「システム運用は必要経費」という認識は大きな間違い!?
システム運用と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。
システムが正常に動作するための定常業務、あるいはその状態を維持するためだけの非生産的な業務、非クリエイティブな職種、さらには、世の中にない新しいものを生み出すというイメージの強いシステムデベロッパー、ソフトウェアデベロッパーたちの後始末(後処理)的な後ろ向きな業務、エンジニアの窓際族、などなど。
本連載は、そういったネガティブなイメージを払拭し、システム運用や監視業務がいかに重要な業務であり、いかにクリエイティブな業務であるかを理解していただくことを目的として、執筆したものである。
また、本当は開発に携わりたかったのだが希望どおりに配属されず、運用業務が「楽しくない」「つまらない」と、退屈な仕事として日々取り組んでいるエンジニアの方々に、夢と希望をもち、日々胸を張って仕事に励んでいただきたい、という願いも込められている。
ぜひ、本連載から1つでもいいので、何かヒントを得て日々の仕事に取り込み、「システム運用」という仕事を楽しく、クリエイティブなものに変えるきっかけとしていただきたい。
システム運用とは
システム開発は投資活動である。また、システム運用も投資活動である。
多くの場合、システムを開発するという行為は、投資活動にあたる。なぜならば、通常、開発プロジェクトが立ち上がるまでに、開発に要する「コスト」「期間」「完成したシステムから得られるリターン」「それまでに投下したコストの回収に要する期間」などといったものが見積もられ、投資効果や費用対効果として十分なリターン(あるいは付加価値)が得られると判断されたからこそ、システムの開発プロジェクトが立ち上げられるからである。
だからこそ開発コストには神経質になるし、開発会社への減額要求も厳しいじゃないか、という声もあるかもしれない。では、カットオーバー(システム稼働開始)後の運用コストについてはどうだろう?「運用コストは必要経費」という認識が多いのではないだろうか。
システム運用と運用コスト
図1を見ていただきたい。
これは、とあるシステムの開発プロジェクト開始から、カットオーバー、その後の保守・運用フェーズを通した時間と、バリュー(リターン投資額)との関係を示したものである(議論を簡単にするために、開発プロジェクト立ち上げ前の企画検討段階のコストは割愛した)。
図1のように、開発プロジェクトの開始と同時に、投資そのものがスタートする。その間、「要件定義」「設計」「実装」「テスト」と続き、カットオーバーするまで、そのシステムはバリューを生まないので、ひたすら投資額が膨らみつづける。
開発部隊の立場からすると、このカットオーバーこそがゴールなので、このゴールを目指すのであるが、システムのライフサイクル全体から俯瞰すると、このカットオーバーの時点は、実際には投資額が一番膨らんだ底の状態だ。システムが完成し、実運用に入るカットオーバーこそが、システムにとっての本番が開始し、それまで費やしたコストを回収しつつ、なおかつそれを補って余りあるリターンを得るためのフェーズが開始される。この重要なフェーズこそが、「運用・保守フェーズ」と言われるものだ。本来のゴールは、このフェーズでの損益分岐点を超えた先の、「次の投資タイミングまでにどの程度のリターンを得たか」にある。
図1のグラフからわかるように、カットオーバー時点でグラフがどこまで沈むか、という深さが開発コストを表す。それに対して運用コストは、カットオーバー後のバリュー増加の傾きを決定する。当然、運用コストが大きくなると、傾きが小さくなり、それまでのコスト回収に要する期間が伸びることになる。
通常、1つのシステムの利用期間は、3年〜5年を想定している場合が多い。しかし、場合によっては、利用期間を経過しても、かかったコストを回収しきれない状況に陥ってしまうことが発生しうる(図2)。