楽天テクノロジーカンファレンス2014レポート 今年の主役はオープンソース
2014年10月25日、秋晴れの土曜日に楽天株式会社のエンジニアのお祭り、「Rakuten Technology Conference 2014」が今年も品川シーサイドの楽天本社にて開催された。今回は前々日の木曜日にオープンソースソフトウェアで今、一番勢いのあるコンテナーテクノロジーのDocker、インフラの自動化、コード化を支援するChef、それにシステム構成管理ツールのPuppetに関するコミュニティミートアップも開催され、昨年のテクノロジーカンファレンスに比べてオープンソースにコミットし始めた楽天の姿が鮮明になったイベントとなった。前々日のDocker、Chef、Puppetのエバンジェリストを招いたコミュニティミートアップと合わせて如何に楽天がオープンソースソフトウェアを活用し始めているのか、イベントの写真を交えてレポートする。
Docker、Chef、Puppetから始めるオペレーションの自動化
カンファレンスの前々日に行われたコミュニティミートアップと題されたセミナーでは、Dockerのエバンジェリスト、ネイサン・ルクレア氏、Chefのエバンジェリスト、マイケル・ドゥシー氏、Puppetのパトリック・ケルソー氏がそれぞれ20分程度の時間でプレゼンテーションを行い、それに対して会場からの質問を受けるという形式で始まった。当初予定されていたOpenStackのコミュニティマネージャー、トム・ファイフェルド氏は予定が合わず、土曜日のカンファレンスからの参加となった。
最初にプレゼンテーションを行ったルクレア氏は短い時間ながらDockerのデモや最近発表されたマイクロソフトによるDockerに関する発表を元にDockerがアプリケーションやシステム環境の移行を支援するコンテナー技術が拡がっていることを紹介。さらに土曜日のプレゼンテーションではDockerを使った開発環境であるFigをデモで紹介。またコンテナー同士が通信を行う際のアンバサダーというコンセプトのデモを見せ、コンテナーテクノロジーの将来像を垣間見せた。Dockerは新しい仮想化への一歩では?という質問が多いことに関しては、Dockerは既に確立されている仮想化技術の代替ではなくあくまでもアプリや環境の移行のためのツールであると強調した。
Chefのドゥシー氏はChefのコンセプトと動作メカニズムなどをプレゼンテーションし、Puppetのケルソー氏はテクニカルなトピックをあえて説明せずにアジア・パシフィックでのPuppet Labの活動などをジョークを混ぜながら説明した。
Docker、Chef、Puppetという現在、最も注目されているコンテナー及び自動化ツールのベンダーを招待した背景には楽天の内部において運用チームが真っ先にオープンソースを社内に取り入れようとしていることの証拠だろう。
OpenStackが更に拡大
土曜日のテクノロジーカンファレンスではOpenStack Foundationのコミュニティマネージャーであるトム・ファイフェルド氏が登壇。OpenStackが世界中で受け入れられつつある現状をスライドで示した。よく知られている日本国内の事例としてはGMOインターネットのConoHaやヤフーの事例だが、ファイフェルド氏のスライドでは楽天の名前が大きく取り上げられ、今回のスポンサーへの配慮が垣間見えた。
ファイフェルド氏がプレゼンテーションの中で強調していたのは、OpenStackに対する支援の拡がりだ。最新のリリース、Junoにおいてコードやパッチを書くコントリビュータの数は133の組織から約1500名が参加したという。これは前のIcehouseのリリースから16%増えている。更に世界各地でOpenStackを啓蒙するイベントが開かれていること、コミュニティからのフィードバックを重要視していることなどが説明された。プレゼンテーションの中で興味深かったのは、MinecraftというゲームのサーバーをComicConというイベント会場用に立ち上げなければいけない状況に対応出来たのはOpenStackだったという事例だ。日本ならAWSかGoogleのサービスに頼るところだが、ゲームのサーバーというトラフィックの集中するサービスをOpenStackを使って乗り切れるだけのノウハウが既にエンドユーザー側にある程度、出来上がっている証拠だろう。
楽天のクラウドプラットフォームはOpenStackへ
さて、OpenStackのコミュニティマネージャーのプレゼンテーションの後は楽天でのOpenStack導入事例を見てみよう。プレゼンテーションをしてくれたのはGlobal Operation Department、Japan Platform Section、Data Store Platform Groupの佐々木健太郎氏だ。
佐々木氏は、流暢な英語でなぜOpenStackを楽天のオペレーションチームが選択したのか、を最初に語った。それによるとOpenStackはREST APIによるアジリティ、インフラの抽象化による拡張性、そしてOSSを社内で広めるためと3つのポイントを挙げて説明、コストの低減よりも拡張性と素早く構築、運用が可能であることが重要であることを示した。さらにOpenStack以外で使用されている他のオープンソースソフトウェアについても言及し、JenkinsやChef、Dockerなどがオペレーションの現場で実際に活用されている実態を明らかにした。
今回のプレゼンテーションでは楽天でのオープンソースソフトウェアの導入の原則が紹介された。それによると「世界のオープンソースデベロッパーとオープンソースソフトウェアを活用せよ」(原文は英文:”Take advantage of global developers and open source”)というメッセージとともに
- オープンソースのメインストリームについていくこと (Follow open source mainstream)
- 必要な場合以外はコードを分岐しないこと (Don't fork unless required)
- 必要な場合はプラグインを書け (Build plugin when needed)
- コミュニティに還元せよ (Contribute Back)
という具体的な指針が示された。これはこれからオープンソースソフトウェアに取り組もうとする企業や組織においても重要な方針として参考になるのではないだろうか。
最後の「コミュニティに還元せよ」に関しては既に結果が出始めている。まだ半年という短い期間で最新バージョンのOpenStack Junoリリースにおいて楽天から5件のコミットが行われていることが紹介された。HPやMirantis、RedHat、NECなどのITベンダーに混じって楽天からのコントリビューションも今後は増えていくと予想される。
楽天のテクノロジーカンファレンスでは他に「曲がり角の先を見よ」という楽天の始まりから未来を見据えた三木谷浩史会長のキーノートスピーチやマイクロソフト本社でWindows95の開発にも携わった中島聡氏の「イノベーションにはなによりも個人の情熱が必要」、「理念よりも実際にモノを作ることが大事」と熱弁を奮ったプレゼンテーションやRubyの生みの親、まつもとゆきひろ氏の講演もあり、集まった参加者は十分に堪能出来たのではないだろうか。
楽天のオープンソース活用は加速する
昨年のテクノロジーカンファレンスに参加した際、とあるセッション後の質疑応答で「楽天としてはCapEx(IT資産の購入コスト)が嵩んでもOpeEx(IT資産の運用管理コスト)が下がるほうが大事。だから今は商用ソフトウェアを活用している」という回答したプレゼンテーターも居た。ライセンスは無料だが運用のための知識や手間がかかるオープンソースを活用するより、コストがかかってもオラクルやアドビ、VMwareなどのビッグベンダーにサポートをお願いして戦略的なアプリケーションを運用する姿勢が明らかだった。もちろん、直ぐに全てのIT資産がオープンソースに移行するわけではないだろう。現にこの4月には楽天証券の基幹データベースシステムはオラクルのExadataの最新バージョンに刷新されている(参考記事)。
ただし、ITに業界の大きな流れとして仮想化やコンテナーテクノロジーがオープンソースのコミュニティによって進化していることは間違いない。スピードが社是の楽天も更にオープンソースの活用が加速するだろう。来年は二子玉川の新社屋で開催される予定の楽天テクノロジーカンファレンスでは更に進化した楽天の姿が楽しみだ。
<編集部より> 初出時に一部トム・ファイフェルド氏のお名前が間違っておりました。お詫びして訂正致します(2014.10.30)
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