フリーランスに朗報! もう泣き寝入りはやめよう。契約トラブル解消に動く各省庁はあなたの味方!

2019年10月18日(金)
望月 香里(もちづき・かおり)

8月20日(火)、C-WORKにて、一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会 (以下、フリーランス協会)主催の「フリーランスの契約トラブル是正に向けた 各省庁の取り組み」のプレス勉強会があった。

はじめに、フリーランス協会 代表理事の平田麻莉氏より、「いま様々な角度から注目を集めるフリーランスの契約トラブルについて、対策を行なっている省庁の取り組みと実態を知り、今後の参考にしてほしい」と挨拶があった。

一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会 代表理事 平田麻莉氏

フリーランスの環境と現状

挨拶に続いて、平田氏はフリーランスのビジネストラブルの実態を解説。フリーランスにありがちなビジネストラブルとして、口約束での契約、過度なリテイクなどを例に挙げ、会社員と異なり、フリーランスは治外法権で何の法律にも守られていないことを明らかにした。

フリーランスにありがちなビジネストラブル

ここでいう、フリーランスの定義(広義)を一度おさらいしよう。「特定の企業や団体、組織に専従しない独立した形態で、自分の専門知識やスキルを提供して対価を得る人」のことで、雇用関係なしの「独立系フリーランス」と雇用関係ありの「副業系フリーランス」に分けられる。

フリーランスの定義

以前までは、フリーランスというとエンジニアやWeb系などのクリエイターが多かったが、最近ではスマホ1台で簡単に仕事を請け負うことが可能となり、美容師やハウスキーパーなどC to Cで仕事をしているフリーランスも年々増えているのが現状だ。

また、その働き方もバナーやロゴのデザイン、データ入力・翻訳など、期間や作業内容が明確な「タスク型」、人事制度の刷新・新商品のキャンペーンなど、期間が数ヶ月から数年に及ぶ「プロジェクト型」、企業の認知向上、ブランディング、人材開発(採用〜育成)といった期間や成果物の限定なしの「ミッション型」など、従来のアウトソーシングとして馴染みのあるタスク型から、より従業員に近いミッション型まで様々である。

厚生労働省のフリーランス人口推計では、2019年現在、広義のフリーランス人口は約390万人(副業含む)で、そのうち企業相手に直接取引している人(≒雇用類似の者)は約170万人だそうだ。一方、内閣府のフリーランス人口推計では、同年のフリーランス人口は約341万人(「法人成り」している一人社長、副業を含む)だ。累計方法やサンプルが違うため数字は異なるが、大よそ340~390万人が現在のフリーランス人口であると言えるだろう。

フリーランスになってから現在までに「仕事をしたが、クライアントが報酬を払ってくれなかったという経験はあるか?」とアンケート調査を行なったところ、その7割に報酬未払いの経験があることが分かった。さらに、その7割のうち4割が「勝てる見込みがないと感じた」「弁護士費用が負担に感じた」などの理由で泣き寝入りしたという実態も明らかになった。

報酬トラブルの実態(自由記述)

このようなトラブルの是正に向けた取り組みとして、フリーランス協会では、アンケートやヒアリング調査の協力など、公正取引委員会、厚生労働省、中小企業などと連携して行なっている。

また、8月19日には損保ジャパンの協力の元、フリーランス向け報酬トラブル弁護士保険「フリーガル」のプレスリリースを配信。フリーランス協会設立以来、健康保険に次いで問題が多かった弁護士費用保険がようやく形となり、会員からの反響も好評だ(フリーガルについては後述)。

プレスリリース「報酬トラブル弁護士費用保険『フリーガル』提供開始」
 https://blog.freelance-jp.org/20190816-5089/

公正取引委員会の取り組み

次に、公正取引委員会 経済調査室 室長 笠原慎吾氏より、「人材と競争政策における検討会 報告書のポイントとその後の取り組みについて」というテーマで、公正取引委員会の取り組みを解説した。独占禁止法は、競争になりすぎず、個々が各々の活動に対してイノベーションを起こし続けられるような環境整備のための法律であり、公正取引委員会はそれを執行する機関である。

公正取引委員会 経済調査室 室長 笠原慎吾氏

これまで個人は企業に属して働く形式が大多数であったため、当時の独占禁止法が対応する領域は組織対組織に向けた企業間の取引だった。しかし、昨今では働き方の多様化やフリーランス人気で副業・パートタイムを含め個人で働く人が急激に増加した結果、企業は人材を不当に囲い込み・搾取するケースが見られはじめた。そこで、どのように対処すべきか、2018年に「人材と競争政策に関する検討会」が開かれた。

では、フリーランスにとっては、どの部分が問題となるのか。詳細は「人材と競争政策に関する検討会 報告書」を参照いただきたいと思うが、「発注者が共同して人材競争を制限する行為」「取引の相手方の利益を不当に奪い競争を妨げる行為」「競争政策上望ましくない行為」などがある。

発注者が共同して人材競争を制限する行為

この報告書の内容を受けて、2018年2月以降の公正取引委員会としての動きとして笠原氏は「報告書から、そもそも世間に独占禁止法の認識がなく、期せずリスクが高まっているという現状が分かった。まずは内容を理解してもらうための周知活動を行ないながら、実態の把握に取り組みたい。公正取引委員会でもフリーランスの分野は1つの重要な取り組み課題であると認識しており、今後もしっかりと取り組んでいきたい」と語った。

中小企業庁の取り組み

続いて、中小企業庁 消費税転嫁対策室 室長補佐 塚本浩章氏が「消費税転嫁対策特別措置法の概要について」というテーマで、中小企業庁の取り組みを解説した。

中小企業庁 消費税転嫁対策室 室長補佐 塚本浩章氏

「消費税転嫁対策特別措置法」は消費税の転嫁に関する取り締まりを規定した法律。平成26年4月及び令和元年10月の消費税率の引き上げに際し転嫁対策を進めるもので、一定の間で転嫁拒否が起こってくるのではないかと示唆されている(参考資料:消費税転嫁の手引き)。

中小企業庁が発行する「消費税転嫁の手引き」

取り締まりの対象となる禁止行為の中で、一番多く発生している違反被疑が「買いたたき(単価の据え置き)」だ。同法の施行後5年ほど経つが、建築・出版・翻訳業界では買いたたきが多く見られるという。

令和元年6月の消費税転嫁状況の月次モニタリング調査の結果を見ると、事業者間取引(BtoB)では「全て転嫁できている」「一部を転嫁できている」と回答した企業は9割に及ぶ。しかし、書面回答ではフリーランスや出版・翻訳業界から「買いたたきが行われている」という声も聞かれており、事業者や個人において、これらの法律を知らない人はまだまだ多い。塚本氏は「取り締まりだけでなく、未然防止や制度の普及活動にも力を入れていくため、引き続き転嫁Gメンパトロールを継続していきたい。10月からの消費税引き上げに対して、何かあれば前広な情報提供をお寄せいただけたら」と呼びかけた。

厚生労働省の取り組み

続いて、厚生労働省の取り組みについて、厚生労働省 在宅労働課 課長補佐 永倉真紀氏が「雇用類似の働き方に係る論点整理に関する検討会の中間整理について」というテーマで解説した。

厚生労働省 在宅労働課 課長補佐 永倉真紀氏

厚労省では、雇用以外の働き方をしている人を保護するか、現在進行形で継続的に検討しているところだという。平成30年3月30日開催「雇用類似の働き方に関する検討会」で公開された資料「雇用類似の働き方に関する検討会 報告書」より、「契約書の作成、重視する内容等」をピックアップ。業界により異なるが、報酬額等の契約条件が文書等で明示されていないケースが多く、仕事が終わった後にトラブルが生じたという声があったそうだ。

検討会で把握した雇用類似の働き方に関する現状

また、平成30年10月19日より開催されている「雇用類似の働き方に係る論点整理等に関する検討会」の中間整理がこの6月に開催されたが、論点が多く明確な指針が示されていないのが現状だ。詳細はリンクの資料を参照してほしい。

永倉氏は、「雇用以外で働く人を保護すべきか検討する対象者として『発注者から仕事の委託を受け、主として個人で役務を提供し、その対償として報酬を得る者』を中心に考えることが妥当だとしたうえで、保護の内容により対象者の具体的な要件を検討する必要があるだろう」と指摘。この中間整理は今秋以降に議論していく内容を確認したもので、現状として「相談したくても相談できる窓口自体がない」ことが浮き彫りとなった。

雇用類似の働き方に係る検討会での議論を踏まえた3つの各検討課題

フリーランス業界発!
報酬トラブル弁護士費用保険「フリーガル」始まる

最後に、損害保険ジャパン日本興亜株式会社 企画開発部 鈴木俊裕氏より、フリーガルについて説明があった。

損害保険ジャパン日本興亜株式会社 企画開発部 鈴木俊裕氏

フリーガルは、フリーランス協会と連携して提供する、フリーランスが報酬未払いなどの法的トラブルに直面した際、円満な解決をサポートするための保険だ。主な機能は下記の3つで、

  • 電話で相談できる
  • 日弁連リーガル・アクセス・センターを通じた弁護士の紹介を受けられる
  • 保険金額を上限とした保険金の支払いを受けられる

報酬の未払いや請求書に記載の金額以下の不当な報酬、消費税分の税込み扱いでの支払いなどを想定している。年間保険料などプランの詳細やトラブル発生時の流れ等は、コチラを参照のこと。

また、トラブルの有無に限らず、弁護士の先生に相談したいときにも気軽に相談できる窓口となっている。顧問弁護士のいないフリーランスが気軽に法的相談をできる点、法的トラブルに対応する保険ができたことは大きな発展だ。「軽視されがちなフリーランスに対して、報酬未払いなどを抑止する効果もあるのでは」と鈴木氏は示唆する。

「フリーガル」開発秘話

本保険の開発に当たっては、弁護士の先生方から「トラブルが起こってからの保険で良いのか」「トラブルが発生する前に課題を解決していくための機運醸成機能があった方が良いのでは」という声があり、事前相談も含まれた保険の開発に至ったそうだ。

なお、日弁連リーガル・アクセス・センターとの連携により、一般的な「2~5割自己負担」という持ち出しの保険ではなく、期間中の支払い限度額満額まで支払い可能だそうだ。最大年間15,000円の保険料で200万円まで補償されるフリーガルに「これは革命ではないか!」と、自身も報酬トラブル経験者の平田氏も驚愕。今後のフリーランスの下支えになることを願っていた。

フリーガルの補償内容。最大15,000円の保険料で200万円まで補償される驚きの内容だ

* * *

これまで存在が軽視され立場も弱いフリーランスにとって、報酬トラブルをはじめとする様々な問題に泣き寝入りを余儀なくされることも多かった。しかし、時代の流れとともに法的な権限も獲得できるようになり、ますます自分らしくやりたいことを仕事にできる時代になってきたように感じる。まだ筆者もフリーランス1年目。イキイキとした目の輝くような人生を、ともに送ろうではないか。

著者
望月 香里(もちづき・かおり)
元保育士。現ベビーシッターとライターのフリーランス。ものごとの始まり・きっかけを聞くのが好き。今は、当たり前のようで当たり前でない日常、暮らしに興味がある。
ブログ:https://note.com/zucchini_232

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