旅するように働く。ワークとバケーションを組み合わせた「ワーケーション」は、働き方改革ならぬ生き方改革となり得るのか
12月6日(金)、東京・大手町のTRAVEL HUB MIXにて、「旅するようにワーケーション~「働き方改革」時代の新しいはたらき方~」が開催された。
働き方改革が進められている一方、休暇を取りづらい日本の現状において注目を集めているのが、休暇中に旅先で仕事をするという新しい働き方「ワーケーション」(仕事、workと休暇、vacationを組み合わせた造語)だ。ひと言でワーケーションと言っても、個人にとっては休暇・仕事・遊び、企業にとっては事業・人材育成・社会貢献、地域にとっては観光振興・産業振興・移住促進など、どの視点から捉えるかでその目的は違ってくる。
本イベントの開催に先立ち、株式会社パソナグループ 常務執行役員 地方創生担当の伊藤真人氏より「パソナグループは『人を活かす』をコンセプトに、株式会社パソナJOB HUBとサービスを立ち上げて約9ヶ月となる。地域の方と仕事や交流する場で感じたことは、受け入れ側の地域も刺激を受けることと、短期間でもその地域に滞在した人が生き生きした表情で帰っていくことだ。本日はワーケーションの価値を共に考えていきたい」と挨拶があった。
ワーケーションはworkとvacationを重ねること
続いて、実践女子大学 人間社会学部 准教授 松下慶太氏より、「モバイルメディア時代の働き方」をテーマとした基調講演があった。
松下氏は、2019年に出版した著書「モバイル時代の働き方(勁草書房)」の中で、法改正やワーケーションがどのように成り立ってきたかなど、海外の事例なども合わせて紹介している。「スマホを含むモバイルメディアが前提の現代社会では、オフラインの行動や働き方がどのようにデザインされていくのか、オフラインの新しい働き方がもたらすオンラインメディアにはどのようなもの・サービスがあるのかが重要だ」と語った。
また、最近の傾向として、サテライトオフィス・テレワークなどにより「alone together(1人だけど一緒)」という空間の中でコラボレーションが生まれたり、どこでもオフィスになりうる状況であると言える。
さらに、ワークとバケーションを切り離して考えるのではなく、「重ねること」だとした上で「work in vacation(休暇中に仕事をするリモートワークやテレワーク)」と「vacation as work(仕事としての休暇、開発合宿、リゾート地で研修、出張の前乗りや後で付け足すブリージャー(Bleisure:ビジネス(business)とレジャー(leisure)の合成語))」の2つがあるという。
日本でも、ここ1年でワーケーションはすごく盛り上がってきており、ノマドワーカーやフリーランスよりも、観光業や関係人口など地域活性化の一環や企業の労務管理や人材育成、新規事業開発のため施策として取り入れているケースが多いという。
人は生き方を共有するスタイル共同体へ
松下氏によると、ワーケーションには「田園を作る」「スタイルを作る」「遊びを作る」の3つの視点があるという。
- 田園を作る
都市の反対は原野であり、田園は両者のエデン的・理想の存在であると提議した上で、地域とどのような田園を作っていくのか - スタイルを作る
ライフスタイルや働き方など、どのような生き方・働き方をしているか、自己目的型の一時的な集まりの「スタイル共同体」 - 遊びを作る
「遊びとはある定められた時間・空間の中で行われる自発的な行為・活動」で、その目的は行為そのものにある
そして、ワーケーションは従来の、各地の有名観光地を巡る観光だけでなく、1週間やそれ以上滞在するからこそ見えてくる、行きたい場所や食べたいものなど、観光パンフレットには紹介されていない観光資源の発掘機会にもなる」と提起した。
ワーカーも地域も「歓待」をしているか
また、単身・カップル・子どものいる家族など、ワーカー本人だけでなく「一緒に来る人にどのような経験をもたらすか」も大切であり、「来てください」と受け入れている地域の観光産業は「歓待」ではなく「寛容」になっていないかと松下氏は問いかけた。
- 歓待
他人を受け入れることによって、主と客がともに変容すること - 寛容
すでにある自分を維持しながら他人を受け入れること
地域とワーケーションの実践者が目指すのは、「歓待」であるべきで、お互いに「歓待」になっているかを確認しあうことが大切だと言及した。今後は様々な地域でワーケーションのプログラムや仕組みが導入されていく上で、ワーケーションの実践者が『自分の地域で何ができるか』を発見するために活動するのも良いだろう。一方で企業がワーケーションを取り入れる上で、地域活性化や経営価値・社会的価値を高める体験をどう作っていくかが大切になるだろう」と示唆したところで、松下氏は講演を締めくくった。
パネルディスカッション
「旅するように働く・旅するワーケーション」
基調講演に続いて、「旅するように働く・旅するワーケーション」をテーマにパネルディスカッションが行われた。パネラーとして松下氏にANAホールディングス 野島祐樹氏、KabuK Style 大瀬良亮氏の2名を加え、ファシリテーターはパソナJOB HUB 事業統括部長、旅するようにはたらく部長 加藤遼氏が務めた。
ワーケーションは人生の豊かさに繋がる
- 大瀬良:海外では自分で自分のライフスタイルを選べることが当たり前。日本のリモートワーク率14%に対し、海外では約半数の企業がリモートワークを可能にしている。仕事のモチベーションが上がり、仕事を超えた人生が豊かになったと、8割以上のリモートワーカーが回答したデータもある。日本も徐々にリモートワーカーが増えてくるだろう。
- 加藤:旅するように働いた結果、拠点である東京の大切さに気づいた。旅をしたからこそ、自分のふるさとや家族・仲間の尊さに気づくことができたのだろう。
- 大瀬良:3.11以降、家族の大切さをすごく考えさせられた。ワーケーションは好きな場所へ行くだけでなく、家族との距離をより近づけられる点が魅力的だ。実家に帰ってワーケーションしたり、子どものいる家庭なら親に孫と会わせる機会を増やせたり、様々なチャンスも併せ持っている。自分の好きな状況を選んで働く権利をどれだけ多くの人が持てるかが、これからの日本人の豊かさに繋がってくるだろう。
- 野島:ワーケーションによって、これまでの便利漬けの環境から、少し不自由な状況で一定期間生活する体験は、人間に本来備わっている危機管理能力やグローバリゼーションが発揮される効果もあると思う。
- 加藤:人は場所を変え、やることを変え、付き合う人を変えると変身することがある。ワーケーションは企業の人材育成プロジェクトとしても注目されている。あらゆる地方都市は「いかに東京から人を呼ぶか」を考え、地方の良さに気づいていないことがある。徳島県の美馬市にあるゲストハウスでは、ワーケーションで来日していた外国人と美馬市民がビジネスを始めた事例もある。今後の人口減少問題において、海外から人を呼びこめる地方が生き残ると思う。
- 松下:日本では、海外からのワーケーションワーカーが自主的に交流することから、事業展開もしやすいように感じる。海外のワーケーションの課題は訪問客同士の関わりに比べて地元との交流がそれほど多くない点だ。
- 野島:旅するように働く場所をフレキシブルに考えたとき、新規事業の幅はとてつもなく広がる。ワーケーションは新規事業との掛け算も良いだろう。
- 大瀬良:ワーケーションの難点は、成果は自分の責任以上でも以下でもないこと。土日や寝ている時間にも仕事が入って来る。現実は、セルフコントロールの欠如により惰性になることも大いにある。
- 加藤:ワーケーションは、その環境が与えられるものではなく、自分で意思決定して自立することが大切。旅するワーケーションの意味は「遊ぶように働く」が一番しっくり来るだろう。
旅するワーケーションの価値とは
ここからは、参加者同士が数名のグループに分かれ、自身が思う旅するワーケーションの価値についてグループディスカッションが行われた。ここでは、その中からいくつか意見を共有しよう。
- 地方都市の価値観や文化に触れ合うことで「当たり前」が「ありがとう」に変わる機会となった。
- 時間による生産性ばかり問われるが、自分だけのキャリアでなく仕事の中にも余白がないと生まれるものも生まれない。その余白を作るツールがワーケーションなのかもしれない。
- 自社だけでなく、取引先などの関連企業のワーケーション・リモートワーク事情が可視化され共有されることで、ワーケーションはより広がりやすくなると思う。
登壇者と参加者による意見交換が盛り上がったところで、イベントは終了した。
* * *
なお、当日は「『パソナJOB HUB』『ANAセールス』『KabuK Style』が連携 『HafH』を活用した“旅するようにはたらく”ツアーを共同開発」のプレスリリースがあった。詳細はこちらを参照してほしい。
今回、本イベントに参加して、筆者は現代が自分で自分の働く場所、すなわち自分の生き方を選択できる時代であることを強く感じた。世界とも簡単に繋がれる現代において日本人も、国境を超えたワーケーションワーカーが世界に溢れ、異文化交流が日常化する今後が楽しみである。この機会にあなたも一度、ワーケーションを体感してみてはいかがだろうか。
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