ロボティクス技術はeコマースを支える「倉庫業」に革命をもたらすか
試着室から顧客管理にいたるまで、「eコマース」はさまざまな点でリテール業界へ多くの問題を提起している。そして、その商品が店頭に並ぶ以前の問題として、巨大な「倉庫」において商品を探して梱包出荷するためのスタッフ探しがある。
さて、物流経営者が考える「リテール業界における問題TOP3」は、①熟練した労働力の確保(58%)、②顧客のデマンドへの迅速な対応(56%)、③配送コストの削減(56%)ということが、Deloitte(デロイト)とMHI(三菱重工)がおこなった調査により明らかになった。
人より迅速、かつ、低コストで荷物のピッキングから出荷までおこなえるロボットの存在は、これら課題3つすべてに対する答えとなりうる。
inVia Roboticsは、こういった変革をもたらそうとする企業の一つだ。彼らは、世界で初めて「eコマースにおける商品取り扱い業務を担うロボティクスシステム」を作り上げた。同社のCEO リオール・エラザリー氏に、そのシステムについてさらに話を聞いた。
「近年、eコマースはますます盛んになっているが、価格競争の激化、迅速な配達への期待、倉庫の人員不足といったことから、リテール業界は顧客のニーズについていくのに苦労している。何十年もの間、人が荷物をピッキングするモデルが支配的であったが、いまでは倉庫ロボットが、荷物をより早く安価に最終目的地に自動で送り届けることができる。ロボティクスは次のオートメーション革命であり、企業は競争力を維持でき、産業や経済にいい影響を与える。」
inViaは今回、『GrabIt』と『TransIt』という2種類のロボットを製作した。『GrabIt』は30ポンド、24インチ幅までのものを持ち上げることができ、扱える荷物の大きさもトランプ1つから24本入りソーダ1パックまで、とさまざまだ。このロボットは、アームを伸ばせば2.4メートル(8フィート)の高さまで届き、1回の充電で10時間稼動できる。GrabItが荷物をピックアップしたら、それを相方であるinViaの2つ目のロボット『TransIt』に手渡す。これはオーダーを集めて回り、受け取った商品を箱詰めするロボットだ。
inViaの提供するサービスには、ロボティクス管理システムも含まれており、ワークフローをリアルタイムで変更することで待機時間を最小化できる。
また、「リテールでない業界のロボティクス運用のいくつかの課題も対処可能だ」と、エラザリー氏は語る。
「これは、デバイスにロボットアームをつけただけのものではない。グリップデザインにより、さまざまなものを掴むことができるようになっている。倉庫にあるもののうち、小さなネジやケーブルなど20%程度のものはまだ掴めないが、その場合は梱包場で作業している従業員に連絡がいくようになっている。
また、今回のロボティクスシステムにおいては、ロボットが1つだとしても取ってこれるようにした。実際にされるほとんどのオーダーは、たいてい1-3個のものが多いためである。
他の課題としては、ロボットの導入コストに見合うほどのパフォーマンスを担保できるシステムを構築しなければならないという点があった。だが、AIや視覚センサーを活用した、非常に投資効果の高いプラットフォームを利用することで、短期間のうちに課題を克服できたのだ。」
もう一方の倉庫業者にとっても、これはありがたい話である。エラザリー氏は次のように言っている。「倉庫をよりコントロールできるような、柔軟性のあるシステムを構築できた。ロボット1台から導入が可能で、季節のニーズによって台数を増減させることも可能である。」
同社のソリューションはRobotics as a Service(RaaS)として利用可能であり、初期投資を最小限に抑えることで、より多くの企業がロボティクスによる生産性の向上の恩恵に与ることができる。
また、ロボット1台毎の月額課金制のため、変動するニーズに合わせたスケールアップ・スケールダウンが可能になっている。このシステムのおそらく最大のポイントは、基本的に物理的環境の再構成なしで、あらゆる工場に導入可能なところだろう。
「人々が工場の構成を一からやり直すことなく、構築をすばやく行い、すぐに使えるようにすることが我々の目標だ。これまでほとんどのロボティックス企業は、完全に一から工場を作り上げることだけを対象にしていた。しかし、我々はロボットを導入するためのインフラ投資に何百万ドルもかかるようなシステムを作るのではなく、稼働している工場およびそのフローを対象に、モノの流れを変えるようなシステムを作りたいと考えた。これには、万が一あるロボットが動かなくなっても、そのロボットを導入するために製造ラインを新たに入れなければならない場合よりもずっと、他の部分への影響を抑えられるという利点もある。」
ロボティックスは人から仕事を奪うのか?
そして、ロボットが人から仕事を奪うかどうかについても尋ねてみた。エラザリー氏は、これまで手がけた数多くの工場の経験から、ピーク期、長期的な雇用の両方において、人手が顕著に不足すると説明する。
たとえば、オフィスサプライの最大手の一社 LD Productの場合、これまでマニュアルでおこなっていたことを自動化し、人員不足および季節による業務の波を乗り切りつつ、ビジネスを拡大している。
倉庫を取り巻く環境は、多くの人にとって課題の多い厳しいものだ。特に、誰も住みたがらないような僻地に倉庫がある場合はことさらだろう。逆に言うと、ロボティクスは倉庫の従業員の人生の向上に役だっているといえる。数年前、”The Life and Death of an Amazon Warehouse Temp”を読んで悲惨な気分になったのは私一人ではないだろう。
エラザリー氏はロボティクスを導入したところからは、いい反応が返ってきているという。これ以上、その仕事をやらなくてもよくなるからだ。倉庫といえば、多くの人が働いていると思われがちだが、実際はそんなことなく、たいていはギリギリの人数で回している。また、ピッカーは体力的にきつい仕事でもある。ある企業などは、従業員がきちんと出勤するよう、一日のはじめに籤引きをおこなっているところもあるくらいだ。
inViaのシステムは、農業なども含め他の分野の産業でも多くの応用ができる。製造業やスーパーの倉庫、デパートにロボットが入ることで、従業員は機械でもできるピッキングではなく、顧客の応対など売上に繋がるところに顔を出すことができるようになる。
inViaが創りだしたロボットたちは、倉庫の従業員にさまざまな変化を突きつけることになるだろう。
CATE LAWRENCE
[原文4]
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