KubeCon China初日のキーノートは中国を持ち上げるセッションが連発

2018年12月19日(水)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
KubeCon+CloudNativeCon China、初日のキーノートの内容を紹介する。

Kubernetesはすでに退屈?

Harborの紹介をVMware Chinaの担当者が行った後に、GoogleのJanet Kuo氏がMCとして登壇。ここからやっと、KubeConのメインであるKubernetesのアップデートの解説が始まった。MCとしてステージに上がったのは今回が初めてというKuo氏だが、Kubernetesのコントリビューターとしては、開発初期の段階から関わっていたというエンジニアだ。

Janet Kuo

GoogleのKubernetesコントリビューターJanet Kuo氏

GoogleのKubernetesコントリビューターJanet Kuo氏

ここではKubernetesの利用形態のうち、すでに58%が既に本番環境として実装されていることを紹介した。もっとも、このカンファレンスに参加しているエンジニアには驚きの数字ではないだろう。特に中国では、この後に登壇するAlibabaの事例などからも見てとれるように、凄まじいトラフィックを捌くシステムの中核に使われている。このことからも、Kubernetesがすでにコンテナオーケストレーションツールとして、デファクトスタンダードであるということを強調した形になった。

そして「Kubernetesはすでに退屈なシステムになった」と、近年のKubernetesに関するプレゼンテーションではよく聞くフレーズを紹介した。Kubernetes自体が先進的でカッコいいというところから、使うこと自体が当たり前という状況に移行したということを、「退屈」であると表現したのだろう。

Kubernetesはすでに退屈なシステム?

Kubernetesはすでに退屈なシステム?

CNCFがホストするさまざまなプロジェクト

その後に登壇したのは、Aqua SecurityのLiz Rice氏だ。Rice氏は、CNCFのプロジェクトアップデートとして、CNCFがホストしているプロジェクトの最新情報を紹介した。

Aqua SecurityのLiz Rice氏

Aqua SecurityのLiz Rice氏

CNCFが用意しているクラウドネイティブなシステムのためのトレイルマップに沿った紹介となったが、特にHelmやOpenTracing、Prometheusなどについて解説を行った。

LuaやPythonをサポートしたOpenTracing

LuaやPythonをサポートしたOpenTracing

その他、VitessやRookがインキュベーションから移行したことなどを紹介し、Buoyantが開発を勧めるLinkerdなどについてもアップデートを行った。さらに、今回サンドボックスとして採用されたHarborとTiKVについて紹介した。CNCFの公式なアップデートよりも、中国発祥のクラウドネイティブなオープンソースソフトウェアについて時間を割いて紹介を行った形になった。

Alibabaのサービスに利用される中国発のOSS、Harbor、TiKV、Dragonflyなどを紹介

Alibabaのサービスに利用される中国発のOSS、Harbor、TiKV、Dragonflyなどを紹介

その後、Alibaba CloudのTao Ma氏が登壇し、Harborの紹介を行った。Alibaba Cloudの人間がHarborの紹介をするというのも興味深い。ここでも、HarborがVMware Chinaで開発されたことは強調されていた。

Alibaba CloudのTao Bao氏によるHarborの紹介

Alibaba CloudのTao Bao氏によるHarborの紹介

エンタープライズには必須の監視

最後にGitLabのPriyanka Sharma氏が登壇し、エンタープライズにおける監視の重要性について、Prometheus、Jaeger、Istioを例に挙げてプレゼンテーションを行った。これは企業システムにおいて開発サイクルを速めることの重要性は理解されているが、その要点としてシステムがどうなっているのかを細かく監視することで軌道修正を素早く行い、結果的にゴールとなるシステムの姿に近づくことができるということを語ったものだ。

ツールチェインが複雑過ぎるDevOpsの現状

ツールチェインが複雑過ぎるDevOpsの現状

またDevOpsにおいては、開発から運用に至るまでに利用されるツールが多過ぎることで、ツール間の連携を自動化するためのコストが高く、結果としてDevOpsの効果が出ていないと語った。

DevOpsのツールチェインの複雑さについては、WordとGoogle Docsを例に挙げて比較。Sharma氏は「Microsoftに悪気はないが、複数の人が協調して作業するソフトウェア開発には、Google Docのようなツールが向いている」ため、DevOpsのツールについても複数人が使うことで効率や自動化が進む方法論を使うべきだと解説した。Wordはそもそも1人が利用するものとして開発され、それを後から複数人での利用を可能にするように拡張されたものであり、それならばやはり元からコラボレーションを行うことを前提としたツールを選ぶべき、というのがポイントだ。

WordとGoogle Docsを使ったツールチェインの比較

WordとGoogle Docsを使ったツールチェインの比較

ここまでで初日の午前中のキーノートは終了。全体的に、中国からの参加者に最大限にフォーカスすることを意図したセッションとなった。つまりCNCFの中国スポンサーとそのスポンサーが開発をリードするプロジェクトにスポットライトを当て、オープンソースソフトウェアに貢献した大学教授を讃え、Alibabaという最大のコマースサイトでのユースケースを紹介することで、クラウドネイティブなソフトウェアの浸透をアピールした形になったキーノートであった。中国というアジア最大の市場に向けたメッセージとしては、効果的だったのではないだろうか。

<編注:2018-12-27 00:00更新>一部の製品名が間違っておりましたのでお詫びして訂正致します。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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