仮想化環境のストレージ選び
今回(第2回)の最後に、今後のクラウドにおけるストレージについて展望します。
エンタープライズ・ストレージの限界
これまで、ハイエンド級のストレージは、エンタープライズ・システム(主に大企業の、全社的な企業情報システム)向けに発展してきました。高価なストレージは性能も信頼性も高いですが、クラウド環境においては、いくつかカバーできないところがあります。
- 余裕を持った設計ありき
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エンタープライズ・システムにおいては、厳密に予測(要求)されたシステム性能要件に対して、完全な解決策を提供するのが普通です。裏を返すと、前提となっている処理量を超えた場合は性能を保証しないということです。
ところが、クラウドでは、処理量はコントロールできません。クラウド環境は、常にレッド・ゾーンぎりぎりで走っている車のようなものです。時には、レッド・ゾーンを振り切っても壊れずに走り続けられることが重要です。パンクしても走り続けられるタイヤのようなタフさが必要です。
- 計画停止
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エンタープライズ・システムは、計画停止によるメンテナンスを前提としています。例えば、BIOSのアップデートやディスク・エンクロージャの追加など、停止が必要となるメンテナンス作業があります。クラウドでは、ワールド・ワイドで多様なシステムが稼働するため、計画停止できるような余裕はありません。
- 設定変更リスク
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無停止で設定を変更できる場合であっても、大幅な性能低下が起こることが少なくありません。これは、ベンダーもほとんど認識していない場合が多く、クラウドの本番環境でいきなり遭遇する危険性があります(エンタープライズ・システムでは、深夜などのアクセスが少ない時間にメンテナンスを行うため、問題にならない)。
また、共有ストレージは仮想化環境の要であるため、性能障害が発生した時の影響は計り知れません。
- コスト競争力
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言うまでもないことですが、今後のクラウド・システムにおいては、これまでのハイエンド・ストレージは高価過ぎます。また、これまでのハイエンド・ストレージはベンダー技術者のエンジニアリング・コストも非常に高価です。クラウドではビジネス的に成り立たないでしょう。
クラウド向けに設計されたストレージ
3PARに代表されるように、最近はクラウドに最適化されたストレージが開発されています。まだ発展途上ですが、いくつか実用的なストレージを紹介します。
- クラウド・ストレージの特徴
- IOPS処理能力が高い。
- 設定変更時(例えばボリューム作成時など)の性能低下がほとんどない。
- シン・プロビジョニング機能により、ディスク実容量の節約とプロビジョニング時間の短縮(これが意外に重要)を図れる。
- 無停止のメンテナンス
- ディスク単体性能に依存しない、データ分散機能
図3: データを複数ディスクに分散配置する
- 代表的な製品
- 3PAR(米Hewlett-Packardが買収)
- 今お薦めなクラウド・ストレージ。iSCSIもあるがFC接続が良い - EqualLogic(米DELLが買収)
- iSCSIテクノロジをじゅうぶんに生かしたストレージ - XIV(米IBMが買収)
- 元EMCのコア技術者による新アーキテクチャ採用ストレージ
- 3PAR(米Hewlett-Packardが買収)
SSDの脅威
GS10-IIにおいて「superストレージ」と位置付けている半導体ストレージは、今後のキラー・テクノロジです。半導体ストレージと表現しているのは、いわゆる一般的に売られているSSDの形態に限らないからです。現時点では、大きく3つの種類があります。
- DRAMストレージ
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いわゆるDRAMメモリーをストレージとして使用する。最も高速だが、コストが高いうえに電源断リスクがある。
- PCI直結NANDフラッシュ
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米Fusion-ioが先行。非常に高速で高信頼性だが、価格が結構高い。そこまで高性能が必要なアプリケーションは少ない。PCI Expressバス直結なので、RAID(ミラー)ができない。歴史が浅いため、本当に高信頼なのかを実証できていない。
- エンタープライズ用SSD
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STEC MACH8、INTEL X25-Eなど、SATAインターフェースのSLC SSD。一般的にいわれるSSDのこと。SSDの性能はピンキリ。
SATA用のRAIDコントローラでRAIDを組むことができるが、古いRAIDコントローラでは動かない場合もある。単体では米Fusion-io(PCIe直結)よりもかなり遅い(それでも、ハード・ディスクよりは高速)。ストライピング構成をとれば速くなるが、SATAインタフェースやRAIDコントローラの性能ネックに注意。
SLC(Single Level Cell)とMLC(Multi Level Cell)があり、通常のサーバー用に使う場合はSLCを利用する(書き込み速度および高信頼性)。SSDには書き込み寿命があるが、通常の利用で実際に寿命がくるのかどうかは、歴史が浅くて分からない。
SSDは日々進化しているので、数年後にはハード・ディスクを置き換えるかもしれない(ハード・ディスクは大容量に限って生き残る、など)。
SSDソリューション
SSDは高価で容量が少ないので、安価で大容量なSATA接続のハード・ディスクと組み合わせるのが今後のトレンドです。3PARでは、ストレージのホット・スポット(アクセスが集中する部分)に限ってSSDに割り当てて、それ以外の領域はSATAのハード・ディスクを使うという最適化機構を備えています。
また、オープンソースでも利用できるZFSファイル・システムでは、L2ARC(Read用の拡張2次キャッシュ)にSSDを使用して、SATAのハード・ディスクと組み合わせられます。ZFSアプライアンスとして、米Oracle(ZFSを開発した米Sun Microsystemsを買収)だけでなく、さまざまなベンダーが発売しています。もちろん自社で構築することも可能です。
上位レベルでのHA
VMwareに代表されるサーバー仮想化ソフト(ハイパーバイザ)では、HA(High Availability)機能を使うために、外部の共有ストレージが前提となります。このことが、ストレージがボトルネックになる原因となっています。
しかし、米Googleに代表されるようなクラウド・アプリケーションは、より上位レベルで冗長化をとっているので、仮想化レイヤーのHA機能に頼る必要がありません。今後一般に開発されるシステムも、クラウド仕様として、より上位レイヤーで冗長化をとる手法がとられていくと思います。そうなると、ストレージの選択肢も、大きく変わります。より低コストで高速なストレージ環境が得られることになります。