フリーランス・芸能関係者へのリアルなハラスメントの実態とは? 調査結果を踏まえた政府への要望を発表

2019年11月13日(水)
望月 香里(もちづき・かおり)

9月10日(火)、厚生労働記者会 記者会見室にて、フリーランス・芸能関係者へのハラスメント実態アンケート調査結果のプレスリリースにあたり、記者会見が開催された。

はじめに、プロフェッショナル&パラレルキャリアフリーランス協会(以下、フリーランス協会)の平田麻莉氏が調査の趣旨を説明。5月29日にハラスメント防止法等が成立し、労働者保護のための設置義務が各事業者に伝えられている。しかし、芸能人やフリーランス、インターンなどの求職者等は雇用されている労働者ではないため、このような措置の対象外になっている。また、これらの労働形態ではそもそもハラスメントや措置の責任を負う人が存在しないため無法地帯になっており、訴える先や相談窓口、支援制度もなく、労働相談の窓口に行っても“雇用された労働者ではない”という理由で門前払いされてしまう状況だったという。

プロフェッショナル&パラレルキャリアフリーランス協会 平田麻莉氏

【フリーランス協会におけるフリーランスの定義】
「フリーランス」とは、特定の団体や組織に専従しない独立した形態で、自身の専門知識・スキルを通して対価を得ている方。マネージメント契約・業務委託契約に基づいた雇用関係に寄らない形で仕事をしている人全般・労働法に守られていない全ての人、とする。

 

これまではフリーランス等のハラスメント実態について詳細なデータがなかったが、今回、協同組合日本俳優連合日本マスコミ文化情報労組会議 フリーランス連絡会協力のもと、「フリーランス・芸能関係者へのハラスメント実態アンケート」を実施。厚生労働省 労働政策審議会の参考資料として提出する運びになったという。

1,218名もの声が集まる

厚生労働省で行われている「雇用類似の働き方に係る論点整理に関する検討会の中間整理」において、仕事上のトラブル対策として契約周りのトラブル・ハラスメントの防止が優先課題として位置づけられていることが今回のアンケート調査を行う背景にもなっており、合計1,218名もの声が集まったことは革命的と言える。

【参照】フリーランス・芸能関係者へのハラスメント実態アンケート 調査報告書

この実態アンケートの質問数は18問。回答者の性別・年齢・職種は様々だが、調査項目が「ハラスメント」のためか、女性の割合が多かった。また、 芸能界やメディア界など、発注者と受注者のパワーバランスが圧倒的に発注者の方が大きい業界の回答者数が上位を占めた。このような業界の特徴は2つあり、1つ目はそもそもプレイヤーが少なく、芸能事務所・出版社・テレビ業界など数も限定されているため、働く側にとって取引先の代替先が少なく、問題があった際に他と再度契約することが難しい点が挙げられる。2つ目は需給バランスだ。受給者は叶えたい夢のために我慢してしまうことが多々あり、発注者のパワーがより強い傾向にある。

フリーランス・芸能関係者へのハラスメント実態アンケート 調査報告書の自由記述には、52.9%の方が詳細に回答し、回答者全体の26.1%が必要に応じて政府からのより詳細なヒアリングにも協力する意思を示した。

【参照】フリーランス・芸能関係者へのハラスメント実態アンケート 自由記述回答より

ちなみに、今回の調査は、各社のメルマガやSNS・インターネットなどの拡散で行われたものであり、特別な機関で調査されたものではない。これだけ多くの声が集まった背景には、 厚生労働省の議論でも議題に上がっており、是非とも自分の体験を活かして欲しいと、今後の期待も込めて回答した方が多かったのではないかと推測される。

被害者が語る体験談

趣旨説明、実態アンケートの報告に続き、日本俳優連合会 森崎めぐみ氏より、実際にハラスメント被害を体験した証言者について紹介があった。本調査における自由記述への回答者数は640名。「被害を受けた」と回答した人のうち、91%が「相談しても解決しなかった」と回答したという。今回は、国への改善を希望する444名のうち、2名がハラスメントの実態について証言した。

【参考】FIA(国際俳優連合)から厚生労働大臣への声明文

日本俳優連合会 森崎めぐみ氏

証言者(1):映画・テレビ制作スタッフ Aさん

現役で映画やテレビの制作スタッフをしているAさん。「この業界は一般企業よりもハラスメントの意識が低いと感じている。する方もされる方も、どのような言動がハラスメントになるのかが分かっておらず、どちらも気がついていないことが多い」という。Aさん自身、当時はそれがパワハラやセクハラだという認識が薄く、上司に言われることに対し「自分が悪いのだ」と思っていた。上司の個人的な感情から、4ヵ月間の予定だった仕事がなくなり1ヶ月分の給料のみ支払われるなど、出演が決まっていた作品を降ろされたこともあったとか。

また、子どもがいることで「時間制限がある人と働くのは大変」と言われたこともあるという。「ハラスメント以外にも労働時間などの保証がないこの業界で、子どもを育てながら仕事をするのは辛く、心が折れそうになることもある。今後は何がハラスメントにあたるのか、業界に対応したガイドラインの作成を審議されるべきだ」と感じているというAさん。

「新人ほどハラスメントを理由に辞めていくので、 話を聞いてくれる相談窓口があると良い。映画・テレビ業界でもハラスメントの意識を持って子どもを育てながら働ける環境に少しずつしていきたい」と締めくくった。

映画・テレビ制作スタッフ Aさん

証言者(2):元インターネット映像製作者 八幡真弓氏

2人目の証言者は、元インターネット映像制作者の八幡真弓氏。現在はDV・性暴力被害者支援プロジェクトPraise the braveを立ち上げて活動しているフリーランスだ。「被害者は痛々しく弱々しくない。一人の人間である」とい胸を張り、顔も実名も出しているという。

八幡氏は10年ほど前、同業界の男性からレイプ・セクハラを受けた。ホテルに呼び出され、部屋でレイプ。その後もレイプは続き、ホテル住まいを余儀なくされた。のちにアパートへ移るが、その間も暴力とレイプが続き、写真や動画も複数撮られていたという。「社会に知られてはならない・写真や動画が流出することを恐れ、訴えることはできなかった」という。

数ヶ月後被害から逃れることはできたが、1年間は心療内科に通い、症状に対し大量の薬を摂取。また仕事柄パソコンを使っていたが、数年間パソコンを開くことができなかったそうだ。その後、別の病院で複雑性PTSDと診断された。

「ルールがまだ明確でないネット業界やフリーランス1年目であったこと、相談窓口も設置されていなかったことから、相談することもできなかった。フリーランスのハラスメント防止に対して『どこがおかしいのか』を判断できるような仕事の流れの明確化・労災や医療費などの補償等を要請し、 今後このような被害が続かないことを切に願う」と語った。

元インターネット映像製作者 八幡真弓氏

ハラスメント防止法成立の追い風になるか

このような証言の実態を踏まえ、労働におけるジェンダー平等やハラスメントについて研究する東洋大学 社会学部 准教授 村尾祐美子教授よりコメントがあった。

「これまでも審議はされてきたが、職種や業種特有のハラスメントを考慮する難しさなどもあり、実態把握の不十分さが問題だった。これまで掬い上げられてこなかったハラスメント被害者の声が可視化されたタイミングで、ハラスメントに特化した詳細な質問や取引における公正さの重要性・性別ごとのクロス集計されたアンケートと要望書が、当事者による実態を元に提出されたことには非常に意義がある」と村尾氏は語った。

東洋大学 社会学部 准教授 村尾祐美子氏

【参照】「フリーランス・芸能関係者へのハラスメント実態アンケート」および「要望書」へのコメント

フリーランス協会の平田氏は、協会を3年前に設立して以降「雇用類似の働き方に係る論点整理等に関する検討会」にて提言を続ける中、問題を認識し議論のテーブルにはあがっていたが、厚生労働省の担当から「その実態のデータはないか」と幾度となく聞かれていたという。「9月9日に厚生労働省へ要望書と調査結果を提出した際には担当者がその実態に驚き、『この貴重なデータを今後の検討会の参考にしていきたい』と受け取ってくれた。これは画期的なことだ」と語った。

ゆくゆくはハラスメントも労災保険に

続いて、日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)フリーランス連絡会 杉村和美氏より、「フリーランスのハラスメント防止対策等に関する要望書」には「加害側は発注企業が多く、発注企業の防止対策を率先してほしいことや、発注企業の相談窓口をフリーランスも利用できるよう、発注書や契約書へ相談窓口の連絡先の明記や行政窓口の利用許可をしてほしい」など、要望書の記載について解説があった。

日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)フリーランス連絡会 杉村和美氏

【参照】フリーランスのハラスメント防止対策等に関する要望書

最後に「労災保険制度の労働者枠が広がり、フリーランスも利用できるようになることを望む。怪我のみでなくハラスメントも労災となるよう話を進めており、今回の要望書が今後の世の中が明るくなるように活かされたらうれしい」と平田氏が締めくくり、記者会見は終了した。

* * *

「平等とは何か」「人権とは」を再び問い直す時が来ているように思う。八幡氏の証言に、筆者は目頭が熱くなった。「『被害者だから』と生きるのでなく、胸を張って堂々と生きて行きたい」という彼女の言葉・表情は眩しく見えた。ハラスメント防止がどのように審議されるのか、今後の動きに注目していきたい。

著者
望月 香里(もちづき・かおり)
元保育士。現ベビーシッターとライターのフリーランス。ものごとの始まり・きっかけを聞くのが好き。今は、当たり前のようで当たり前でない日常、暮らしに興味がある。
ブログ:https://note.com/zucchini_232

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