ネットワーク全体から見る「VoIP入門」
音声信号がIPパケット化されるまでの流れ
ここまでの解説で、VoIPの世界における端末の仕事が「アナログ信号をIPパケットへ変換し、端末間を接続するための信号を制御すること」であることを示しました。
以下では、もう一歩踏み込んで、「音声のアナログ信号をIPパケットへ変換する」という行為の手順を示します。
具体的には、以下の3ステップになります。
- アナログ音声信号をデジタル化し、圧縮する
- 効率のよい伝送となるような長さの単位にまとめる(フレーム化)
- あて先のアドレスなど、転送に必要な制御情報(ヘッダー)を付加する(パケット化)
(1)圧縮を行う理由は、伝送する音声パケットが使う帯域を小さくするためです。VoIPの世界では、どれだけ圧縮するかによって、同時に使用できる音声チャネル数が変わります。ただし、圧縮率を上げると、音声品質が下がります。一方、品質を高めようと圧縮率を弱めると、帯域を多く消費します。
(2)フレーム化で重要なのは、その間隔です。音声信号をどれくらいの間隔でフレーム化するかを指定します。パケットとして送出する間隔(送出周期)に従ってフレームを積み込みます。
(3)パケット化では、あて先アドレスなど転送に必要な制御情報(ヘッダー)を付加します。こうして作ったパケットを、IPネットワーク網を介して相手に届けます。
これが大まかな流れです。
音声品質を確保する
VoIP環境におけるIPネットワーク網の最大の役割は、音声パケットを効率的に転送することです。単に音声パケットを相手に届けるだけではありません。
音声パケットを効率的に転送する方法はいくつかありますが、ここでは代表的な方法として、次の2つを紹介します。
- (A)優先制御
- (B)帯域制御
(A)優先制御(絶対優先制御)とは、特定のパケットを、ほかの一般のパケットよりも必ず優先的に送信します。
ここでいう特定のパケットとは、音声パケットや映像データなど、優先させなければ通信が成り立たないパケットです。ビジネス・インパクトが大きい基幹業務アプリケーションもこれに含まれます。一方、一般パケットとは、電子メールやWeb通信など、再送がある程度許されるものです。
優先制御技術を導入すると、音声品質は確保できますが、ネットワークが輻輳(ふくそう)し始めると、一般パケットは優先パケットが流れている間は送信されません。緊急時に救急車やパトカーが優先され一般の車は一時停止しなくてならないのと同じ考えです。
(B)帯域制御とは、あらかじめ特定のアプリケーションに重みづけをし、その割合でネットワークの帯域を確保する技術です。
具体的には、まず音声や映像系の帯域を確保し、残りの帯域に一般のパケットを割り振るのが一般的です。例えば、音声と映像で50%、メール30%、その他20%という具合に設定します。
優先制御のような「音声パケットが流れている間は一般パケットが送信されない」という事態に陥ることは避けられますが、音声品質が必ず確保されるとは限りません。
IPネットワーク網は、単に相手へパケットを届けるだけの役割から、策定したポリシーに基づいて効率的にデータ転送を行う役割へと変化しています。音声品質を確保するにあたり、音声を絶対的に優先するのか、あるいはデータとのバランスを考えた方針で行くのか、ネットワーク管理者としてポリシーを策定する必要があります。
まとめ
これまで3回にわたり、ネットワーク全体から見る「ネットワーク超入門」というテーマで、ネットワーク全体を俯瞰(ふかん)しながら解説してきました。
繰り返しになりますが、「個々の技術を一つひとつ極める」という従来の考え方を改め、まずはネットワークの全体像を把握したうえで、個々の技術を学んでみてはいかがでしょうか。
これで連載は終了ですが、今回の連載が皆さまの「新たな気づき」になれば幸いです。