クラウド・インフラへのスムーズな移行

2009年9月28日(月)
阿部 恵史(あべ よしふみ)

データモビリティ

 動的なリソースの再配置やプロビジョニングが要求されるクラウドインフラ環境では、アプリケーションの処理を中断せずにデータを移行する必要があります。

 仮想サーバー環境において、複数のVMを稼働させているマルチテナント環境を構築した場合、あるテナントの都合によりほかのテナントに対しても影響がおよぶような物理リソースに対するタスク、例えばメンテナンス作業などが発生した場合でも、その影響を関係のないテナント(VMとその上で稼働するアプリケーション)に対しておよぼすことは許されません。

 仮想サーバー環境では、例えばVMware(R) VMotion、XenServer XenMotion、Hyper-V(TM) Quick Migrationなどの機能によりこうした要求に応えていますが、ストレージに対しても同様の機能が求められます。

 NetAppではData Motionと呼ばれる機能があり、Data ONTAPが持つ複数の機能と管理ソフトウエアとの組み合わせによってスムーズなデータ移行を実現しています。この機能は、前述のMultiStoreとデータレプリケーションの機能であるSnapMirror、およびストレージリソースのプロビジョニング管理を行うProvisioning Managerという管理ソフトウエアによって提供されます。

 MultiStoreによって区画された仮想ストレージパーティションに存在する仮想ストレージ・コントローラを、ストレージ間でサーバーやアプリケーションに対して透過的に移行することができます。この機能は、接続先が物理または仮想サーバーであるかどうかに関係なく利用可能です。これによって、計画停止を不要にし、仮想ストレージ・コントローラを移行して負荷分散などを行うことで、運用を最適化するといったことが可能になります。

 すなわち、必要なメンテナンスを実施しつつ運用を継続できるため、より高度なサービス・レベル・アグリーメント(SLA)をユーザーに対して提供できます。

クラウドインフラとしてのNetAppストレージの今後

 NetAppのストレージシステムは、現在でもData ONTAPの持つFlexVolの機能によって、さまざまなサイズのストレージ・コンテナ(LUNまたはボリューム)を多数のディスクから自動的に生成して、パフォーマンスを最適化します。

 また、システムを停止させずにコンテナを拡張または縮小する柔軟性も提供していますが、クラウドインフラとしての厳しい要件に応えられるパフォーマンスと可用性のさらなる向上のために、グローバル・ネームスペース、きめ細かいスケールアウト、複数のストレージ・システムによるストレージ・ボリュームの実現など、将来に向けてさらなる機能拡張を予定しています。

 また、クラウドインフラ構築の中核技術であるサーバー仮想化技術に対応するため、VMware、Microsoft、Citrix各社と緊密に連携して、vSphere、Hyper-V、XenServerと統合した製品を提供していますが、今後はその連携をさらに推進していくことが必要となります。

 クラウドインフラの運用における課題は、将来にわたってすべてが予測可能なわけではありません。したがって、現状の課題に対応しつつ、はっきり見えない将来の課題に対してもある程度対応ができるであろう柔軟性を兼ね備えたインフラが必要になります。

 その1つの候補として、単一のOSで利用規模によらず、あらゆる用途や接続形態に対応する、ユニファイドストレージとして、NetAppのストレージテクノロジーが挙げられると考えています。

 例えば、Fibre Channel over Ethernet(FCoE;ファイバ・チャネル・オーバー・イーサネット)が開発されたことにより、データセンターを単一のイーサネット・ファブリックに移行してストレージやネットワークのあらゆるニーズに対応できるようになりましたが、一方で10GbEが普及し始めてきた場合、コスト面からiSCSIという選択肢も今後有力になってくると考えられます。

 もちろん、これらのテクノロジーの成熟度や市場への浸透度によっては、既存のFC-SANを維持するという選択もありますが、現時点でそれを予測することは非常に難しい状況です。

 そうした場合でも、ストレージシステムがあらゆるプロトコルに対応していれば、将来起こりうる、予測の難しい変化にもある程度対応が可能になります。例えば、NetAppは2009年9月現在、FCoEをネイティブでサポートする唯一のベンダーですが、これはNetAppのユニファイドストレージというアプローチによって実現しています。

 NetAppはFCoEに対応することで、既存のFC SANユーザーが統合ネットワーク・ファブリックに簡単かつ画期的に移行できるようにしていますし、iSCSIへ移行することも可能にしています。

■まとめ

 先進的な企業は、インフラを共有するITモデルへと移行することで、サービスの提供に力を入れ、効率と柔軟性の向上、SLAの改善、コスト削減を実現しています。

 クラウドインフラとしてのストレージには、現時点で少なくともセキュアなマルチテナント環境、高度なデータ管理タスクの自動化、透過的なデータ移行、統合データ保護といった、クラウド・コンピューティングに必要となる重要なテクノロジーを実装していることが要求されます。

 こうしたテクノロジーを実装することが可能であるか、すでに実装されていれば、既存ITインフラをリソースの拡張に応じた効率的な課金、柔軟なスケーラビリティ、時間と場所を選ばないデータ・アクセス、予測可能なコスト構造を実現するクラウド・インフラへと移行することができます。

著者
阿部 恵史(あべ よしふみ)
ネットアップ株式会社
マーケティング部 部長 製造系企業の情報システム販社、外資系ITベンダーなどを経て2007年8月より現職。その間、企業の基幹系システムの設計・開発・導入、インターネットTV開発、UNIX系ハイエンドサーバー、クラスタシステムの導入コンサルティングなどを経験し、2002年よりマーケティング職に転身。現在もデータセンターインフラの仮想化・自動化およびグリッドソリューションを担当。

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