米ClouderaのCEO「OSSへの貢献などの具体的な数字は顧客には関係ない」と語る

2018年3月2日(金)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
米ClouderaのCEO、「OSSへの貢献などの具体的な数字は顧客には関係ない」と語る。

ビッグデータ関連のビジネス領域が全体として盛り上がっているのは、Hadoop、HDFSなどの初期の頃のソフトウェアから、Apache Sparkまで含めてオープンソースソフトウェア(OSS)の寄与するところが大きいと言って良いだろう。そしてそれをコマーシャルバージョンとして顧客に提供することで、「Hadoop御三家」と言われるベンチャーが商業的に成功するためにしのぎを削っているというのがIT業界の認識としては正しいと思われる。そのHadoop御三家のひとつで、Yahoo!でHadoopを開発したDoug Cuttingも所属するのがClouderaだ。

Cloudera CEOのTom Reilly氏

Cloudera CEOのTom Reilly氏

その日本法人であるCloudera株式会社は2018年2月7日、メディア向け説明会を開催した。本社からはCEOのTom Reilly氏が、そして日本法人からは2017年11月に代表に就任した中村共喜氏が参加し、Clouderaの戦略などを説明した。

日本法人の代表である中村共喜氏

日本法人の代表である中村共喜氏

実際のところ中村氏のお披露目は、昨年のCloudera World Tokyo 2017で済んでおり、また特に新規のプレスリリースもなかったため、ニュース性には欠ける内容だったかもしれない。参加したビジネス紙の記者から「日本での施策」などについて質問が出されたが、当然のように数字を語れるわけでもなく、「データが最も重要な資源になる」「Clouderaは成長している」「パブリッククラウドベンダーとの協業も進んでいる(特にMicrosoft Azureに関しては重要視している)」などの説明がなされ、最後にQ&Aとなった。

筆者はスライドなどに書かれていない項目として「Microsoftなどがオープンソースソフトウェアへの貢献としてGitHubでの活動などを具体的に数値で紹介しているのに比べ、オープンソースソフトウェアに最も恩恵を受けているビッグデータのソフトウェアをビジネスとして活用しているClouderaがそういう情報をスライドにも説明にも出さないのは、コミュニティへの貢献が企業としてのKPIになってないからか?」とCEOのReilly氏に問うたところ、帰ってきたのがタイトルにある「Clouderaの顧客にとって、OSSコミュニティへの貢献などの具体的な数字は関係がないと思っているから」と言う回答だ。

実際には質問への最初の回答は「我々は、オープンソースソフトウェアのコミュニティに貢献している。Clouderaは、最初にHadoopの商用版を出した企業である。またコミュニティに最大の還元を行っている企業でもある」というものだった。そもそもコミュニティへの貢献を問う質問に対する回答が、商業版のリリースという回答も興味深いが、それに対して「スライドにそういう数字を書いたページがないのはなぜですか?」と再度聞いたところ、タイトルの「関係ない」という回答が帰ってきたということだ。

実際に商用版を作ることで、バグの修正やテストを繰り返すことになり、Upstreamのバージョンが良くなることはあるだろう。しかし貢献の具体的な内容を聞いた答えが「顧客には関係ない」のだとすると、Clouderaのエンジニアはコミュニティに対する活動において充分な評価がなされないのではないかと思ってしまう。なおClouderaのHPには、Clouderaとしてのオープンソースソフトウェアへの貢献というPDFが存在するが、コミッターの数などは2016年2月から更新されていないようだ。

ClouderaのOSSに関する情報:Cloudera’s Approach to Open Source and Open Standards

また後半に登壇した中村氏も「顧客が増えていること」「パートナーが重要」「(具体的な数字は出せないが)日本法人を増強すること」「ローカライズを進めること」などを説明したが、オープンソースソフトウェア、コミュニティなどの単語はプレゼンテーションの中では一度も出ることはなかった。

実は筆者には伏線があった。某大手IT企業の新年賀詞交歓会で、その企業の社長が「我々はイノベーションに多くの投資をしている」と説明した際の尺度が「予算のxx%をエンジニアに使っている」と説明したことが思い出されたのだ。つまりこの管理職にとっては「社内の予算を沢山使うことがイノベーションを進めること」という発想が未だにこびり付いているということだろう。

いまやイノベーションは、いかに社内外のエンジニアを巻き込んでエコシステムを拡げていくか? つまりコミッターの数やPull Requestの数、パッチの数などでコミュニティが評価され、そのソフトウェアにまつわる様々な付加価値がオープンソースコミュニティの中から拡大しているにも関わらず「自社のエンジニアの数」を単純にイノベーションの尺度とする発想に呆れたのだ。

その企業もClouderaも、イノベーションのためにコミュニティ活動を行うというのは表立って言うほどのことはない、顧客に知らせるべき重要な内容ではないという扱いだろう。

記者発表会やプレスリリースにおいては書かれている内容だけではなく「書かれないことは何か?」を考えることで、その企業の本心が見えてくるという例であったように思える。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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