そして、課題がある業務のうち「人が行っている業務」については、新規に業務パッケージを導入するか、もしくは、新規にシステム機能を開発することを検討します。

既に「ITシステムを使っている業務」「システムだけで行っている業務」については、課題が解決できるようにITシステムを改修していくことを検討します。

最近では、ビジネス・プロセスの課題を検討した結果、複数のシステムを連携させることで課題を解決するというSOA的な検討が注目を浴びています。

このようにITシステム化対象業務を洗い出し、それぞれに対してどのような解決アプローチをとるのか検討することが、ITシステム要件の整理にあたります。

業務改善へのARISの活用

ここで、ITシステム化要件抽出というアプローチ以外に、業務改善に向けARISを活用するアプローチとして、簡単に2点ほどご紹介します。

まず、業務改善の一助となるARIS製品の機能としては、ビジネス・プロセス・モデルをHTMLに変換し、イントラネットで社内に公開するWeb Publishing機能があげられます。この機能を利用してビジネス・プロセス・モデルを社内イントラで広く公開し、そのモデルに対して現場からの フィードバックをメールで受け取ることができます。このように、現場の業務規定資料としてプロセスを活用し、更なる業務改善を目指すというアプローチがあ ります。

もう1点としては、eEPCモデルの各オブジェクトに組織人員数やイベント発生頻度、業務処理時間を入力して、動的にシミュレーションし、定量的にビジネス・プロセスを評価することができます。

このような機能をご紹介すると、よく「ARISがどこまで業務改善点を指摘してくれ、どのような改善策を与えてくれるのか?」という質問を受けます。しかし、我々は、「ARISがソフトウェアである以上、改善点や改善策を与えてくれるものではありません。但し、課題に対して改善策を検討する際の何 らかの"気づき"を得ることができる機会が増えるという価値をARISが提供してくれます」と答えています。

もし、ソフトウェアやITツールがそのような改善点を示してくれるのであれば、人間がいらなくなる世界、つまりは、ITに支配される世界がやってく るのかもしれません。しかし、ソフトウェアやITツールは、人間が活用してはじめて効果を発揮するものであり、そのような世界はやってこないと思います。

プロセスからアプリケーションへ

さて、話を元に戻し、ビジネス・プロセスからITシステム化要件を抽出した状態で、ビジネス・プロセス・モデルをシステム開発に活用していく例をご紹介します。

このアプローチは、図3に示すように「ビジネス・モデルの小島」と「ITという小島」に「ビジネス・プロセスという架け橋」をかけることにあたります。これは、まさに「経営と情報の架け橋」をかけることにあたります。、我々は、このアプローチをProcess to Application(P2A)と呼んでいます。

最近は、ITシステムに関するシステム・プロセス・モデルを描き、システム開発を行う分野をBPMと呼ぶことが多いようですが、この意味でのBPMという定義は、P2Aを指しており、狭義の意味でのBPMと考えるべきです。

筆者は、BPMという言葉が氾濫し、様々な定義で乱用されている現状に対し、懸念を抱いています。ビジネス・プロセスが、システム開発においてどのような位置にあるか?ということを明確にするためにも、BPMという言葉が、プロセス設計・プロセス導入・プロセス評価というサイクルを継続的に実施する という定義で活用されることが、まず必要だと感じます。
 

経営(ビジネス)と情報(IT)の架け橋
図3:経営(ビジネス)と情報(IT)の架け橋

 

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