大企業の「ビジネス系フリーランス」活用事例―カインズ、GEヘルスケア・ジャパン
「ビジネス系フリーランス」が活躍する時代の到来
「フリーランス」と聞くと、エンジニア・プログラマー等のIT系職種、またはライター・デザイナー等のクリエイティブ系職種の働き方……というイメージを持つ方が多いかもしれません。しかし、近年、事業企画やマーケティング、広報、人事等の「文系総合職」と呼ばれる職種でフリーランスとして働く人が増えています。
今回は、そんなビジネス系フリーランスを活用している企業のフリーランス活用事例を紹介します。
活用例1:株式会社カインズ
広報フリーランスの活用でメディアからの引き合いが増加
慢性的な人手不足に悩む
「カインズ」のチェーン経営を行う株式会社カインズは、28都道府県に209店舗(平成30年4月末現在)を展開、店内にはカルチャー教室や関連会社が手掛ける飲食店なども設け、ホームセンターを舞台にさまざまな取り組みを行っています。企画から製造、プロモーション、販売までを一貫して行うSPA(製造小売業)に注力し、現在、1万点以上のオリジナル商品を販売。「カインズでしか買えない商品」が評判を呼び、現在売上全体の約4割をオリジナル商品が占めています。また、同社の商品は6年連続でグッドデザイン賞を受賞するなど、多方面から注目が集まっています。
カインズでは事業の拡大とともに、広報業務も多忙を極めていました。人手不足により、リリースの作成が追いつかない、本社がある埼玉県の本庄市から都内まで距離があるため、メディアキャラバンになかなか足を運べない、メディアからの問い合わせにスピーディに対応できず、露出の機会を逃す……。そんな日々の広報業務をスピーディに、かつ的確にこなしてくれる人材を求めていた折にWarisと出合い、マッチングを依頼しました。
そして、2016年7月より東京在住のフリーランス広報人材Cさんの活用を開始。 フリーランスに直接業務を依頼するのは初めての試みで、多少の不安もあったそうですが、その思いはすぐに解消されました。豊富なスキルや広いネットワークを同社につないでくれる頼もしい存在として、Cさんは社内で高い評価を得ています。密なコミュニケーションで、事業や商品に対する理解もタイムリーに共有できる。このような関係性を築けるのも、フリーランスだからこそのメリットでしょう。
メディアからの引き合いが増加、社内の人材育成にも貢献
Cさんとは、毎月のトータルボリュームのみを決め、稼働日数や時間などは定めていません。月1回の定例ミーティング以外はすべてリモートワークで、新商品のリリースや月1回のニュースレターの作成、メディアキャラバンを主に担当しています。また、イントラネットに掲載する記事の制作など、インナーコミュニケーションの強化につながる業務も請け負っています。彼女の働きにより、これまでエアポケットになっていた広報業務が一つひとつ形になっているそうです。
同社では、一般消費者向けの商品からプロニーズのものまで取り扱っていますが、これまでは人手不足から後者に対するアプローチがほとんどできていませんでした。現在は、Cさんがリリースと相性の良いメディアの選定やタイムリーな情報発信を継続的に行っており、その結果、メディアからの引き合いが格段に増えています。
もう一つ、予期していなかった変化もありました。メディアキャラバン時の対応やリリースの作成力など、プロのスキルを若手社員が間近で見聞きすることで、人材育成につながっているのです。また、社外人員ゆえの視点で企業や商品のアピールポイントを見出し、それが新たな企画につながることもあるそうです。
女性のキャリア継続を応援する多様な人事制度を実現
カインズでは、数年前から社員の長期勤務を実現する多様な人事制度を設けています。例えば、結婚・出産・育児・介護を理由に退職した正社員が、勤務できる環境が整った際に復職できる「ジョブ・リターン」制度などを整備しています。しかし、プロパー社員の男女比はまだ圧倒的に男性が高く、産休・育休を取得する社員が年々増えるなか、女性のキャリア継続に関する課題は山積みです。
今後、カインズでは高いスキルを身に付けた社員が出産や介護などのライフイベントを理由に、キャリアが絶たれることがないよう、より働きやすい環境を整備したいと考えています。
また、フリーランス人材の活用は、この先の働き方を考える上でも意義のある試みになっており、今後も広く取り入れていきたいと考えています。
活用例2:GEヘルスケア・ジャパン
フリーランスの活用で新規事業の販路拡大に成功
専属スタッフの配置が厳しい新規事業にフリーランス人材を登用
GEヘルスケア・ジャパンは、医療機器の開発、製造、販売、保守を行っています。取り扱い製品の中でも、CTやMRIなどの大型の医療機器は、顧客(医療機関)が機器購入時にメーカーと保守契約を締結することが多くありますが、小型の超音波診断装置については、保守を外部に委託するのは一般的ではありませんでした。そこで同社は、超音波診断装置を購入する医療機関向けに、機器購入時にアフターサービスをパッケージとして提案する新たな事業を始めました。
これまでに実現されていなかった概念のサービスのため、営業担当者や全国の販売店に対し、同社の新しいアフターサービスの内容やメリットを周知する必要がありましたが、未知数の新規事業に専属のマーケティングスタッフを置く余裕はありませんでした。そこでGEヘルスケア・ジャパンでは、プロモーション企画や販売店向けの資料制作と企画を外部人材に委託しようと考え、Warisにマッチングを依頼しました。
外部人材だからこその視点で、新たな風を吹き込む
同社が起用したフリーランス人材Kさんは、もともと化粧品業界でのマーケティング経験はあったものの、医療機器は専門ではありません。しかし外部の人材だからこその視点で、社内に新たな風を吹き込んでいます。例えば、アフターサービスを含む医療機器の広告には様々な規制があり、チラシなどの提案資料を作るときも、つい無難な言葉を選びがちでしたが、消費者(B to C)向けマーケティングの豊富な経験を持つKさんが、サービスの魅力がより多くの人に伝わる表現を提案してくれたことで、これまでとは違ったものができ上がっています。
また、営業担当向けの提案マニュアル資料作成時にも、従来はつい専門的な言葉を使いがちでしたが、「この表現では、初めてこのサービスを学ぶ営業さんには伝わらないと思います」と指摘してくれたこともあったと言います。Kさんの頑張りもあり、超音波診断装置の導入時にメンテナンスを一緒に購入する施設の割合が、施策を始める前年度は5%だったのが、10ヵ月後には25%以上まで増えています。
アウトプットがしっかりしていれば、
リモートワークに不便さを感じない
Kさんとの契約は週1日出社、週2日は在宅勤務(取材当時)でしたが、Kさんとの間でリモートワークの不便さを感じたことは一度もなかったそうです。GEヘルスケア・ジャパンはグローバル企業ということもあり、普段からウェブ会議や電話会議が多く、またフリーアドレスを導入しているため、チーム全員が同じ場所に揃っていることにこだわらないカルチャーもKさんが活躍する追い風となりました。
Kさんと直接やりとりをしていた同社の担当者も当時、週1日は在宅、週2日は大阪、残り2日は東京出張という働き方をしていました。そのため、Kさんも担当者の出社日に来社し、それ以外はウェブチャットや電話で十分コミュニケーションがとれていたと言います。また、Kさんが1日の終わりに、その日のアウトプットをしっかりメールベースで報告していたため、週1出社でも安心して任せられたそうです。
このケースが社内で成功事例として評判を呼び、最近は別の部門からもぜひKさんやフリーランス人材に業務を依頼したいという声が上がり、フリーランス人材の活用が進んでいるとのこと。ただし、社内には様々な働き方の人がいるので、フリーランスの働き方やWarisの取り組みを関係者にしっかり共有し、理解してもらうよう心がけています。
総合職としてキャリアを積んできた女性が、出産後も働き続けたいと願っても、「マミートラック」に乗せられてやりがいのある仕事ができないことは少なくありません。
キャリア女性が、フリーランスとして企業と業務委託契約を結ぶという新しい働き方は、女性活躍の切り札になるのではないでしょうか。
フリーランス活用がもたらすプラスの効果
今回は2社の事例を紹介しましたが、能力の高いフリーランス人材の起用で社内に様々な成果が生まれています。また、フリーランスが企業と業務委託契約を結ぶという働き方は、女性が活躍する可能性も広げています。双方にポジティブな効果をもたらすこの新しい働き方は、今後ますます注目されるでしょう。
次回は、ビジネス系フリーランスの活用により、人材不足の課題を乗り越えたベンチャー企業の事例を紹介します。
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