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地方で働くメリット、デメリットとは―体験者が語る転職とチャレンジのヒント

2018年9月6日(木)
萩原 まお

2018年8月4日、デジタルスタジオハリウッド静岡が主催するイベント「新しいシゴト、新しいジブン会議 Volme.5」が開催された。「新しいシゴト、新しいジブン会議」は今回で5回目。人生や働き方の幅を広げたい人に向けた不定期のイベントだ。

会場は、静岡県焼津市の焼津駅前商店街に今年オープンしたコワーキングスペース「Homebase Yaizu」。株式会社ナインが運営するコワーキング&カフェスペースで、元々は黒はんぺん(焼津市の名産品)の工場兼店舗だった建物を、DIYリノベーションして作られた。オープン以来、静岡で働く人々や地元住民が集まり、活気ある場所となっている。

Homebase Yaizuは焼津名物の黒はんぺん工場兼店舗を改装して作られた

今回のテーマは「10年後」と「ローカル」。10年後には、技術革新や人口増減などの影響で現存している仕事の多くがなくなっていくと推測されている。そんな中、私たちは人生や働き方をどう変化させれば良いのだろうか。

この課題に対して、大都市ではなくあえてローカル(地方)で働くことを選んだ人たちがパネリストとして登壇し、実例を紹介した。

【第一部】パネルディスカッション
“新しい働き方”の、見つけ方・はじめ方

第一部では、静岡で新しい働き方を体現している3名が登壇し、新しい働き方の発見とその始め方について実体験を紹介した。

1人目は、天野 浩史(あまの ひろふみ)さん。NPO法人静岡フューチャーセンター・サポートネットESUNEの代表理事を務め、行政・企業・NPOなど多様な人材の社会参加支援、法人向け教育プログラムの企画開発、NPO・地域団体支援に取り組んでいる。

NPO法人静岡フューチャーセンター・サポートネットESUNE 代表理事 天野 浩史さん

現在の働き方を選択したきっかけは、静岡の大学在学時に菊川市倉沢の棚田保全活動に関わったこと。活動を通じて地域の人々の暖かさに触れ、地域支援という仕事に興味を持ったという。

大学卒業後は求人メディア会社に入社し営業を担当するが、棚田保全活動での体験が忘れられず、退職してNPOに転身。最初は貯金を崩すような苦しい生活だったが、活動を継続するうちにサポートをしてくれる人も増え、現在は行政からの仕事も請け負っている。

2人目は、三浦 愛(みうら あい)さん。静岡県焼津市の「地域おこし協力隊」に委嘱。観光課でイベントの企画および既存イベントのブラッシュアップなどを行っている。

焼津市観光交流課 三浦 愛さん。「地域町おこし協力隊」としても活躍

平均月間PV数20,000のブログ「愛love fish」を運営。Instagramフォロワー数は約5800人、Twitterフォロワー数は約3500人、Facebookフォロワー数は約5000人にも上る。大井川港勝利丸にて、遊漁船の修行もしている。

三浦さんは大学卒業後、趣味だった「釣り」に関わる仕事をするため、静岡の釣り具メーカーに就職。3年間勤務したが、商品をただ売るのではなく「自分自身で商品を作りたい」という気持ちが強まり、一念発起してイタリアへ料理留学。

しかし留学は言葉でコミニュケーションできない壁にぶつかり、苦い経験となった。留学の体験からコミニュケーションの大切さ、人とつながることの大切さを改めて実感し、たまたまfacebookで目にした焼津市地域おこし協力隊に応募し、今に至る。

3人目は竹村 織音(たけむら おりおん)さん。株式会社ナインにてWeb制作や地方創生事業に従事し、営業兼、ディレクション業務を担当している。

株式会社ナイン 竹村 織音さん。東京と静岡を往復しながらWeb制作や地方創生事業に従事

静岡の大学を卒業後、小売系業務システムパッケージベンダーへ就職。しかし長時間労働、深夜労働、薄給、副業およびダブルワーク禁止という過酷な労働環境で、大きなストレスを感じる日々を過ごす。

6年後、仕事のストレスと「働き方に選択肢がないのはおかしいのでは?」という疑問を感じ、Web業界への転職を決意。会社を退社し、静岡デジタルスタジオハリウッドへ入学してWeb制作を学ぶ。

その後、同校の紹介で株式会社ナインに就職し、現在はイベント会場であるHome Base YaizuにてWeb制作、地方創生事業を行なっている。

・新たな一歩を踏み出す不安

天野さん、三浦さん、竹村さんの3人に共通していた不安は「食べていけるかどうか」という収入面だった。

天野さんは退社時に見込んでいた経済的な補助を得ることができず、貯金を取り崩す生活が続いたことから収入の不安に直面した。

そんな中、「目の前の仕事を120%の成果で返す」ことを1年間続けていくうちに信頼を得て、次第に行政などの仕事を請け負うようになり、周囲の人たちのサポートも得られるようになった。「まずは飛び込むことが大事だ」という。

3人とも世代が近く、とても仲の良い様子がよく見てとれた。パネルディスカッションも和やかな雰囲気で進められた

三浦さんは、異業種への転職や海外留学などの行動から見ても「決断力のある人物」という印象は強いが、実は決断するまでに長時間悩み、なかなか決断できない性格で、留学や転職など新しい道を選択する際はいつもかなりの期間悩んだという。

しかし、悩む中で「自分が何をやりたいか」を周囲の人に発信し続けることで、誰かが助けてくれたり、協力してくれるようになった。

竹村さんは、収入の不安に加え「違う業種の仕事をやっていけるかどうか」というキャリアチェンジへの不安が大きかった。しかし、会社で働いていた頃とは違い、毎日「仕事が楽しい」と感じられ、現在まで続けることができたという。

・新しい道を選んで良かったこと

天野さんが挙げたのは「人との出会い」「社会課題の発見」「業界を問わない」の3つ。「自分が地域の調整役となる仕事にやりがいを感じている」と話す。

三浦さんが挙げるのは「変な人との出会い」「フランクに仕事ができる」こと。「地域おこし協力隊は市役所と市民を繋ぐポジショニングなので、様々な活動や問題提起がしやすく働きやすい」ようだ。

竹村さんの意見で印象的だったのは、とにかく「楽しい」ということ。「仕事が楽しいこと」「自分に合った仕事」を挙げたが、今後は「楽しさだけでなく、さらに収益を高めていきたいと考えている」という。

限られたスペースながら県内・県外から参加者を集め、満員御礼だった

・10年後の目標―どうなっていたいか

天野さんが目指す10年後は、自ら解決に向けて動くことができる社会の実現だ。問題が起きた時に「誰かが解決してくれるのでは?」と人ごとのように傍観するのではなく、各々が自分の課題として捉え、解決に向けて行動するようになって欲しいし、自分の仕事でそれを支えていきたいと考えているとのことだ。

三浦さんが目指すのは、将来漁船での釣りを楽しむことができる宿泊施設を作り、多くの人に焼津市を楽しんでもらうコンテンツを作ること。その目標に向かって、現在は仕事の傍ら漁船に乗って修行をしているそうだ。

竹村さんが目指すのは、これからの10年で「人生は色々な選択ができる」ことを自分の実体験を持って体現すること。現在の株式会社ナインは東京での仕事が多いが、地元である静岡でも仕事の流れを作っていきたいと考えているという。また、本イベントの会場であるHomebase Yaizuのような場所を、焼津以外にも広げていきたいと話す。

【第二部】静岡で“新しい働き方”はじめました

第2部では、ローカルでの新しい働き方の実現に向けて一歩を踏み出した登壇者が、ビフォー・アフター、経緯、想い、不安と解消法、今後などについて発表した。

1人目は、兼堀 大秀(かねほり ひろひで)さん。静岡県内大手製造工場勤務から、デジタルハリウッドSTUDIO静岡での学びを経て、県内IT企業株式会社あんどぷらすへ転職した。

株式会社あんどぷらす 兼堀 大秀さん。一念発起でまったく未経験だったITの世界へ飛び込む

2人目は、佐々木 昌一(ささき しょういち)さん。大学在学中に独学でWebデザインを学び、ベンチャー企業、人材系企業、コンサル系企業などでWebデザイナーを勤めた。その後フリーランスで仕事を受けていたが、家族の病気などもあり静岡(伊東市)へUターン。現在はデジタルハリウッドSTUDIO静岡にて受講生とトレーナーのサポートを行っている。

フリーランスの佐々木 昌一さん。東京から故郷の伊東へ活躍の場を移し、WebデザインからデジタルハリウッドSTUDIO静岡の講師まで幅広く活動

・なぜ新しい働き方を選んだのか

兼堀さんは、最初に就職した職場(工場)を「閉鎖的で成長がない環境だ」と感じていた。そんな中、海外で3Dデザイナーとして活躍する姉への競争心もあり、自分が成長できるWeb業界への転職を決めた。

最初はまったく経験のない世界に飛び込むことに不安や恐怖もあったが「実際にやってみるまでは、やれるかどうかも分からないのでは」と奮起。「やるしかない!」と自分を追い込んだ話す。

一方の佐々木さんは、もともと「やりたいこと」がなかったため、「選んだ」というよりは「選ばざるを得なかった」という形で、新しい働き方を選んだという。

会社員を経て東京でフリーランスとして働いていた頃、たまたま電車の窓から見えた美しい自然の風景を見て、自然と涙が出たという経験をした。

もともと自然が豊かな環境である伊東市で育った佐々木さんは、その体験から「自分は今、普通の状態じゃない。地元に帰らないと危ない」と感じたことが、静岡に帰ってくるきっかけだった。

フリーランスから会社員(静岡デジタルハリウッド勤務)に戻ったのは、規則正しい生活ができること、毎月決まった給料がもらえるという会社員のメリットを改めて感じられたからだ。

しかし、伊東市は職場があるデジタルスタジオハリウッド静岡からは遠く離れており、通勤には決して良い条件ではなかったが、事前にしっかりと話し合ったことで納得のいく転職ができたという。

兼堀さんは「やるしかない」と自分を追い込んだこと、佐々木さんは地元で働くことのメリットを力説した

・新しい働き方で変わったこと

兼堀さんは、進化の著しいWeb業界で働くことで、日々勉強をするようになり、自分の集中力が高まったという。また、閉鎖的な職場から常に同僚や顧客と接する職場へと変化したため、開放感を感じられている。

佐々木さんは、海や山が近く、気候に恵まれ、食事が美味しい伊東市での生活を楽しんでいる。東京のような都会での生活はどうしても肌に合わなかったため、現在の環境に満足しているそうだ。

また、以前働いていたIT業界は比較的ドライな人が多く、飲み会などの集まりもなかったため、寂しさを感じていた。その寂しさも、今はフレンドリーな仲間たちに囲まれて劇的に変わった。会社員として毎月安定した給与がもらえることで精神面が安定したことも大きな変化だと語る。

【第三部】みんなで考える“ミライの働き方”

本イベントの最後となる第三部では、これまでのセッションを踏まえた参加者によるフューチャーセッション(ワークショップ)が行われた。

第三部では参加型のフューチャーセッションが行われた。講師を務めるのは天野さんだ

このフューチャーセッションの目的は、自分自身を見つめ直すことで、新しい自分を発見するというもの。自身のマインドマップを作成し、参加者同士が共有することで自分を客観的に承認してもらうというセッションである。

このフューチャーセッションの目的は、参加者同氏が対話しながら、10年語にありたいジブンと出会うこと

最初に、参加者各々が紙に自分のキャッチフレーズを書き、参加者同士で興味を持った人たちと小グループを作成。その後、自分のマインドマップを作成して、グループ内で自己紹介から「今後どのような仕事や働き方をしたいか」「10年後は何をしたいか」などを紙に書いて発表、グループ内で交換しつつ語り合った。

私のグループのマインドマップ。マインドマップを書くことで自分を客観的に見ることができる

フューチャーセッションの講師を務めた天野さんは「参加者同士で『いいね!』と承認し合うことで、自分自身や自分のやりたいことに自信を持つことができる」と力説する。どのグループの会話も白熱し、予定時間をオーバーするほどの盛り上がりを見せてイベントは終了となった。

他のグループでも積極的に対話が行われており、決められた時間内には収まらないほどだった

おわりに

今回のイベントを通して、最初は働き方に悩んでいた参加者たちが、講演やワークショップによって次第にエネルギッシュに変化して行ったことが最も印象的だった。登壇者たちが自身の非常にリアルな実体験を通して語ったことで、参加者たちもローカルでの働き方やチャレンジを追体験できるものだったからだろう。

現在は変化が激しい時代で、自分の働き方や仕事の将来に関する悩みは尽きない。しかし、もし悩んだ時は今回のイベントのように先輩たちに実例や体験談を聞き、自分以外の人たちに直接言葉で伝えることが効果的だと感じた。

静岡県焼津市をはじめとする地方都市が、今後ローカルで新しいチャレンジをする人たちの活動によって、さらに変化していくことを期待したい。

静岡在住フリーランスのイラストレーター。書籍、Webメディア向けのイラストを制作。静岡大学教育学部を卒業後、地元メーカー勤務13年を経て独立。エイ出版「趣味の文具箱」にて漫画連載中。
HP:http://maohagiwara.com、ブログ:maoichi.com、Twitter:@mao_hagi

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