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  インタビュー

NPO法人チルドリン徳島の清瀬氏が語る、テレワークは出産・子育て・介護など、ライフステージにより変化する女性の働き方の希望

2020年1月30日(木)
望月 香里(もちづき・かおり)

12月3日(火)、徳島市南島田町の特定非営利活動(NPO)法人 チルドリン徳島(以下、チルドリン徳島)を取材した。大よそ5年前の2014年7月31日に設立されたチルドリン徳島は、子育て中のママさんが中心となり、チームでテレワーク(仕事をするための時間や場所を自由に選ぶことができ、仕事と暮らしを両立させる働き方の1つ)による業務を行なっている。現在、登録しているママテレワーカーは80名おり、取材時はテレワーカー講座が終わる頃だった。設立から現代に至るまで、チルドリン徳島でco-founderを務める清瀬由香さんに話を聞いた。

チルドリン徳島を始めたきっかけを教えてください。

7歳違いの子どもが2人いて、下の子の出産時に働き方など社会の仕組みが7年前と変わっていないことに衝撃を受けました。前職の上司に「子育て中だけど働きたい」と相談したところ、「在宅でもチームで仕事を取れたらお願いしたい」と提案を受けました。

私は前職でCMSを運用管理していました。ページのリニューアルが何千ページある案件でも、ロボットが機械的に動かす部分以外に、目視で確認しないといけない部分が必ずあります。そこで「来月から、ICTママ講座を始めます」と新聞に掲載したところ、50人ほどから問い合わせがあり、パソコン持参と子どもの年齢に関わらず全日講座に参加できることを条件にメンバー10名を選考しました。

チルドリン徳島 co-founder 清瀬由香さん

介護も子育ても在宅であることが共通していますよね。介護だけでなく、技術やスキルはあるのに定年退職される方にも、テレワークは良いですね。

これまで、離れていても意思の疎通ができるツールはなかったと思います。対面では眉毛の動きなどで感情を読み取ることができますが、テレワークではチャットやメールのやりとりになるため、感情を読み取りにくいです。弊社のコーディネーターは、メールの行間などで感情を感じ取り、ひと言声掛けするなど、離れているからこそ意思の疎通を図るようにしています。離れていても思い通りの商品が納品できることが強みです。

テレワークは直接顔が見えない分、時期や品質の詳細等のやりとりを、とても大切にしています。例えば「ピンクは#F0F」とコードで指定するなど、はじめは「ここまで指示しないといけないのか」と思いましたが、きちんと伝えることで自分が考えている品質と同じ仕上がりで納品できた経験から、原因は自分の指示の出し方にあったと反省しました。

それと、私ごとですが、自分の子どもに発達障がいの可能性があることがこの4月に分かりました。そこで「1週間に20時間しか働かない」と宣言し、子どもの迎えや療育病院に行くなど、色々な活動に参加しています。病院に行くと様々な障がい者の親御さんと話をする機会があり、親が死んだ後は子どもをどうするか、仕事には就けないのではないかと、様々な悩みを抱えている現状を目の当たりにしました。将来的には、ICTで障がい者雇用も解決できることがあるのではと思っています。

テレワークにより、仕事の幅も広がりますね。ところで、徳島や四国のテレワーク状況はいかがですか?

「PTAや地域活動の1つにテレワークがある」という感覚に近いです。ワーカーの中には、現在、他の市の子育て推進委員やPTAの会長をしている方もいます。職場で1日中価値観の同じ人達といるよりも、日々の生活の中にPTAや趣味のコミュニティ、テレワークなど多くの人と関わるチャンネルを多く持っている方が人生の楽しさや可能性も広がるように思います。

テレワークの良いところは、時間を自分でコントロールできるところです。講座受講後に独立するなど、業務委託から始めて企業に雇用された方もいます。地域や地方では通勤を考えて仕事を選ぶことが多かったと思いますが、テレワークは場所を問わずに仕事ができることを皆さんに実感していただいています。

以前、「地域の観光サイトを消費者目線で編集してほしい」と依頼があり、駐車場の入り易さやエレベーター・トイレの広さなど、生活に根ざした消費者目線でリライトしたことがとても喜ばれました。

生活に根ざした女性の視点は大きいですね。徳島にいて、都市との格差を感じますか?

特に感じませんね。「働きたいのに働けない」という私の想いを解消したかったのが始まりでした。自分で自由に働き方を選択できる未来は、もうそこまできていると実感しています。仕事も、ICTママ向けの仕事・企業の仕事やオンラインによる総務や経理など、地方から都市へと様々なキャリアパスができる形も考えています。実際、徳島にいながら、ICTママから徳島の企業、東京の企業の仕事へとキャリアパスをした方もいます。仕事を通して彼女たちが「自己実現できた」と言ってくれることに、私は大きな喜びを感じています。

チルドリン徳島の建物内に張られた模造紙には働き方ワークショップの紹介イラストが

こちらは日本テレワーク協会中本氏によるテレワークの紹介イラスト(※現在は受講申し込みは終了)

キャリアのステップアップは、モチベーションにも繋がりますね。

「遠くの誰か」でなく「身近な隣のこの人」が変化していくことで、「私も何かやりたい」「もっとスキルアップしたい」と皆さんやる気になっていきます。

それと、ファミリーサポートに託児をお願いし、同じ建物内で子どもを預けながら仕事ができる場を提供しています。また、小さくなった子ども服をみんなで回すなど、ソーシャル子育てをしているようで、私が育児中に欲しかった場を提供できていることが何よりも嬉しいですね。皆さん色々な地域から来ていますが、仕事をベースにしているので対等な関係性が築けています。

地方だからこそできること、あると思いますか?

絶対にあります。地方は十分都会に勝てます。「優秀なママ達がいる地域だ」と認識されたら「支店やサテライトを出したい」と声が掛かるかもしれません。正しく納品さえできれば、地方でも仕事を受託できますからね。

実際にママさん同士はどのように繋がったのですか?

実は、ITCママの卒業生のネットワークがあって、案件のコーディネートや年度末の大量の依頼に対応してもらっています。ICTママ側でコーディネートできそうな人を採用して小さなユニットを作ったり、オーバーフローした案件は県内外のママ支援の団体に手伝ってもらうなど助け合っています。

協力体制を作っているこの仕組みはフレームワーク化して全国展開できそうですね。ママや女性だけでなく、テレワークならば男女問わず定年後も働けますね。

労働人口が減っている今、テレワークの需要は「待ったなし」にあると思います。自分のスキルを副業やパラレルキャリアで前面に出し、地域の課題解決に繋げていけたらなと思っています。状況は三者三様です。収入ややりがいなど、孤立せずに社会と繋がる方法を見つけてもらえたら嬉しいです。

とくしまテレワーク講座にはどのようなものがあるのですか?

コーディネーターかテレワーカーになりたいかで、必須項目を設けています。

皆さん労働時間はバラバラで、1ヶ月に数時間だけという方から、子どもの手が離れたことで個人事業主となって働く方もいます。上がってくる品質もバラバラなので、始めは1ページのみお願いし、必ずコーディネーターが確認するようにしています。

コーディネーターはお客さんとワーカーにヒアリングをして、ワーカーへの仕事の切り出しや進捗把握、品質管理を行なっています。CSSは反映されているかどうかがはっきり分かるので、テレワークに向いています。

とくしまテレワーク講座のチラシ(※現在は受講申し込みは終了)

とくしまテレワーク講座のチラシ(※現在は受講申し込みは終了)

これまでのお話でテレワークにはメリットが多い印象ですが、一方で課題はありますか?

地域からもっと業務を受託したいことと経営者側の意識改革ですね。「業務が回らないので人を紹介して欲しい」と相談がきますが、何に困っているか詳しく聞くと、単に情報共有ができていないだけだったりします。情報共有に役立つツールをお伝えしたり、受託できそうな案件は受けるなど、困りごとを聞きながら業務改善をサポートしています。

実際にチルドリン徳島を設立して良かったことは何ですか?

自分たちの価値を提供できて、皆さんが喜んでいることですね。仕事をお願いする際に「ママさんがやっているから安い」と言う方はその段階でお断りしています。「人がいない」「優秀ではない」「定着しない」という経営者もいますが、それは仕事の出し方や伝え方に原因があることを経験から学びました。

個人的に良かった点は、子育てをしながらやりたい仕事を諦めずに続けられたことですね。仕事があったから、子育ても続けることができました。

経営者になって、子育て中・シングルマザー・子どもに障がいがあるなど、人によって状況は様々です。どのような状況なら頼めるのか、仕事を振る際によく考えています。何らかの理由で1人が離脱してもリカバリーできるよう、どんなに小さな仕事でも2人以上でチームを組み、必ずコーディネーターを1人入れて、最低3人のユニットを作っています。

生活というリアルな世界を生きているママ達が声を上げることは、必ず世の中の役に立つと思います。ITのコンサルタントが話しても、生活にどのくらい根付くかが大事なポイントですよね。また、関係人口と言わなくても宮崎の仕事をしたら宮崎に行きたくなるなど、仕事をベースに横の繋がりが広がっていくのは面白いです。

「これから働きたい!」というママや女性へメッセージをお願いします。

「自信を持って一歩踏み出したら景色が変わる」。一歩踏み出すまでは勇気がいりますが、同じ悩みや困りごとを相談でき、仕事を軸に繋がる仲間はお互いにフェアでいられ、とても心強いです。お互い寄りかかるのでなく、対等に分かり合える関係性は良いですよ。

終始、和やかな雰囲気の中でインタビュー

実は取材時、実際にテレワークコーディネーターをしている長船美由紀さんと伊勢由花さんにお会いでき、お2人からテレワーカーの生の声を聞いた。

テレワークという働き方はご存知でしたか?

  • 伊勢いいえ、知りませんでした。子どもが生まれてからずっと専業主婦をしていて、5年前、子どもが幼稚園の生活に慣れてきたタイミングで、そろそろ仕事を始めたいと思いました。いざ仕事を探し始めると、希望の条件に一致する仕事が見つかりませんでした。そんなとき、地元の新聞で「ICTママ講座開催」の記事を読んで、テレワークという働き方があることを知りました。講座に申し込み、受講後にテレワークで働き始めました。

実際にテレワークを始めてみてどうでしたか?

  • 長船テレワークは、急に子どもが熱を出したり、悪天候で出勤できない日などでも時間や場所を自分で決められるので業務に支障がでにくく、働きやすいと感じています。「家で働く」と聞くと時間管理や怠惰を懸念する方もいますが、時間の際限がないため、逆に仕事をしすぎてしまうこともあります。

チルドリン徳島理事 エランヴィタル理事長 伊勢由花さん

専業主婦から仕事を始める際、不安はありましたか?

  • 伊勢少しありましたが、テレワークで働き始めた頃は不安よりも久々に仕事ができる喜びの方が大きかったです。また、徳島の女性は仕事をしながら子育てをしている方が多く、専業主婦のときは負い目や孤立感を感じていましたが、一緒に仕事をしているテレワーカーの方達と情報共有しながら働けたことも楽しかったです。

奥さまが働くことに対し、旦那さまとの関係性が議論になるとよく聞きますが、働きすぎや家のことができなくなるなど、家庭での様子はいかがでしたか?

  • 伊勢私自身も悩むことはたくさんありますし、在宅で仕事をしているワーカーから相談を受けることもあります。家事が後回しになったり、子どもが寝静まった後や早朝に仕事をしていると家族に体調を心配されるなど、在宅ワークをなかなか理解してもらえないという話も聞きます。家庭円満が一番なので、ご家族の方と話し合い、無理のない範囲で本人が希望する働き方の実現をサポートしています。

チルドリン徳島 テレワークコーデネーター兼アドバイザー 長船美由紀さん

テレワークコーディネーターとして、今後の展望を教えてください。

  • 伊勢皆さんそれぞれこれまでの経験や積み重ねがあり、得意分野があります。テレワークで自分の長所を活かすことで自信を持ち、なりたい自分や夢の実現を図ってもらえたらと思います。
  • 長船週1、2回でも在宅ワークできる環境があれば妊娠・出産を控えた女性もキャリアが分断されることなく働け、企業にもメリットになるので、企業が積極的にテレワークを導入してもらえたら良いなと思います。子どもは成長していくので、社会復帰できる時期は必ず来ます。多様な働き方がもっと増えると良いですね。

最後に、これから働きたいと思っているママさんにメッセージをお願いします。

  • 長船専業主婦からフルタイムの仕事への復帰にテレワークを取り入れ、スキルアップして自分に自信を持ってから社会復帰すると、スムーズにフルタイムでも働けると聞きます。ICTママの中にも講座受講後、徐々に社会復帰した人も何人もいます。働くことを諦めないでください。

ありがとうございました!

チルドリン徳島については、こちらの記事も合わせてお読みください。
NPO法人チルドリン徳島がテレワークの先に目指すもの」(KADOKAWA ASCII)

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多様な働き方を模索する現代において、まだまだ母・子育て・介護など「こうあるべき」という目に見えない風潮に苦しみながら生活している女性も多いだろう。筆者も介護の経験があり、「在宅ワークができたら」と思った時期がある。どんな状況でも声を上げればそこには方法がある。今後、様々な「ICTウーマン」が活躍する世の中になっていくことが実に楽しみだ。

著者
望月 香里(もちづき・かおり)
保育士資格を活かして、放課後児童クラブで勤務しながらライターもこなす二刀流。ものごとの始まり・きっかけを聞くのが好き。低山トレッキング・NHKフロンティア・世界街歩きが好き。
ブログ:https://note.com/zucchini_232

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