「始まりは1つの長テーブル」―ベルリンスタートアップシーンの聖地、カフェSt.Oberholz生誕の秘密
みなさんこんにちは! ベルリン在住のライターwasabi( wasabi_nomadik)です。
本連載では、今ベルリンで盛り上がっているホットなスタートアップ企業やシーン全体をwasabi目線で紹介していきます(「wasabiって誰?」と思った方は、こちらをクリック!)。記念すべき第1回目の今回は、「ベルリンスタートアップの聖地」とも呼ばれるカフェ「St.Oberholz(ザンクト・オーバーホルツ)」を紹介します。
wasabiがベルリンで突撃インタビュー!
このカフェ、実はThink ITで連載中のコミックエッセイ「ライフハックで行こう!」の著者、高田ゲンキさんのプロフィール写真が撮影された場所でもあります。また、ベルリン在住の漫画家小栗左多里さんの大人気漫画「ダーリンは外国人」でもこのカフェが大きく描写されているコマがあります。そのため、このカフェの存在を知っている人も少なくないことでしょう。
というわけで、早速コワーキング・マネージャーのトビアスさんに突撃インタビュー! 今回はなんと、普段は入れない「St.Oberholzの裏側」まで見せていただくことができました。
「始まりは1つの長テーブル」―
コワーキングという概念が生まれた場所
wasabi:私がベルリンに移住したのは2015年の4月でしたが、その時初めて知ったコワーキングカフェがSt.Oberholzでした。ここはデジタルノマドやベルリンスタートアップシーンの聖地にもなっている場所ですが、この歴史はどのようにして始まったのでしょうか?
トビアス:オープンしたのは2005年の夏です。このカフェは開店当初から他のカフェと大きく違う点が2つありました。1つは長いテーブルを店内に設置したこと。2005年当時のベルリンのカフェでは1つの長いテーブルがカフェに置かれているのはとても珍しいことでした。
なぜなら、当時のカフェオーナーは普通なら2~4人くらいが座れる小さなテーブルを複数設置します。お客さんは友人や知り合いと談話・待ち合わせするためにカフェを利用するからです。
しかし、長いテーブルを置いたことで面白いことが起きました。知らない人同士が同じテーブルに座るので会話が生まれ、コミュニティが形成されていきました。多くのスタートアップがこのカフェから生まれたのも、それが始まりなんです。最初に雇ったカフェの店員も、このテーブルで知り合ったお客さんでした。
あとは、2005年当時にフリーWi-Fiと電源を提供しているカフェも珍しく有名になりました。そして人々がカフェに来て働くようになったのです。
しかし、その時私たちには「コワーキング」という概念さえありませんでした。実はこのカフェはサンフランシスコで世界初の“コワーキング”カフェよりも50日間早くオープンしていたんですよ。あちらは2005年8月9日にオープンしましたが、私たちは同年7月1日にオープンしたのです。
wasabi:それは驚き! つまり、実質上ここが世界最初のコワーキングカフェとも言えますよね。しかも7月1日オープンというのは、私の誕生日なので一気に親近感が湧きます(笑)。
トビアス:そうです。私たちは当時「コワーキング」という名前をつけていませんでしたが、似たようなコンセプトのカフェが同年夏にたくさん生まれました。
そして9月にはコペンハーゲンでコワーキングカフェを発展させた形で、今ではおなじみの「コワーキングスペース」というものがオープンしました。
こうしたコワーキングスペースの発展にはテクノロジーの進歩が大いに関係しています。うろ覚えですが、2004年前後にWi-Fiが世界標準になりました。それまではラップトップPCを持っていてもWi-Fiが使えず、リモートワークができなかったのです。そこに変化が起きたのが2003〜2004年頃。そして2005年にSt.Oberholzが生まれたのです。
同時に、今までとは違うスタイルで仕事をしたいと思う人たちのニーズもありました。そして『We still call it work』という新しい働き方を紹介する本の中でこのカフェが紹介され、その本がよく売れたのでカフェの知名度も上がりました。私たちはそのことをテレビで見るまで知らなかったのですが(笑)。
wasabi:なるほど。そんなふうにしてカフェが発展してきたわけですが、どうしてここからスタートアップが生まれるようになったのでしょうか?
トビアス:安定したWi-Fiとおいしいコーヒー、働きやすい環境を兼ね備えたカフェは当時珍しかったので、新しくビジネスを立ち上げようとする若者がオフィスとして使うようになりました。そして、このカフェから最初に生まれたスタートアップがSoundCloudです。ベルリン発のECサイトZalandoもこのカフェから生まれたんです。彼らはここの雰囲気を気に入って、よくミーティングをしていましたよ。食材宅配サービスのHelloFreshもここに最初のオフィスを構えていました。そうしてどんどんスタートアップが輩出されていくようになり、現在に至ります。
wasabi:ベルリンのスタートアップの歴史を学んでいるようで、とても興味深いお話です。最初の長テーブルがすべての始まりなんですね。このテーブルを置いたのは、初めからこうしたシナジーが生まれることを期待してのことだったのですか? それとも偶然、このような効果があったのでしょうか?
トビアス:シナジーが生まれることを期待してはいましたが、どちらかというとお客さんが好きなことをできるような空間をカフェで実現したかったのです。今でもドイツのカフェにはラップトップPCを広げて作業することを禁止するカフェもあります。でも、お客さんが「何をしても良い」という安心感があるからこそ、自由にくつろげるのだと考えています。
トビアスさんとSt.Oberholzの内部をツアー!
wasabi:私自身、このカフェには何回も来たことがあるのですが、上の階には行ったことがないんです。上も普通のカフェなのですか?
トビアス:以前は上階も普通のカフェエリアでしたが、現在はメンバー専用のコワーキングエリアになっています。月額99ユーロでカフェの営業時間帯ならいつでも利用できて、コーヒー&紅茶は飲み放題、プリンターも無料で使えます。0階で提供しているものより安定して速度が速いメンバー専用のWi-Fiも使用できます。
wasabi:上の階はこんなふうになっていたんですね! おしゃれでかっこいいです。実は私も今オフィスを探しているんですが、住所の貸し出しもしていますか?
トビアス:+17ユーロで住所を使えますよ。郵便物の管理は私たちが代行しています。このカフェがSoundCloudの最初のオフィスと同じ住所ということで、あえてこの住所を使いたいと思ってくれる顧客もいるほどです。
日本のメディア初公開!? カフェの奥に続く秘密の階段
トビアス:実は今日、普段は入れないスタートアップの貸しオフィス部分もご覧いただこうと思っているので、そちらに案内しますね。
wasabi:え、まだここ以外にも部屋があるんですか!? …それは知らなかったです!
トビアス:下のカフェとメンバー専用のコワーキングエリアの上はスタートアップのオフィスになっています。この建物は歴史的にも価値があって、第二次世界大戦時にベルリンのこの周辺地域はほとんど焼け野原になってしまいました。でも、この建物だけは無事だったのです。その昔の内装の良さを生かして、モダンで使いやすいオフィスに仕上げています。
wasabi:天井も壁も床も、どれを取っても本当にきれいに保存されていますね。原型を崩さないようにリノベーションするだけでなく、オフィスとして機能するように工夫するのも大変だったでしょうね。
トビアス:ここはもともと住居なので、オフィスとして使いやすくする工夫はかなりしました。苦労したのは鍵のコピーです。オフィスは複数人で使うので鍵も複数個必要ですよね。しかし昔の鍵の形なので、1つの鍵をコピーするだけでも6,000円くらいかかってしまいます。そこで私たちは1つの鍵をみんなでシェアできるように暗証番号付きの鍵ボックスを設けて対応しました。
wasabi:そういった苦労は、普通に使っているだけではなかなか見えてこないところですよね。隅々まで見せてくださり、ありがとうございます。私もこんなところで働きたい! ベルリンにはいろんなコワーキングスペースがありますが、St.Oberholzはどんな特徴があるのですか?
トビアス:St.OberholzはExpats(外国人)のコミュニティ形成に力を入れています。メンバーの大多数はドイツ人よりも外国人です。ベルリンにやって来た挑戦的な若者がまずここを足がかりに飛び立っていけるような、そんな場所を目指しています。
* * *
まさにベルリンスタートアップシーンの聖地と呼ぶにふさわしい歴史を持つカフェSt.Oberholz。今回はとても興味深いお話を聞けたとともに、スタートアップという新しいシーンと戦後生き残った歴史ある建物という新旧の組み合わせを上手にバランス良く融合させているところになんともベルリンらしさを感じます。
みなさんもぜひ、ベルリンに遊びに来た際はこのカフェに足を運んでみてくださいね。
【St.Oberholz】
住所:Rosenthaler Str. 72A, 10437 Berlin
営業:月〜木&日8:00-22:00、金土9:00-0:00
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