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AI最前線の現場から【ietty】「オンライン接客」実現のためのAI活用術

2016年9月28日(水)
大浜 毅美

はじめに

株式会社iettyは、お部屋探されサイト「ietty」という賃貸住宅をネットで仲介するサイトを運営している不動産xITベンチャーです。

これから3回にわたりiettyのAI技術を紹介していきますが、第1回はまずiettyが「なぜAI技術の活用に積極的に取り組んでいるのか」、また「そこにどのような課題があるのか」を紹介します。

ECで売っていない(ほぼ)最後の商品

少し前の記事ですが、ウォール・ストリート・ジャーナル日本版に「通販アマゾンで(ほぼ)買えない10のもの」というトピックが掲載されました。ここではAmazonでも買えないものとして、1)銃器、2)アルコール、3)不動産、4)ペット(生体販売)、5)自動車、6)ガソリン、7)宝くじ、8)タバコ、9)度付きメガネ、10)中古衣料が取り上げられています。

2016年現在、Amazon.co.jpで検索をかけると、アルコール・自動車・ガソリン・度付きメガネ・中古衣料は販売が始まっているようなので、上記のうち現在も取り扱っていないものは銃器、ペット、宝くじ、タバコと、不動産ということになります(図1)。

図1:ECサイトで買えないもの

銃器はもちろん、タバコ、ペット(生体販売)、宝くじといった商品も、規制以前に道徳的観点からユーザの理解を得ることが難しそうな商品群ですので、家や土地といった不動産は「事実上Amazonで扱えるのに扱っていない最後の商品の1つ」と言えるかもしれません。

同様に楽天やYahooショッピングなど、その他大手のEコマースサイトでも不動産は取り扱っていません。SUUMO、HOMES等の不動産に特化したサイトはありますが、あくまでも不動産の広告を掲載しているだけで、実際の仲介や契約は不動産仲介会社・管理会社の店舗で行われています。

EC商材としての不動産の課題

この原因としては、一般的に業界自体のIT化の遅れや法規制の問題、不動産流通の問題など、主に「不動産業界」の問題として捉えられることが多いかと思います。

とはいえ、こうした問題は保険、金融商品、医薬品といった商品群やそれを取り扱う業界にも少なからず存在していました。しかし、現在ではもはやネットで日常的に取引されるようになっています。例えば医薬品については2016年6月より法改正が施行され、一般用医薬品についてはより広くネットで取り扱えるようになりました(政府広報オンライン)し、金融、保険商品もどんどんネットでの取り扱いが主流になってきています。

こうした中、不動産についても規制緩和の動きはある(国土交通省:IT重説社会実験等)ものの、そもそも規制自体が「重要事項説明」という契約の最終確認を対面で書面を取り交わす必要がある、という点についてだけであり、法規制が強くてオンラインでの取引自体がまったくできない、という状態ではありません。にも関わらず、「不動産をEコマースで取り扱おう」という動きは一部のベンチャー企業を除いてほとんど見られません。

私たちは、この問題はむしろ検索技術に支えられた「Eコマース」という従来手法そのものの限界に起因するのではないかと考えています。

一般的な商品のEコマースにおける購買行動は、

  • 広告やWebマーケティングによりサイトを訪問する
  • 検索によって商品のリストが提示される
  • あらかじめ作りこまれた商品詳細情報や写真画像をユーザが読んで比較検討する
  • 購入ボタンがクリックする
  • 決済する

という手順で行われます。不動産もこの方法で同様に取り扱おうとすると、以下のような特徴があることにすぐに気が付きます(図2)。

図2:不動産の商品特性

・1ユーザは1点しか購入できない

不動産物件、つまり土地と家は投資用を除けばそこに「住む」ことが目的であるため、1世帯は同時に1つ(一軒)だけしか商品を購入しません。さらに新しい商品を購入(契約)する機会は賃貸でも早くて2~4年、売買だと数十年単位でしか発生しないため、リピート購入もほぼ期待できません。

・商品点数が膨大

不動産物件は住所が異なればまったく異なる商品になりますし、同じマンション・アパート内でも部屋番号が異なれば間取りや日当たり等、諸条件は大きく変わるため別の商品として取り扱うことがほとんどです。そのため、他の商品に比べて商品点数(異なる属性の商品)が桁違いに多くなります。

総務省の調査によると現在全国で820万戸の空き家があり、これらすべてが売買の対象になっているわけではないにせよ、1つの商品カテゴリとしての商品数はおそらく最多クラスとなるでしょう。

・在庫は1点しかないので在庫回転スピードが速い

1ユーザが1つだけしか購入しないのと同様、通常1つの部屋(商品)は1世帯のユーザにしか提供できません。新しい形態としてシェアハウスがありますが、まだまだ提供数は限られている上、複数のユーザに提供するというよりは、ユーザが仲間を募って1つの契約を複数人同時に行う、という形態を取ることが多いようです。

このため、「在庫」は常に1であり、通常2週間から1ヶ月程度で他のユーザが購入(賃貸なら契約)してしまい「在庫切れ」になってしまいます。さらに一度在庫切れになってしまった商品は、前住者が退去しないかぎり補充されることがありません。製造すれば在庫が補充できる消費財や在庫が無限ともいえるサービス商材と比べて大きく違う点と言えます。

・ポチりにくい

「衣食住」という言葉がある通り、人が生活する上で住まいは誰にとっても必要な要素ですが、購入物としてみた場合、ある人が購入(契約)する商品・サービスの中でも最高額のものとなることは珍しくありません。収入や資産が多い人は多いなりに、そうでない人も自身の生活に合わせて数十年単位のローンを組むことも当然のように行われていますし、賃貸であっても数年居住していれば、その家賃総額は他のどの購入物よりも高価となるでしょう。

高額な商品であればあるほど購入にあたって十分に検討と確認をしたいと考えるのは当然ですが、この欲求をネットだけで満たすのはかなり困難です。住まいは、その物件だけで完結するものではありません。周辺の施設や最寄り駅からの導線など、物件そのもの以外の情報も重要ですし、騒音や日当たり、「このスペースに自分の持っている冷蔵庫はぎりぎり入るか?」など間取り図やスペックからは分かりづらい情報も必要です。

そのため、不動産選びの際は「内見」という実際に物件(商品)を現地で確認し、納得して購入するという手順が欠かせません。この点は同様に高額商品の自動車でも乗り心地やスペック表記以外の性質を確認するために試乗が行われることが一般的でしたが、同車種であれば良いので別の店舗でも行えますし、最近ではネットで取引する場合は試乗なしで購入することも一般的になっているようです。

不動産でもビデオチャットやVR技術を使った「オンライン内見」も研究されており、iettyも一部のケースで実施しています。ただ、やはり現状では遠方からの入学・転勤や単身赴任など一部のケースにとどまっており、やはり「実際に見て、納得して購入する」というオフラインの手続きは自動車ほど簡単には省略できないようです。

不動産をECで取り扱うために

これまで見てきたような特徴があるため、不動産ではIT企業が培ってきた要素技術やWebマーケティング手法の大部分がそのままでは利用できません。

例えばECの基本である検索技術をとってみても、不動産では検索結果を良質に保つことがかなり困難です。ユーザとしてはオンラインでできるだけ情報収集してじっくり比較検討したいところですが、かなり大手の不動産広告サイトでも1物件に掲載されている情報はとても限られているのが現状です。

これを「不動産業界のIT化が遅れているため」と見ることも可能ですが、それ以上に「1物件あたりにかけられる広告費、情報掲載コストが他の複数人に販売できる商品に比べて圧倒的に高いため」という点が見逃せません。

前述した通り、不動産は基本的に1つの商品は1人にしか販売(賃貸)できません。このためマス広告のように費用を販売数で分散できず、1物件の検索情報や詳細ページの作成にかかる費用は1人の売買価格にダイレクトに反映せざるを得ないことになります。

さらに、検索による情報提示には、あらかじめすべての情報と検索キーワードを入力しておく必要がありますが、商品点数が膨大であるため、売れるかどうか分からない商品にまでページ詳細作成コストをかけてしまうと、これも売買価格の上昇要因になってしまいます。

このため、不動産の場合あらかじめすべての情報を網羅して入力しておき、検索で情報を提供するという従来のEコマースのスタイルそのものが、高コストなものとなってしまいます。

それ以外にも、リピーターを育てる囲い込み戦略や「こちらの商品を買った人はこの商品も購入しています」というレコメンデーション技術、オンラインで完結できる契約・決済の技術など、様々な点で従来型の手法が適用できない商品と言えます。

では、不動産取引のオンライン化は不可能なのでしょうか。私たちiettyは、そうは考えていません。現実に不動産を売りたい(貸したい)人がいて、買いたい(借りたい)人がいて、店舗で(オフラインで)日々取引が成立している以上、その手順を抽出してIT化することは可能なはずですし、オンライン化されていくことは必然だと考えています。ただし、現在の主流であるこれまでのEコマースの手法ではなく、オフラインの手法に基づく新しい要素技術が必要です。現在iettyでは、この「オフラインにあってオンラインにはない要素」として「接客」に着目しています(図3)。

図3:オンライン接客

「オンライン接客」と人工知能の取り組み

例えば新しい雑貨を買いにデパートに入ったとしましょう。棚に商品が陳列してあって客は自由に見ることができ、自身で選んで購入することができます。しかし、それだけではなく、店舗でお買い物ではどれにしようか、どれが自分に合うか迷ったときに、すぐさま近くの店員に声をかけて、相談することができます。

商品自体がある程度広く市販されているものである場合、店舗側から見るとこの「接客」こそが他店舗との差別化要因の最たるものとなります。店員がお客さまからニーズをお伺いし、お客さまに合うと思う商品を提案し、詳しく説明して情報を提供するだけでなく場合によってはその豊富な知識を基にお客さまに代わって商品選びを主体的に行い、納得していただいた上でご購入いただくことが、お客さまの満足とトータルでの利益を生み出します。

現状のEコマースでは商品を自由に見ることや自身で商品を選ぶことはできますが、この「接客」というフェーズがほとんどありません。商品の説明を詳細に作りこんだり、レコメンデーションエンジンによって疑似的な提案を行ったりといった技術は発達してきましたが、あくまでも主体はユーザであり、商品の情報摂取や比較はお客さま自身が行う必要があります。

これを不動産取引でそのまま適用とすると、先に述べたように商品点数が膨大かつ回転が早すぎるため、ユーザ自身で商品のすべての情報を閲覧して比較検討しなければならず、かなりの手間が発生します。また、いったんすべての商品をチェックしたと思っても、2週間もすれば商品構成自体がガラッと入れ替わってしまうため、それを追いかけ続けることはさらに難しいでしょう。

そこで、iettyでは不動産取引のIT化を目指すにあたり、この「接客」をオンライン化することに取り組んでいます。

お客さまから様々な要望をヒアリングした上で商品の検索や情報の検討、他物件との比較はiettyの接客担当員「アドバイザー」が行い、「より合っている」と思われる物件を提案し、不動産取引に関する知見を提供しつつ内見から契約までトータルな仲介業を自社で行うことにより、従来型のEコマースにありがちな「商品が多すぎてどれを選べば良いか分からない」という問題をお客さまと一緒に解決しようとしています(図4)。

図4:iettyのChatbot Platform構想

この問題解決のために必須となる要素技術が人工知能(AI)です。特に、膨大な商品群の中からそれぞれのお客さまに合う商品を見つけ出すことや、お客さまの住まいに対する「思い」を適切に理解し符号化するためには、AI技術の活用が欠かせません。

「接客」というと、これまではどうしてもそれぞれの販売員の勘と経験、スキルに頼りがちでしたが、オンライン化を目指すためには、情報技術の枠組みの中で処理できるようにする必要があります。

つまりオンライン不動産取引を目指すiettyにとって、AI技術の取り組みはお客さま満足やユーザ体験の向上以前に、それがなければビジネスが成立しないコア技術であると位置づけています。

おわりに

次回は、このiettyでの現状の「物件提案」におけるAI活用について、第3回では、さらに接客を人工知能化するための「bot platform構想」の将来像について解説します。

株式会社iettty 執行役員CTO。 東京学芸大学大学院教育学研究科修了。日経リサーチ、Yahoo Japan、Groupon Japan BIマネージャー、マーケティングアプリケーションズ CTOを経て2016年より現職。システムエンジニアリングとデータサイエンスの融合をテーマに、現在はベンチャー企業での人工知能のビジネス利用に取り組む。

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