コンテナー管理ツール「Rancher」のエンタープライズ利用に向けたイベント開催
コンテナー管理ツール「Rancher」のセミナーイベント「Rahcher & DockerでDevOps! ~エンタープライズのためのコンテナー基盤セミナー~」が、9月13日に開催された。
イベントでは米Rancher Labsの共同設立者で副社長のShannon Williams氏が基調講演をした。また、株式会社フューチャースタンダードが映像解析プラットフォーム「SCORER」の基盤にRancherを採用したことを語るなど、Rancherの事例が紹介された。
Rancher概要を解説
オープニングに立ったRancher Labsの新藤洋介氏は、コンテナーの成長性について、スマートフォンやクラウドも最初は懐疑論があったことを引き合いに出して語った。そして、調査会社の予測や、コンテナーなどのクラウドネイティブプラットフォームの業界団体Cloud Native Computing Foundation(CNCF)の参加企業の伸びを見せて、コンテナーの勢いを述べた。
そのうえで新藤氏はRancherについて説明した。RancherはDockerコンテナーを管理するGUIやCLIのツールで、Kubernetesにも対応している。Rancherは単体で使うだけではなく、GitHubやCI/CDなどと組み合わせて使うのが一般的だという。
Rancher Labsは2014年創業。DockerConで注目されたという。Rancherのほか、コンテナー用軽量Linuxディストリビューションの「RancherOS」や、コンテナー用分散ブロックストレージ「Longhorn」も開発していることも説明された。
共同創業者がRancherの意義と導入事例を語る
Shannon Williamsの基調講演では、DockerとRancherの意義が語られた。Williams氏はかつてCloud.com(後にCitrix Systemsに)でCloudStackを開発していた。その中でDockerを見てすばらしいと思い、Rancherを始めたという。
Dockerのすばらしい点について、Williams氏は「システムをどう構築してカスタマイズするかの考え方を変える」と説明した。Dockerは、アプリケーションをすべての依存とともに1つのイメージにまとめることで、本番サーバーからさまざまなクラウドプラットフォーム、開発用のノートPCまでさまざまな環境で動かせる。また、HAやブルーグリーンアップデートなども容易になる。「音楽のCDはどんなプレイヤーでも再生できるのに似ている。あるいはWebはどんなOSからでも利用できるのにも似ている」と氏は語った。
ここでDockerによるシステムを構成する要素のスタックをWilliams氏は説明した。Dockerのコンテナーエンジンのほか、コンテナーOSや分散データベース、ストレージ、ネットワーク、セキュリティ、レジストリ、アクセスコントロール、モニタリング、スケジューリング、オーケストレーションなどが使われる。そうしたいろいろな機能がRancherから管理できると氏は語った。
Rancherは2016年3月にバージョン1.0をリリース。Docker Hubの集計によると、同年9月には100万ダウンロードを、2017年9月には6000万ダウンロードと急成長しているという。なお、このイベント後の9月末にRancher 2.0のテクニカルプレビュー版がリリースされている。
Rancher導入企業の事例も紹介された。ドイツの鉄鋼会社Klöckner & Co SEは、トラディショナルなビジネスをマイクロサービスで革新したという。そのために、GitLabのコードリポジトリとCI/CDの機能を、Rancherと組み合わせた。これにより、gitによりGitLabにコードをプッシュすると、GitLabでCI/CDパイプラインが走り、問題がなければ本番環境にデプロイされる。
Klöckner & Co SEではRancher導入の効果について、新しいメンバーが数時間で開発に参加できることと、自動化、Rancherのカタログ機能、インフラコスト削減と効率改善を挙げているという。
また、金融のUS Bankの事例も紹介された。データサイエンスチームのためにビッグデータ分析のシステムを構築するのが大変だったのを、Rancherによってデータ分析の一連のパイプラインをDockerコンテナーで作れるようにした。これにより、データサイエンティストが自分で簡単にシステムをデプロイできるようになり、迅速なイノベーションが可能になったという。
さらに、健康に関する統計を研究するIHME(Institute for Health Metrics and Evaluation)の事例でも、Rancherによって研究者がすばやくシステムをデプロイして起動できるようにした。この例ではテスト環境はAWSで、ステージング環境と本番環境はVMware vSphereの上と、異なる環境で同じDockerコンテナーを動かした。これにより、データ分析のパイプラインがすばやくなり、インフラの“子守”が不要になり、拡張性がある形になったという。
そのほか、2016年12月のKubeConでは、ディズニーの事例が発表されたことも紹介された。映画の公式サイトにRancherを使い、複数のチームによる開発を、AWSとGoogle Cloud、オンプレミスごとに、開発環境とステージング環境、本番環境を動かす形で、組織横断のシステムを作ったという。
映像解析プラットフォーム「SCORER」のRancher導入事例
もう一つの基調講演でも、株式会社フューチャースタンダードの林幹久氏が、映像解析プラットフォーム「SCORER」でのRancher導入事例を語った。
まずはSCORERの紹介だ。映像解析プラットフォームSCORERは、複数台のカメラ、配置や画角などカメラに関する機能、映像解析の3つからなると林氏は説明した。その例として、iPhoneで撮影した通りの映像から、自動車や自転車、人を認識したデモが紹介された。
林氏は映像解析を「時間変化する画像から人間にとっての意味を取り出す」ものと定義。その実例として、広告測定において人の流れを可視化する例や、工場・製造において動線を確認する例を紹介した。
画像解析には、すでにAWSやMicrosoft Azure、Google Cloud Platform、IBM Watsonなどのサービスがある。そこにおいてSCORERは映像解析のハブとなる、と林氏は語った。
ハブを実現するための技術要件として、林氏はまず、アルゴリズムのインプットとアウトプットのインターフェイスを揃えることと、ユーザーが自在にアルゴリズムを切り替えられることの2つを挙げた。それにはDockerコンテナーが向いていると説明した。
続いて3つめは計算リソースの効率的な運用、4つめはクラウドを選ばないこと。これを実現するのがコンテナーオーケストレーションで、「構成の自由度やロックインの少なさでRancherを選択した」と林氏は語った。
ここからSCORERにおけるRancherの動作メカニズムが解説された。まず「Dispatcher」が常駐しており、AWS API GatewayからAWS SQS(キュー)を介して動画ファイルパスとアルゴリズムを受け取る。Dispatcherは処理本体である「Stack」を起動し、AWS S3から対象動画ファイルを取得し、結果もAWS S3に出力して、最後にこれも常駐している「Cleaner」が処理を終了させる。林氏はRancherを選んだベネフィットとして、クラウドとオンプレミスをまたいだ構成が容易なこと、主要なツールがカタログとして用意されていること、インストールが容易なこと、操作管理がGUIで直感的、コミュニティ活動が活発なことを挙げた。
最後に林氏は、Rancherによって「開発コストを下げて迅速な開発が可能になった」と発表をまとめた。
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