DevRelとアウトプット活動

2024年11月12日(火)
中津川 篤司
今回は、DevRelに関わるサードパーティーの企業や開発者にとってもメリットがあるアウトプット活動について解説します。

はじめに

DevRelの大きな役割の1つに「認知獲得」があります。つまり、まだ知られていない自分たちのサービスやプロダクトを広める(認知してもらう)ための活動です。そして、そのために大事なのが「アウトプット活動」です。

今回は、DevRelにおける、そのアウトプット活動の種類や効果について解説します。

アウトプットの大別

アウトプットというのは、主に以下の2つに大別されます。

  • 公式
  • サードパーティー

「公式」とは、もちろんサービス提供プロバイダーからの情報です。例えば、公式ブログや公式Twitterアカウント、公式GitHubリポジトリなどがこれに当たります。

「サードパーティー」とは、そのプロダクトに関わってくれている外部の開発者やパートナー企業などからのアウトプットです。こちらも大事なアウトプット要素です。

アウトプットの種類

アウトプットには、主に以下の種類があります。

テキスト

テキストによるアウトプットとしては、ブログ記事やドキュメントが挙げられます。これは、説明や新しいテクノロジーの解説を行う際によく使われます。最も多いアウトプット形式です。

アウトプット先として例(Qiita)

テキストであるメリットは、Web検索にひっかかることです。既存ユーザーはもちろん、ユーザー対象となる開発者が日々の業務で抱えている課題や疑問を解決できる記事を書くことで彼らの悩みを解決し、信頼を得られます。

また、最近ではChatGPTなどのAIエンジンに対してコンテンツが取り込まれる効果も期待できます。チャットで何か質問した際に、自分たちのサービスがリストアップされるためにも、テキストコンテンツの拡充は重要です。

コード

コードによるアウトプットとしては、SDKやライブラリ、デモアプリなどが挙げられます。ちょっとしたスニペットであればブログ記事やドキュメントに埋め込まれますし、SDKなどはGitHubリポジトリで公開されることが多いです。また、各プログラミング言語のパッケージ管理システムにも登録されます。

アウトプット先の例(GitHub)

開発者はコードを見ることで実際の利用方法を学べます。ユースケースはさまざまなので、多種多様なコードがあるに越したことはありません。ただし、フレームワークや依存ライブラリのバージョンアップに追従する必要があるので、定期的なメンテナンスが必要です。

コードによるアウトプットは、ハンズオンに使われたり、プレゼンテーションの中でも利用されるので、再利用性の高いアウトプットだと言えます。

画像

DevRel文脈においてInstagramなどはあまり活発に使われていません(インドでは一部います)。しかし、認知特性(どういった情報が認知されやすいか)から考えると、画像は非常に重要なアウトプットです。

画像はテキストほど情報が詰め込めないので、情報を整理する必要があります。そこでは知識の再構築が行われており、開発者はその結果を画像として得られます。より直感的に理解できるので、認知獲得には有効です。

システムのアーキテクチャ図やフローチャート、スクリーンショットなどが画像アウトプットの例です。また、インフォグラフィックスのような見た目にインパクトのある画像は、プレスリリースなどでも再利用されます。

動画

動画はここ数年、一気に伸びてきたアウトプット形式です。YouTubeやTwitchなどのプラットフォームが普及したことで、誰でも簡単に動画をアップロードできるようになりました。

プログラミングの解説やデモ、サービスの使い方などを動画で解説します。動画はテキストや画像よりも情報量が多いので、より詳細な情報を伝えられます。また、実際の操作手順を見せることで理解しやすくなります。

アウトプットの例(YouTube)

他にもプレゼンテーションやイベントの模様を収録した動画もあります。一次リソースが別にあり、その再利用先としての動画はとても価値が高いです。

ただし、動画は作成に時間がかかり、メンテナンス工数も大きいのが難点です。頻繁に変更する可能性が高い情報を動画で発信することはお勧めできません。

登壇

勉強会やミートアップといった小規模なものはもちろん、カンファレンスやサミットのような大規模なものまで、登壇する機会は数多くあります。登壇する際には、これまでの経験や知識を動員し、再構築する必要があります。

登壇は一般的にスライドを作成したり、簡易的なデモを作成するなど他のアウトプット活動にもつながるものが多いです。また、アーカイブ動画を残せば、永続的に価値を提供できます。

筆者がDevRel/Japan Conferenceに登壇した際の様子

準備が大変ではありますが、それ以上の価値をもたらしてくれるアウトプット活動であると言えます。

スライド

イベントなどで登壇したら、そのスライドを公開するのが一般的です。このとき、Speaker Deckなどで一般公開する場合もありますし、フォームで名前やメールアドレスを入力した上でダウンロードできるようにする場合もあります。後者はよりマーケティング要素が強いです。

アウトプットの例(Speaker Deck)

スライドも画像と同じく、知識の再構築結果と言えます。そのため、不定型な知識が体系化されており、より短時間で情報を吸収、理解できます。

なお、スライドは誰でも自由に獲得でき、他の誰かと共有される可能性があります。一部だけを切り取られても情報が正しく伝わるような構成・表現が求められます。

書籍・白書・レポート・eBook

書籍や白書は情報を体系的にまとめた、より長期的なアウトプットです。これは、開発者がより深く知識を得るために利用されます。白書やレポートは業界全般についてまとめたもので、その業界でのイニシアチブを取るためにアウトプットされることが多いです。

書籍の例

書籍は紙の書籍の場合もあれば、電子書籍の場合もあります。電子書籍の方がより手軽に作成・入手できる一方、紙の書籍はより信頼性が高いとされます。

開発者が何か新しいキーワードに出会った際に、Web検索はもちろんAmazonでも書籍を検索することが多いです。その際に最適なリソースを提供できるよう、書籍を用意しておくのは有効なアプローチです。

サービス提供企業側から見る
サードパーティーアウトプットのメリット

公式ではない、外部の開発者やパートナー企業のアウトプットがなぜ重要なのでしょうか。それは主に以下のような要因があります。

現場のリアルな情報

これからサービスを利用しようと考えている人たちが欲しているのは、実際にそのサービスを使ってみた感想やユースケースです。公式情報だけでは得られない、より現場に近い情報を必要としています。そして、開発の中で実際に利用した人たちの率直な感想こそ、その情報源になります。

忖度ない意見

多くの場合、外部からの発信は忖度ない意見だと期待されます。対して、公式の情報というのは一定の方向性があると感じてしまうものです。そのため、より客観的な意見が期待できるサードパーティー情報の方が、読者にとっては受け入れやすい傾向があります。

圧倒的な情報量

IT技術の進化は早く、新しいサービスやフレームワークが日々登場しています。それらすべての情報を公式サービスのリソースだけで追いかけるのは困難です。一般的に、公式サービスが1企業なのに対して、外部の開発者やパートナー企業は圧倒的に多数です。そのため、サードパーティー情報の方が情報量が多くなります。

公式では書けない情報

公式では書けない情報として、例えば他社サービスとの比較記事があります。こうした情報は実際に試した人が比較して記事化してくれたり、そのメリット・デメリットを開発者目線で書いてくれます。実際、比較記事からユーザー登録につながるケースは多いので、そうした記事の持つ価値は非常に高いと言えます。

デメリット

非常に有益な情報が多いサードパーティーアウトプットですが、注意点もあります。

・情報の信頼性
公式情報と違い、サードパーティー情報は信頼性が低い傾向があります。それはサービスを正しく理解していないことに由来する場合もあれば、サービスの更新により情報が古くなっている場合もあります。サービス提供側はコンテンツコントロールは難しいので、正しい情報を届けられるように発信し続ける必要があります。

・深い知識の欠如
一般的にサードパーティー情報は「触ってみた」「試してみた」といったコンテンツが多くなりがちです。それはそれで良いコンテンツなのですが、より一歩踏み込んだコンテンツは出づらい傾向があります。そうした情報は複雑になりますし、対象読者も減ってしまうためです。書くのに苦労する割には、読まれる機会が少ないのが難点です。

サードパーティーアウトプットが
自分たちにもたらすメリット

逆に、サードパーティーの開発者やパートナー企業はアウトプット活動を通じて、どんなメリットが得られるでしょうか。

強みをアピールできる

アウトプット活動を通じて自社の強みをアピールできます。これの最たる例は、クラスメソッド社のDevelopers.ioでしょう。AWS(最近はそれ以外にも)に関する圧倒的な情報量で他社を圧倒しています。AWSについて非常に深い洞察を持っており、安心して仕事を依頼できる企業は多いはずです。

これは個人にとっても同じです。自分の経験をアウトプットすれば、強みやスキルをアピールできます。これは転職活動においても有効です。

パートナープログラム・チャンピオンプログラムへの参加

各種パブリッククラウドがチャンピオンプログラムを提供しています。年間を通じたアウトプット活動やコミュニティへの貢献が評価され、認定される制度です。各種特典もあり、何年も連続で獲得している方も多いです。

Microsoftのチャンピオンプログラム

パートナー認定制度の中には、その実績に応じてランクが分かれます。ランクによって割引率が変わるため、より高いランクを獲得するメリットは高いです。実績にはアウトプット活動も含まれるため、アウトプットする価値がビジネスと直結して理解できます。

社内の開発者の意欲が高まる

開発者の仕事はシステムを開発することですが、その結果をアピールできないのは辛いことです。世の中の多くの開発者は、アウトプットしたいと考えているはずです。それを阻害するような行為は、開発者の業務意欲を押し下げてしまいます。

もちろん、アウトプットを喜ばない開発者の方もいますので、強制は良くありません。しかし、アウトプットをしたくなるような評価制度を設けたり、サポートする体制を構築するのは大事なことです。

おわりに

今回は、DevRelにおけるアウトプット活動について、公式とサードパーティーの視点からまとめてみました。DevRelを行っている企業としては、いかにサードパーティーアウトプットを増やせるかが、他社との差別化や自社サービスの優位性につながります。

逆に、サードパーティーの企業や開発者にとっても、アウトプット活動にはメリットがあります。まだはじめていなかった方も、ぜひこの機会にアウトプットにトライしてみてください。

オープンソース・ソフトウェアを毎日紹介するブログMOONGIFT、およびスマートフォン/タブレット開発者およびデザイナー向けメディアMobile Touch運営。B2B向けECシステム開発、ネット専業広告代理店のシステム担当を経た後、独立。多数のWebサービスの企画、開発およびコンサルティングを行う。2013年より法人化。

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