成果が上がる人、上がらない人
マネジャーにとって不可欠な資質-「真摯さ」
さらに、ドラッカーは、マネジャーにとって何よりも重要な資質として、「真摯(しんし)さ(Integrity)」を上げる。偏差値的に頭がよいことでも、学歴が高いことでも、前職での業績でも、人付き合いのよさでもなく、この「真摯さ」が重要であると強調する。
いわく、「いかに知識があり、聡明(そうめい)で上手に仕事をこなしても、真摯さに欠けていては組織を破壊する。組織にとってもっとも重要な資源である人間を破壊する。組織の精神を損ない、業績を低下させる」
この言葉は非常に重い。会社や事業が行き詰まり、崩壊の危機を迎えるとき、必ずと言ってよいほどこの「真摯さ」が組織から消えてしまっている。顧客や社員、そして株主、社会に対し真摯に考え、行動できているか、われわれは常に視点を上げ、内省する必要がある。
ドラッカーは「マネジメントとは実践である」と強調してきた。マネジメントとは勉強するものであるよりも、実践し、成果を上げるための道具である。ITのプロジェクトや実務を担うリーダーの皆さんが、もし実践をためらうことがあれば、ドラッカーの「何によって憶えられたいか?(What do you want to be remembered for?)」
という言葉を胸に刻んでほしい。
今のチームや、慣れ親しんだ組織を離れなければならないとき、あるいは自分がこの世からいなくなるとき、あなたは「どのような存在として覚えておいてもらいたい」と考えるだろうか。チームの成功に貢献をし、部下や同僚の強みを発揮させることに注力し、周りの人間に勇気と情熱を与えた人物として記憶されたいか。その逆であることはまずないはずだ。
このドラッカーの問いは、単なる職業上の役職や、権限の範囲を超え、一人間として、どんな価値観にもとづき人生を生き、どんな成果を上げ、どんな貢献をしたいと考えているかを問うている。変化の激しい時代に、自分の足で立ち、苦難を乗り越えて成果を上げるマネジャーは、この問いを常に心にとめ、覚悟と情熱を持って実践することが求められる。
最後に-勇気を持って実践しよう
社会、組織、人をすべてカバーするドラッカーの経営思想は広く、深い。今回の連載においては、その一部しかお伝えできていないと思う。興味を持っていただいた方は、ぜひ書籍を深く読んでみていただきたい。ここで書かれたことの背景にある意図や意義をより深くご理解いただけると思う。そのために、この連載では、ドラッカーの経営学のコアとなる重要なエッセンスを盛り込んだつもりである。
今回連載の機会を頂いたおかげで、筆者もクレアモント大学院在学時代に学んだ内容をずいぶんと思い出し、整理することができた。心からこの機会に感謝したい。その中で、ドラッカー先生が自ら教壇で「ドラッカー流マネジメントなど、『ドラッカー流』という言葉は使わないでもらいたい。私流ではなく、『マネジメント』という極めて重要な課題と、原理原則が存在するだけだ。」と言っていたのを思い出した。自分が前面に出ることや、過大評価されることを好まなかった謙虚なドラッカー先生らしいコメントだ。
今回は、読者の皆さんに分かりやすく伝えるため、この「ドラッカー流」というタイトルや、ドラッカー先生の言葉を意識的にかなり引用させてもらった。しかし、ドラッカー先生の言うとおり、「ドラッカーはこう言っている」というスタンスではなく、リーダーとして自分が確信を持てるよう、果敢に実行し、成果を上げていただきたい。プロジェクトや組織のマネジメントで壁にぶつかり、多大なストレスを抱えることは頻繁に発生する。しかし、必ず解決し、成果を上げられる原理原則が存在する。
今回の連載から、少しでも読者の皆さんのお役に立てたのであれば、ドラッカー先生もきっと喜んでくれているに違いない。
なお、本稿の執筆にあたって、以下を参考にした。
P.Fドラッカー(著)上田惇生(訳)『マネジメント - 基本と原則 [エッセンシャル版]』ダイヤモンド社(発行年:2001)
P.Fドラッカー(著)上田惇生(訳)『経営者の条件』ダイヤモンド社(発行年:1995)
P.Fドラッカー(著)上田惇生(訳)『プロフェッショナルの条件』ダイヤモンド社(発行年:2000年)
ウィリアム・A・コーン(著)有賀 裕子(訳)『ドラッカー先生の授業 私を育てた知識創造の実験室』ランダムハウス講談社(発行年:2008年)