立体アニメーションのしくみ

2008年11月21日(金)
村田 朋泰

撮影に使う機材について

 筆者が撮影に使用する機材一覧は下記になります。

・デジタル一眼レフカメラ:Nikon D2Xs
・画像取り込み:Nikon Camera Control Pro
・確認用:Sony TRV900、ランチボックス
・編集ソフト(Adobe):Adobe Premiere
・編集ソフト(Apple):Final Cut Studio/Final Cut Pro、QuickTime Pro
・合成ソフト:After Effects(Adobe)

 撮影にはデジタル一眼レフカメラを使います。デジタル一眼とパソコンをUSBケーブルでつなぎ、撮影した画像をSDカードなどの記録媒体を介さずにじかにPCに保存していきます。その時使用するのがNikonのCamera Control Proというソフトです。このソフトは遠隔でカメラを操作/撮影できるもので、絞りやシャッタースピード、画質等細かい設定もできます。足場によっては、シャッターを切るたびにカメラがわずかに動いてしまうこともあるので、コマ撮りをする際にはこのようなソフトが欠かせません。

 撮影した写真をムービーにするのはAppleのQuickTime Proを使います。これは有償でQuickTime Playerからアップグレードできます(映像のコンバートからちょっとした編集もできます)。「イメージシーケンスを開く」という機能を使えば、ファイル名が連番になっている画像を自動でムービーにしてくれます。作ったムービーをさまざまな圧縮で書き出せますが、Flashに変換できないことと、フレームレートをあらかじめ指定されたものの中からしか選べないというところは難点です。

 書き出したムービーをFinal Cut Proに読み込んで編集作業に入ります。音楽に合わせて映像を並べる作業はFinal Cut Proで行いますが、効果音や全体の音のレベルの調整はSoundtrack Proで行います。Final CutとSoundtrackは互換性があり連携しながら編集を進めることができるので、効率的に作業ができます。

 合成作業や、細かいアニメーションの調整、映ってはいけないものを消したりする作業はAfter Effectsを使います。After Effectsは使い方を覚えるまでが大変ですが、慣れてくれば複雑な合成作業が可能です。画面の端に入ってしまったゴミを消す、撮影した人形と2Dアニメーションの合成、色の微調整、撮影の時に小道具が動いてしまった時もこれがあると便利です。

 作業が終わったら書き出してFinal Cut Proに読み込みます。After Effectsでも編集や音をつける作業はできますし、Final Cut Proでもちょっとした合成や色の調整などはできます。ですが、作業ごとにそれに特化したソフトを使って分散させることで、時間が短縮できクオリティーも上がります。合成作業はAfter Effects 、編集作業はFinal Cut Pro、音編集はSoundtrack Pro というワークフローを念頭において制作しています。

 また、ランチボックスとは、静止画で撮影した素材を即座にムービーにして再生してくれる機材です。また、前に撮影した画像と次の画像の違い、動きの差を確認することができるので、人形を動かす際には欠かせないものです。人形の動きをスムーズにするには、ランチボックスによる動きの確認が重要になってきます(図3)。

アナログとデジタル

 初めて立体アニメーションを制作したのは大学3年からでした。1年で5本の短編作品を制作しました。

 最初の3作品は、8ミリテープをコマ撮りできる機材が大学になぜか1台だけあって、それを使用して撮影しました。1フレームをテープに撮るのに30秒ほどの時間がかかる機材でした(現在はデジカメを使用しています。マウスをワンクリックするだけで撮影できるので、ものすごい時間短縮です)。その後、バイト代の大半を費やして、初めてPCを購入しました。

 それはMacintoshのPower Mac8600でした。今から11年前になります。さまざまな環境がデジタル化と言える時期に突入し、個人でも映像作品が作る時代になったのだと実感しました。ただ、購入したのはいいですが、PCソフトは基本操作くらいしか使ませんでした。ほとんどがアナログ作業というのはあまり変わりませんでした。大学在学中は大学院も含めてアニメーション制作に没頭し、在学中に8本の作品を制作しました。

 その間にもPCはどんどん進化を遂げていきました。一方筆者自身は技術の進化にはほとんど関心がなく、この機械で作品が作るのならこれでいい、といった感じでしたので、相変わらずPower Mac8600でした。ですから大学卒業制作作品「睡蓮の人」のデータ保存はすべてMOの230MBでした。

 その数は100枚以上になり、これを紙袋に入れて自宅と大学を往復して、持ち歩いてました。紙袋の取っ手がぼろぼろになったので何回かガムテープで補強したりしました。編集作業をしていたら大学の助手に「いったい君は何をしているんだ?」と言われ、「外付けのハードディスクを購入しなさい」と忠告してくれたのですが、当時の筆者はこれがベストな形だと思いました。

 この作品を完成させるためにはMOをいつも持ち歩いて過ごさなきゃいけないのだ、と思っていました。MOを大量に持ち歩くということはそれなりの重量になります。だけどなんだかこの重量感が筆者にとっては必要な重さだったのかもしれません。「デジタル」が重さや実体がないとすると、「アナログ」はその逆になるような気がします。何かが目の前に確かに存在し、手で触れることができ、質感や重さを感じることができるということ。それが立体アニメーションの醍醐味(だいごみ)と言えます。

 次回は、多様な可能性を秘めたアニメーションの今後についてお話したいと思います。

立体アニメーション「朱の路」で第9回広島国際アニメーションフェティバル優秀賞を受賞するほか、Mr.Childrenの「HERO」のPVなども手がける。近年では絵画、空間芸術にも表現を展開し、2008年4月の平塚市美術館での個展「夢がしゃがんでいる」では、巨大な空間をひとつの作品世界として作り上げた。http://www.tomoyasu.net/

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