バックアップ運用がもたらす復旧への影響

2011年6月21日(火)
関 信彦

影響と時間

非常にシンプルな例を導入し、影響の度合い、規模感を把握してみたいと思います。例として、年間100億円の売り上げがある企業、もしくは事業部門において、業務システム(ここでは、生産システム、物流システム等のクラスA(前項参照)のシステム)が停止してしまった場合を取り上げてみようと思います。

このシステムには、総容量2TB程のデータがあり、フルバックアップを取得していると仮定します。よって、普及に際しては、フルバックアップからのデータリストアが必要になるという前提です(図2)。

復旧に際し、ここでは状況をよりシンプルにするために、いくつかの前提をさらに加えます。電源は復旧、もしくは問題なく可動し続けていて、ネットワークも使用できる状態になっていたとします。作業要員も確保されていて、さらにハードウエアの修理、交換なりができている状況とします。つまり、データをテープからリストアし、システム、業務アプリケーションの再設定、テストをすることだけが残っている作業とします。

それでは、この残った作業の時間は、どのくらい掛かるのでしょうか?2TBをすべて書き戻すとするとバックアップメディアにもよりますが、相応の時間が掛かることは確かです。前回、バックアップメディアの読み取り時間についての試算をいたしましたが、そのデータをここで適用してみると、2TBを書き戻すのに7時間掛かることになります。本来ならさらに条件が加わり、時間の増分もありえます。

さらに、システム、業務アプリケーションの再起動や、テストで消費する時間を仮に3時間とすると、業務アプリケーションが稼働する状態にシステムを復旧させるために要する時間は合計10時間となります。

ここで、年間100億円の売り上げがある企業・事業部門ですので、10時間のシステム停止による損出は、すなわち、「100億円×1/365日×10/24時間」の計算から約1,140万円となります。さらに、バックアップ容量がさらに増せば時間も損出も増すことになります。

さて、図1で示したクラスAのシステムにおいては6時間を設定しているとすると、上述の例ではシステムの復旧だけで10時間が掛かるのであれば、復旧の仕組み自体を見直す必要があります。

図2:復旧作業

現実はさらに深刻

シンプルな想定で、損出の規模感を把握しましたが、現実的な条件を付加すると復旧までの時間がさらに長くなります。例えば・・・テープ運用も、直前までのデータに復旧することを考えると、差分バックアップしていたテープの適用等で運用オペレーションが複雑になり、さらに時間を消費する。また、ハードウエアの手配の時間、要員確保といった事前の手配に関わる多寡によって変動します。さらに、電源、ネットワークといった設備をはじめとした、環境面での準備による有無も影響します。

これらを加味した所要時間の把握はIT-BCPを考える上で重要な調査事項になります。また、どの作業に一番時間が掛かるのか? 試算上は、明らかにシステム復旧、特に業務データのリストアが、バックアップ容量の増加に伴い、リストアする時間を消費することも考慮する必要があります。

ここでの試算からもわかるように、データのリストアによる時間が重要なファクターになっていることは確かです。復旧の仕組みとして、データの書き戻しを前提にしている以上は、この時間の短縮は、バックアップメディアをディスクにしたとしても、根本的な短縮対策にはなりません。容量の増加傾向がさらに高まる現在においては、復旧を考慮すると、従来型のバックアップソリューションを基本とした現行のバックアップ運用には限界があります。

次ページでは、従来の方法とは全く違う方法でのアプローチを紹介し、上述の例に当てはめてその違いを見ていきたいと思います。

ファルコンストア・ジャパン
外資サーバベンダーとソフトベンダーにてシステムアナリスト、プロダクトマネージャ、プロダクトマーケティングという職域で日本のITビジネスに長年携わる。2009年9月より現職。現在、BCPをはじめとした昨今のニーズに合った新しいデータ保護(バックアップ&リカバリ)の市場開拓、マーケティング業務に携わる。
http://www.falconstor.co.jp/

連載バックナンバー

Think ITメルマガ会員登録受付中

Think ITでは、技術情報が詰まったメールマガジン「Think IT Weekly」の配信サービスを提供しています。メルマガ会員登録を済ませれば、メルマガだけでなく、さまざまな限定特典を入手できるようになります。

Think ITメルマガ会員のサービス内容を見る

他にもこの記事が読まれています