資格試験がなぜ必要なのか(第1回)

2016年8月9日(火)
瀬戸 美月

資格なんて取っても使えない?

「資格なんて取っても意味ないよ。開発の仕事は経験が大事。」

昔、私がシステム開発会社の新人の頃、そんなことをよく言う先輩がいました。
ただ、その人は、確かに経験は豊富だったのですが、お世辞にも仕事が"できる"という感じではありませんでした。そのため、新人の私も、なんとなく聞き流していたのです。

逆に、転職して所属した部署の部長は、ものすごく仕事ができる人でした。
この人は忙しそうだし、資格試験の勉強なんてする暇なさそうだな、ってずっと思い込んでいました。
でも、実際に聞いてみると、

「会社が取れっていうから一種を受けに行ったよ。特に勉強しなかったけど受かった。」

と言われて驚きました。一種(第一種情報処理技術者試験。今の応用情報技術者試験の前身)って、本当に実力がある人だったら、机上の勉強って必要ないんだ、ということを知りました。
また、部長は、

「意外と、実際にやったことあることが出てきた」

とも言われていました。確かに、その部長はプログラミング言語も自分で作ってしまう人でしたし、幅広く深い経験があれば、一種の内容は基本的なことではあります。改めて、資格試験の意味を考え直す出来事でした。

資格試験、特にIT系の資格には、「合格するだけで安泰」という切り札となるようなものはありません。IT関連の仕事には、"資格がないとできない業務"はありませんので、どうしても取らなければならない、ということはないのです。
ただ、実際に仕事ができる人は資格を持っていることが多いですし、資格試験に合格できる、ということは一定のスキルがあることの証明になります。場合によっては、資格試験の勉強をすること自体が、仕事で使えるスキルを向上させることにもつながります。

実際、資格試験の使い方には、次の3つがあります。

  1. 自分の適性や好きなことを見つける道しるべ
  2. 資格試験の合格を「目標」として設定
  3. 会社への「自分ができること・やりたいこと」のアピール

それぞれについて、その使い方を見ていきましょう。

1. 自分の適性や好きなことを見つける道しるべ

資格試験は、学校での勉強と違って、自分で"適切な資格を選んで"受験するものです。会社などで取得を奨励されることもありますが、基本的には、自分の仕事に関係がある資格を選んで受験することになります。

ただ、資格試験の勉強には、人によって向き不向きがあります。どんな人でも勉強しさえすれば合格するという資格ばかりではありません。特に、難しい資格ほど、試験に合格するためにある程度の適性が必要なものが多いです。その適性は、資格に関連する仕事を行うために必要なものでもありますので、資格の合格が、適性を判断するための指針にもなってきます。

そのため、実際に勉強をはじめてみて、自分に向いているかどうかを確かめるというのは、自分の適性を判断するために有効です。学校での勉強でも得意科目や苦手科目が出てくるように、勉強する楽しさは、その資格の内容によって大きく変わってきます。「勉強しているだけで楽しい」資格を見つけられれば、それが自分進むべき方向への道しるべとなります。

実際、知人のシステムエンジニアの方は、ネットワークスペシャリストの勉強を通じてネットワークの面白さに目覚めました。その後、ネットワーク関連の会社に転職し、ネットワークエンジニアとして働いています。

逆に、勉強していて苦しくてしょうがない場合には、向いていないことが多いです。世の中には多様な仕事がありますし、資格試験も様々なものがあります。1つの資格が無理ならあきらめて、別の資格を選択することも可能です。
特に多いのが、プログラミング関連の資格で苦労されている方です。プログラミングにはある程度の適性が必要となるため、勉強が楽しい人と楽しくない人にはっきり分かれます。プログラミングに向かない人が無理にプログラマになると、自分もまわりの人も不幸ですので、あきらめた方がいいのかもしれません。

IT関連にはいろいろな資格がありますので、自分で勉強してみて「楽しい」と感じられる資格を見つけることもできるはずです。
そんな資格が見つけられたら、仕事も勉強も、もっともっと楽しくなってきます。

大好きなことをやって輝いていこう

2.資格試験の合格を「目標」として設定

何かスキルを身につけたい、というときに、漠然と特定のスキルを勉強する、ということは意外と大変です。興味のあることを思いつく限り学んでいく、というだけだと、なかなか知識がつながって、積み重なっていかないのです。
物事を学ぶためには、体系立てて全体的に学んでいくことが効果的です。その点、資格試験は、勉強する内容が体系立ててまとまっていますので、効率的に全体を学ぶことができます。

また、「こんな資格試験があるんだ」ということを知ることは、勉強してみるきっかけとなります。自分がなりたい職業や、やってみたい仕事内容に近い資格を見つければ、その内容について勉強を始めることは、それほど難しくありません。
資格試験合格という「目標」があると、それに向かって学習しやすいのです。

資格試験にもいろいろあって、特定の製品を使いこなせるようになりたい、特定のスキルを身につけたい時には、その製品を作成している会社(MicrosoftやCISCOなど)が主催する試験を受けるのが効率的です。情報処理技術者試験などの国家試験は、国が幅広く、IT全分野の知識をまとめたものなので、一通り全体のことを学ぶいい教材となります。

ゴールがあると、人はそこに向かって走りたくなります。試験の合格をゴールに設定して、それに向かって走っていきましょう。

ゴールがあると、それに向かって走りたくなる

3.会社への「自分ができること・やりたいこと」のアピール

これが一番定番の使い方になりますが、履歴書などに資格を書くことで、自分の方向性や適性、好きなことのアピールとなります。これは、会社への就職、転職時、だけではなく、社内での昇進、転属時に使えます。

IT関連の日本企業に入りたい方は、基本情報技術者試験などの情報処理技術者試験に合格しておくことは、いいアピールになります。自分の適性も示せますし、システム開発がやりたいのだというアピールに使えます。また、社内で一般職から開発職に移りたい場合などにも有効です。

資格は、ただ数があればいい、というわけではありません。資格の方向性が重要で、就きたい仕事に近い資格、自分の経験に近い資格であるほど有効です。また、難関資格であれば、"取るための努力"が評価されることもあります。

難関資格の勉強は、一夜漬けでできるものではなく、一定期間に継続して、勉強をやり続けることが大切です。そのため、資格試験に合格するだけの勉強を続ける継続力や計画力そのものも、評価の対象となるのです。

とにかく、やってみよう!

資格試験の勉強は、人生を変えるチャンスにもなりますし、勉強を始めてみてはじめてわかることも多いです。イヤならやめることもできますので、勉強するかどうか迷っているなら、とりあえず始めてみる、というのはおすすめです。
まずは一歩、踏み出していきましょう。

資格を取ろうか悩んでいるなら、とりあえず勉強を始めてみよう
株式会社わくわくスタディワールド代表取締役

「わくわくする学び」をテーマに、企業研修やオープンセミナーなどで、単なる試験対策にとどまらない学びを提供中。また、情報処理技術者試験を中心としたIT系ブログ「わく☆すたブログ」や、ITの全般的な知識を学ぶサイト「わくわくアカデミー」など、様々なサイトを運営。 保有資格は、情報処理技術者試験全区分、高等学校教諭一種免許状(情報)他多数。著書は、『徹底攻略 情報セキュリティマネジメント教科書』『徹底攻略 応用情報技術者教科書』『徹底攻略 データベーススペシャリスト教科書』(以上、インプレス)、『新 読む講義シリーズ 8 システムの構成と方式』『新 読む講義シリーズ 8 システムの構成と方式』『インターネット・ネットワーク入門』『新版アルゴリズムの基礎』(以上、アイテック)他多数。

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