NGINX日本オフィス始動、日本語化や営業力増強を表明

2019年3月12日(火)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
軽量なWebサーバーであるNGINXの日本オフィスが始動した。日本での活動を本格化し、営業力やサポートなどを増強するという。

NGINX Inc.は、軽量高速なWebサーバーとして多くのサイトで利用されているNginxを開発している。その同社が、日本への本格参入を表明した。日本国内にオフィスを構え、日本語のドキュメントも充実させるという。2019年2月7日に記者発表会を行い日本市場への本格参入を発表し、同日午後にはミニカンファレンスを開催した。そして翌週12日にも、日本国内のパートナーであるサイオステクノロジーと共催でMeetupを開催するなど、集中的に露出を行った。この記事では、2月7日のミニカンファレンスと12日のMeetupのようすをまとめてお届けする。

NGINXのCTO、Igor Sysoev氏

NGINXのCTO、Igor Sysoev氏

ミニカンファレンスでは日本語ドキュメントの整備を約束

2月7日のミニカンファレンスではCTOでCo-FounderのIgor Sysoev氏が登壇し、NGINXの歴史やNGINXが開発を進めるNGINX Unitを紹介した。またNGINXの日本人社員でテクニカルソリューションズアーキテクトである鈴木孝彰氏、田辺茂也氏が、NGINXの有償版ソフトウェアであるNGINX Plus、NGINX Controllerを紹介した。そして後半はビジネスサイドのアップデートとしてCEOのGus Robertson氏が登壇し、NGINXのビジネスについて解説した。

NGINXのCEO、Gus Robertson氏

NGINXのCEO、Gus Robertson氏

CTOであるSysoev氏は、MeetupのほうでもNGINX Unitの解説に終始しており、すでに自身の興味としてはNGINX本体ではなく、軽量なアプリケーションサーバーであるNGINX Unitに移っていると思える内容となった。テクニカルセッションの最後に設けられたQ&Aでは、NGINX Unitの「設定ファイルがなく、JSONのデータを与えることで設定を変える、変更後も再起動が不要」という特徴について「JSONにコメントが書けないことは運用エンジニアにとっては可読性が落ちるでは?」という質問が会場から寄せられた。それに対してSysoev氏はJSONの欠点については認めたものの、「パッチ的に構成情報を適用できる」という利点を強調した形になった。また会場からの「YAMLでの設定をサポートしないのか?」という質問に対しては、明確にNoと答え、静的な構成情報をYAMLで保持することの可能性は否定した形になった。

ビジネスに関しては、Gus Robertson氏がユーザー数の拡大やNginxを利用するサイトの数が増加していることを強調した。ここではNGINXのビジネスが堅調であることを説明し、日本国内でさらにその成長を続けるために、東京でのオフィス開設が必須であることを説明した。ちなみにNGINXは、CTOであるSysoev氏が住むモスクワに拠点があり、そこでサポートと開発を担当しているという。

最後にカントリーマネージャーである中島健氏が登壇。日本オフィスへの投資を続けるとしてスタッフの増強を説明し、スタッフを登壇させて紹介する一幕もあった。

カントリーマネージャーの中島氏(右端)と日本オフィスのスタッフ

カントリーマネージャーの中島氏(右端)と日本オフィスのスタッフ

特にエンタープライズからのリクエストが多かったと思われる日本語ドキュメントについては、すでに翻訳を進めていることを紹介し、今後も日本語による技術文書の提供を約束した。

日本への投資は営業、日本語ドキュメントから

日本への投資は営業、日本語ドキュメントから

参考:NGINX日本語サイト

また単にユーザー数、サイト数が増えているだけではなく、トラフィックの多いサイトほどNginxを選ぶ傾向にあることを紹介。ここでも、Nginxが高速で信頼性の高いソフトウェアであることを訴求した。

トラフィックの多いサイトほどNGINXを使っているという

トラフィックの多いサイトほどNGINXを使っているという

またミニカンファレンスの最後には、パートナーであるサイオステクノロジー、マクニカの両社から責任者が登壇し、日本市場におけるNGINXのビジネス拡大に協力することを表明した。

登壇したサイオステクノロジーの長谷川氏

登壇したサイオステクノロジーの長谷川氏

MeetupではNGINX Unitの安全性を強調

記者発表会の翌週に行われたMeetupでは、Sysoev氏がNGINX Unitについて再度、詳細に解説を行った。

MeetupでUnitを解説するSysoev氏

MeetupでUnitを解説するSysoev氏

このセッションではNGINX UnitがPython、PHP、Go、Perl、Rubyなどをサポートすること、稼働するOS、JSONによる設定について説明を行った。ここではUnitがオープンソースとして開発が進められていることを、再度強調した形になった。

2年前にベータ版が公開されたUnitの開発経緯

2年前にベータ版が公開されたUnitの開発経緯

NGINX Unitのより詳細なアーキテクチャーとしてMain、Controller、Routerで構成されていることが解説され、異なる言語で書かれたアプリケーションが、Routerを介して外部のクライアントに接続されることが紹介された。その際に共有メモリを使ったデータ交換の安全性に関しては、詳細な解説が行われた。具体的には、以下に示した手法により安全性を担保している。

  • 共有メモリが隔離されていること
  • 起動のたびにメモリを確保することで外部のプロセスからのアクセスも安全に行えること
  • 非特権ユーザーで実行されること
  • 各言語で書かれたプロセスはワーカーとして別スレッドで実行されること
Unitのアーキテクチャー

Unitのアーキテクチャー

このMeetupでは、ソリューションズアーキテクトである田辺氏によるUnitのデモも行われ、実際にJSONで構成変更を行うようすが紹介された。

ターミナルで実行されたUnitのライブデモ

ターミナルで実行されたUnitのライブデモ

この2日間のイベントを通じて、NGINX社員による日本語の技術解説が可能になったことは喜ばしいと感じた。その一方でデモや解説が表面的で、いわゆるDeep Diveのような深い解説やユースケースの説明に切り込めていないことが残念でもある。またMeetup後のSysoev氏、中島氏との雑談の中で、シリコンバレーにNGINXのエバンジェリストの役割を担う人材が少ないことを指摘した際、Sysoev氏に「IT業界にどれくらい知り合いがいるのか?」という突っ込んだ質問をしたところ「マイケル・デルとは知り合いだが、それ以外はあまりいない」と率直に答えてくれたことが衝撃的であった。NGINXの開発者としてモスクワにいることが不利に働くことは容易に想像できるが、技術的優位性をMeetupなどで実際に対面して会話することが今後は重要となってくるのではないかと思われる。

またUnitのコミュニティがGitHub上ではなく、外部のサイトとして公開されていることもOSSとしては特殊だろう。

参考:NGINX Unitの公式サイト

参考:GitHub上のUnitのサイトは公式サイトのミラーである

オープンソースソフトウェアとしては多くのユースケースを持つNginxだが、収益化とオープンなコミュニティのバランスを取りつつ、これから訪れるサービスメッシュやマイクロサービスの流れをリードできるのか。またIstioやEnvoy、Linkerdなど機能的に重なるソフトウェアとの競争に生き残っていけるのか、コミュニティをもっと盛り上げることができるのか。NGINX本社と日本オフィスの活動に注目したい。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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