iPadと正反対の哲学を持つ新ハードenchantMOONの魅力とは
株式会社ユビキタスエンターテインメント(以下:UEI)は、手書きメモに特化した独自OS搭載コンピュータ「enchantMOON(エンチャントムーン)」の一般向け予約を開始した。
今回は五反田の「ゲンロンカフェ」で4月23日に行われたenchantMOON内覧会の様子を紹介する。
人間は、新しいことを考える時、必ず手書きで考える
午後1時から始まった発表会では、ユビキタスエンターテインメント(UEI)の清水亮氏より、enchantMOONが生まれた経緯とコンセプトが説明された。
清水氏は冒頭、Appleは電話を再発明したが、我々は紙を再発明する、と述べ、自身もファンであるiPhoneとiPadを例に上げながら、iPhoneやiPadからスタイラスを排除したことは間違い、と指摘。これまでの歴史において、人類がペンもしくはそれに準じた「先を尖らせた筆具」なくして文明の発展はなかったと熱く語った。
また、文字についても言及し、PCで入力した文字は画一的で整理されているものの、それ故に手書きの文字や線と比べると圧倒的に表現力に乏しく、これほどPCの普及した現在でも、あらゆるところに手書き文化が残っているのは必然なのだという。
もちろん手書きにも弱点がある。それは、“検索”と“共有”すること。PCで作成された書類は、サーバーやクラウド上で誰にでも見せられるし、文字列などで様々に検索できるが、紙に書いたメモはそのまま共有したりすることができない。
そこで、手書き表現の豊かさを生かしながら、さらに検索と共有を可能にするとenchantMOONをアピール。実機を使って行われたデモンストレーションでは、日付や名前、パスワードなど、はじめてenchantMOONを使うところから、手書きの表現力を生かしたメモや文字認識機能を、付属のデジタイズペンを使いながら解説していった。
途中からは、enchantMOONのデザインやプロモーション映像に関わった中心メンバーも加わり、出来上がったばかりの製品についてそれぞれ感想を述べた。
コアメンバーによる、enchantMOONができるまで
登壇したのは、コンセプト制作に関わった哲学者で作家の東浩紀氏、筐体のアイデア出し、デザインを行ったイラストレーター・漫画家の安倍吉俊氏、プロモーション映像を制作した映画監督の樋口真嗣氏といったそうそうたるメンバーで、ようやく形になった実機を手にしながら、それぞれの経緯を述べた。
東氏は、前述した清水氏の発言、iPhone・iPadからスタイラスを排除したことはジョブス最大の失敗だという話を、フランスの哲学者ジャック・デリダの発言を例に取りながら純粋主義だと説いた。“ペンを使って書く”という行為は“自分の口で話す”ことの代用であり、思想する行為にはこうした代用品は邪魔であるという。
しかし一方で、こうした純粋主義はそれほど意味がないともデリダは言っており、指と声だけで操作する純粋主義的なiPhoneやiPadとは異なり、ペンやキーボードを使ってこそ人間の可能性が広がるのではないかという考えから生まれたのがenchantMOONであると述べた。同じようなタッチインターフェースを持ちながらも、iPhone・iPadとenchantMOONは哲学的に正反対のマシンだということになる。
これまで様々は電子デバイスで描くことを試してみたものの、思い通り出来ずに何度も紙の方に戻ったという経緯を語った安倍氏は、出来上がったenchantMOONを触って良い手応えを得たと述べた。以前にもハードウェアのデザインの話があったものの、多忙などの理由で実現しなかったこともあって、今回自分が欲した製品のデザインを出来たことは幸せだと話した。
また、プロモーション映像の統括を務めた樋口氏は、安倍氏のイラストから立体形状を起こしていった経緯を清水氏と話しながら、想像したものを形にする、またそれを量産する製品に落としこむ作業の大変さを、自身の立場から改めて感じたようだった。実際の製品には樋口氏の意見も各部分に取り入れられているという。また映像制作の裏話も語られた。
視覚的にプログラミングができる「前田ブロック」
また、発表会の後半では、元「タミヤの前ちゃん」ことCHO(クリエイティブ・ホビー・オフィサー)を務める前田靖幸氏から、enchantMOONでも使われているビジュアルプログラミング言語「前田ブロック」が紹介された。ブロック上のソースを組み合わせることで、小学生から大人まで、誰でも視覚的にプログラミングを楽しむことが出来る。
前田氏は、自身が以前関わっていたミニ四駆と前田ブロックには、すぐに走らせることが出来る、リトライが感覚的に容易、などの共通部分があると話した。子どもたちにとって、今以上にプログラマーが格好いい存在だと思ってもらえるよう取り組んでいきたいと語った。
ひと通り発表が終わった後、製品に触れることが出来たため、出席者たちは思い思いに手書きの感触やハードウェアのさわり心地を試していた。
発表会で紹介されたのはプロトタイプだったためか、まだ動作に不安定な部分も多かったが、製品版ではよりブラッシュアップされたものになることを期待したい。
製品の特長、スペックおよび価格
enchantMOONの主な仕様は以下。
enchantMOONハードウェア概要
- CPU:AllWinner A10 1.2GHz
- OS:MOONPhase
- ディスプレイ:8インチXGA(1024×768)フルカラーディスプレイ
- 入力方式:静電容量タッチパネル + アクティブ式デジタイザーペン
- ヒープメモリ:1.0GB DDR3
- ストレージ:16GB
- 通信方式:Wi-Fi (802.11b/g/n)
- カメラ:フロントカメラ及びセルフカメラ
- バッテリー:5000mAh/3.7V
- 付属品:ACアダプタ
- 専用USBケーブル
- 専用ペンホルダー付きストラップ(初回出荷限定)
- 価格 : 39,800円(税込) 送料別
※オンライン予約は代金引換のみで送料・手数料別
その他の特徴
- 手書きノート検索機能
- Web検索と切り取り機能
- 撮影機能
- シール機能
- ハイパーテキスト機能
- ビジュアルプログラミング機能、他
なお、現時点(4/26)で初回生産分は完売。次回分の提供は6月中旬以降となる(公式サイトより)。
【関連リンク】
(リンク先最終アクセス:2013.04)
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