Intelが推進するEdgeの仮想化、ACRNとは?
Embedded Linux Conference+OpenIoT SummitのDiamondスポンサーであるIntelは、IoT向けリアルタイムOSのZephyrや組込系システムのためのツールセットを提供するYocto Projectなど様々なプロジェクトに関わっているためか、多くのセッションを実施していた。
その中でも3日目のキーノートに登壇したImad Sousou氏のプレゼンテーションで紹介されたACRNを紹介しよう。Sousou氏は、IntelのOpen Source Technology Centerのトップであり、General Managerでもある。
ちなみにZephyrは、Linux FoundationがホストするリアルタイムOSで、2016年に公開された。少ないメモリで稼働するリアルタイムOSとして、このカンファレンスでも多くのセッションが実施されていた。主な参加企業はIntel、NXP Semiconductor、Linaroなどである。
Yoctoは組込系システムのためのLinuxをビルドするためのツールセットを提供するプロジェクトで、リファレンスとなるLinuxディストリビューションであるPokyと、ビルドツールであるBitbakeなどから構成される。Yoctoを使うことで、様々なハードウェア用の組込系OSをビルドすることができるという。QEMUをツールの中に組み込んだことで、様々なプロセッサのエミュレーションが可能になり、開発が容易になったことが特徴だ。
この2つのプロジェクトはLinux FoundationのCollaborative Projectであることから、組込系のOSおよびツールセットとしては本流という扱いだろう。
そして今回のキーノートでは、新たにEdge向けのソフトウェアスタックとしてACRNというプロジェクトが発表された。ACRNは「エーコーン」と発音する。これは「ドングリ」の英名である「Acorn」をもじっているようで、アイコンもドングリを模したものが使われている。
別のセッションとして行われたACRNの概要のセッションでは「ACRN is a Big Little Hypervisor for IoT Development」と称されていた。つまりIoTデバイス上で複数のOSを稼働させるためのハイパーバイザーである。
このスライドによれば、ハードウェアシステムとファームウェアの上で稼働するOS/ハイパーバイザーで、上位にはLinux及びAndroidがゲストOSとして挙げられている。
そして「Little」の意味である小ささに関しては、次のスライドで説明された。ソースコードの量で比較すると、KVMは1700万行、Xenでは29万行であるのに対して、ACRNは2万5千行のコードで構成されているという。
ソースコードの量がそのまま利用するリソースのサイズと正比例しているかどうかはおいておいても、少なくともシステムが占めるストレージのサイズは少なくなるということを強調したかったのだろう。ここでは、すでにサーバー用途で使われているハイパーバイザーと比較したが、聞き手が本当に知りたかったのはACRNを使ったシステムとハイパーバイザーを用いないシステムとのリソース使用量や遅延などの性能の比較ではないだろうか。
デバイスに必須な入出力、ストレージアクセス、ネットワークアクセスなどは、Service OSと称されるソフトウェアが仲介している。オーディオインターフェースなども同様だ。
このスライドでは入出力コントローラーの処理概要が解説されたが、現状ではサポートするハードウェアはIntel製のコントローラーのみということだ。この辺りに、ハードウェアメーカーであるIntelの本質が表れているというところだろうか。
今回のACRNの発表と詳細なプレゼンテーションを聞いて感じたのは、そもそもEdgeのデバイスに複数のOSを載せて実行しなければいけないユースケースは何か? である。その一つの回答が自動車における車載システムだ。車載コンピュータはエンジンなどの制御系以外にもエンターテイメントシステム、インターネットアクセスによる地図情報やGPSデータの処理などから始まって、将来的には自動運転のコントロールも行うことになる。そう考えると、車載コンピュータはすでに車体に張り巡らされたLANを取り囲む複数のコンピュータで構成される「マイクロデータセンター」に近づいていると言っても過言ではない。
そのようなシステムを構成するために、デスクトップPCに近いような規模のコンピュータが採用されることは、システム開発の容易さ、更新のしやすさなどを考えるとあり得る話だろう。その時にOSとアプリケーションを仮想マシンとして実装できれば、機能面でもセキュリティの観点でも利点は多いと思われる。
車載システムの場合、画面に表示される情報によるインターフェースだけではなく、音声によってユーザー(この場合はドライバー)とのインターフェースが行われるのは容易に理解できる。これについても、サービスOSとSound Open Firmwareと呼ばれるオーディオデバイスのファームウェアを利用することによって可能になるという(Sound Open FirmwareもIntelが主導するオープンソースプロジェクトだ)。
Imad Sousou氏の後半のプレゼンテーションは、この「Sound Open Firmware」に関するものだった。Sound Open Firmwareについては、すでにLinux Foundationから日本語でリリースが行われているが、これまでクローズドなシステムであったオーディオデバイス関連のシステムのファームウェアを、オープンソースとして開発を進めるというプロジェクトだ。
参考:The Linux FoundationがSound Open Firmwareプロジェクトを歓迎
Intelがオープンソースとして開発を進めるのは、データセンターやコンテナ関連のソフトウェア(IntelはコンテナランタイムであるKata Containerを中国のHyperと共同で進めている)だけではなく、今後のIoTに大いに関連のある様々なモジュールにまで及んでいることが分かるプレゼンテーションであった。今後、ACRNの機能開発と周辺のエコシステムが、ユースケースを含めて拡がっていくことを期待したい。
参考:ACRNホームページ https://projectacrn.org/
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