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リテイルビーコンがまだまだ現実的でないわけ

2015年6月11日(木)
ReadWrite Japan

1980年の事を覚えているだろうか?AC/DCが「Back in Black」をリリースし、同じ年にブラック・サバスにはオジーに代わってロニー・ジェイムス・ディオが加入した(結果、名曲 「Heaven and Hell」が生まれたがそれ以上にたいした事は起こっていない)。メタルにおける黄金時代だった。

マーケティングについては話が別だ。1980年はウェンディーズの「Where’s the Beef」のような古典的なキャンペーンが行われた年だが、マーケティング担当はTV広告や宣伝が狙った層に受け入れられるよう願うより他なかった。

方や今日では、マーケッターはインターネットによって消費者の行動をより深く知ることが出来るようになっている。スマートフォンや来店した顧客を追跡できるビーコンなどと組み合わせることによって、消費者に適切な選択肢を適切なタイミングで提供できる事が可能になってきている。

というのが少なくとも謳い文句として言われていることではある。

しかしビーコンの実際はというと、売り文句に上げられていることは技術的には可能であるにもかかわらず、マーケッターはこれを使って何をするのかあまりよく分かっていない。

物理的な世界とデジタルな世界を近づける

BI Intelligenceが述べているように、米国の小売業者トップ100のうち、半分以上がビーコンの導入を試みている事は驚くことではない。

Source: Adobe Mobile Marketing Survey 2014

Source: Adobe Mobile Marketing Survey 2014

そしてビーコン技術がまだ初期段階であるにもかかわらず、アドビによる調査のうち、18%がビーコンを導入したということは興味深い点だ。

GameStopU.S.OpenHillshireといった幅広い対象企業がビーコンの導入は成功だったと報告している(一方、Nordstromおよびその他はプライバシーその他の懸念から試みを断念した)

しかしBI Intelligenceが言うような大規模な導入がまもなく見られるという状況からは程遠い。

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企業は商店街や銀行、地元のApple Storeなどでビーコンの有効な活用方がないものかと試行錯誤を重ねている。

しかしいいアイデアはなかなか出てこない。

事実、マーケッターに優先順位をつけてもらうと、ロケーション技術の重要度はかなり低く、アナリティクスやA/Bテストなどの方が興味をもたれている。

Source: Adobe & eConsultancy Digital Intelligence Briefing 2015

Source: Adobe & eConsultancy Digital Intelligence Briefing 2015

何もマーケッターがGPSやビーコンなどについてどうでもいいと考えているからではない。またこれらの技術が伸びると考えていないからでもない。

むしろこれは企業が未だに有効な使い方を見つけられずにいるのが原因だ。

意識を変えていく

小売店や銀行、その他普段からよく行く所を思い浮かべてほしい。そこのマネージャーやスタッフなどが複雑なデジタル戦略を画策していると想像できるだろうか?ありえない。彼らの職務の範囲ではない。

Nordstromでは、Webを管理する専門のチームがあり、地元の小売店に同様の事を行う担当はいない。

店に訪れた客をセグメントに区別する技術は存在する。客が店内を歩くのを追跡し、過去の購入履歴や部門ごとの滞在時間など記録から商品の提案したりも出来る。

しかし、例えば地元の店舗で行われるバスルームのリノベーションセミナーに客を集めるためのキャンペーンなどはやはり誰かによって企画・実行される必要があり、店には単純にデジタル方面の担当者がいないという事もある。また価格が下落しているとはいえ、ビーコンの導入コストも馬鹿にならない。また大手小売業のモバイル部門の責任者が教えてくれたことだが、デジタルデータに基づいて何か物理的な事を運用するということ自体が頭に無いとの事だ。

まだ時期ではないのだ。

デジタルと物理的な世界を融合させるために必要なことは、企業が物理的なロケーションに縛られた考えをやめて、代わりにスタッフの考え方をデジタルに持っていくことだ。

モバイルを重要に考える

まず最初に必要なことは、企業がモバイルを重要に捉えることだ。確かにモバイルが重要なものだということはみんながわかっていることであり、企業もアンケートで大抵そのように答えている。

Source: Adobe

Source: Adobe

しかしまだまだ道のりは遠いことはデータが示している。Ericssonが6歳以上の人口の90%以上が2020年までに携帯を持つようになると予想して以来、モバイルは企業がユーザーに提供できる何か以上のものになった。

全ての企業にモバイルが必要なわけではないが(たとえば風車を作る会社にアプリはいらないだろう)、それでも顧客とやり取りする企業がいつまでもモバイルに投資せずにいるということは想像しづらい。

Source: Adobe

Source: Adobe

モバイルについて語るだけでなく、投資することも必要なのだ。

前述のアドビによる調査で、モバイルに対する投資の不足が明らかになった。調査した企業のうち、30%が毎年500万ドル以上をモバイルアプリおよびウェブサイトに投資しており、その年間平均額はモバイルアプリで550万、モバイルウェブサイトで490万ドルになるという。このチャートを見る限り、まだまだ道のりは遠い。

モバイルが企業のDNAの中核となるまで、BI Intelligenceが提唱するようなビーコンに対する投資が大々的になることは考えにくい。ロケーションはモバイルにおいて重要なものだが、それも企業のモバイルへの取り組みがあっての事だ。

この記事は2015年5月にNYで行われたM1サミットでの著者のプレゼンテーションの内容に基づいています。

トップ画像提供:Intel Free Press

Matt Asay
[原文]

※本記事はReadWrite Japanからの転載です。転載元はこちらをご覧ください。

※本ニュース記事はReadWrite Japanから提供を受けて配信しています。

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