いでよ、経営を革新するITリーダー
情報システムにも明確な「ミッション(使命)」を
ITを導入する上では、以下の3つを明確に定義する必要がある。
- われわれの事業や提供すべき価値は何か(Value Proposition)
- それを実現するためにITに求められる強みは何か
- その強みによっていかなる情報や知識を社内で共有したいか
1つ目のバリュー・プロポジションとは、自社がどのような「独自の価値」を提供することで顧客に奉仕したいと考えているか、その明確な「意志」にあたる。例として、新生銀行では、「質の高い商品とサービスを、便利で使いやすく、低コストで提供する」というリテールバンキング志向のバリュー・プロポシションを当時の経営トップである八城政基氏が明確に示し、CIOであるダナンジャヤ・デュイベディ氏を核とする開発チームが事業戦略と融合したITの導入に成功したといわれる。
システム検討の現場で最も紛糾するのは、システムに「あれもこれも」とすべての強みを求めることである。操作性、ユーザーインターフェース、機能網羅性など、すべての要望を完全に満たすパッケージ製品は少ないし、スクラッチで開発するとすれば膨大な時間とコストを要する。
経営戦略と同様に、IT戦略においても「自社はこの強みをいかし、こうした戦い方をするので、これらの要件を明確に満たしているITを導入し、成果を上げる」という明確なリーダーシップが必要である。もちろん、この点についてはシステムを提案する側も真剣に反省し、改善しなければならない点が多い。
コンピューターリテラシーから情報リテラシーへ
ドラッカーは、「IT革命で重要なのは、T(技術)よりも、I(情報)の方である」と言う。もちろん、技術が重要であることは間違いないが、「その技術によってもたらされた情報が、どのようなインパクトを与えるか」がより重要であるとドラッカーは強調する。
例えば、Google社が提供した技術自体は彼らオリジナルのものではなかったかもしれない。しかし、そこから流通される情報や、生み出されるネットワークが、巨大なビジネスモデルを誕生させた。それは、もちろん企業内で使われるシステムにも同じことが言える。
ドラッカーは、経営陣や事業のリーダーに対して、コンピューターリテラシーから情報リテラシーへの意識転換を促してきた。IT自体がダイレクトに何かの成果を提供(Provide)してくれるわけではない。「実現したいビジョンと方策のイメージ」がある上で、それを可能に(Enable)にするのがITなのだ(図2)。
ドラッカーの言葉を借りれば、「最低限のコンピューター・リテラシーから、情報を使ってものごとをなしとげるという情報リテラシーの域に達しなければならない。それは面白く価値のある挑戦である。われわれはそのような時代の流れの中にいる。その流れは速い」ということである。
しかしドラッカーは、「現代のほとんどの情報システムが、経営意思決定に大きく役立ってはいない」と手厳しい。では、ドラッカーの考える、経営の意思決定に役立つ情報システムの条件は何か。