オランダから学んだ幸せになる働き方の核は「信頼関係」だった ―昭和女子大学ダイバーシティ推進機構イベントレポート
7月3日(水)、昭和女子大学 学園本部館3階大会議室で開催された、昭和女子大学ダイバーシティ推進機構イベント「海外働き方事情シリーズ第2弾 男性には任せておけない働き方改革 ハードワークからソフトワークの時代へ ~『世界一子どもが幸せな国』オランダから学ぶ幸せになる働き方~」に参加した。
30年前までは男性が働き、女性が家庭を守る社会だったオランダは、経済の低迷とともに将来への不安が社会全体に広がっていた。ここ最近「オランダモデル」としてその働き方が注目されているオランダでは、この30年にどのような取り組みをしてきたのか。
講師を務めたのは、公益財団法人1more baby応援団 専務理事の秋山 開さん。外資系企業に勤めていた際、上司が年配日本人男性から30代帰国子女女性に変わったことがきっかけで、それまで当たり前だと思っていた深夜0時過ぎの帰宅が徐々に20時頃に。いま思えば、あれは「働き方改革だった」のだと振り返る。現在は、日本の社会課題である少子化問題について子育て環境や働き方等の観点から調査し、啓蒙・執筆・セミナー開催などの活動を積極的に行っている。
オランダの働き方改革の流れ
はじめに、オランダの働き方改革の歴史・きっかけを振りかえりたい。資源エネルギーブームの終焉を迎えたオランダは、1970年代~1980年代初頭にかけて賃金の高止まりとともに高い失業率・インフレ率の急騰が起こった。そこで1982年、ワッセナー合意が制定され、1人あたりの労働時間を少なくすることにより労働人口を増やすなど、オランダ社会の労働力と収入の考え方が変わっていった。
そして1996年、労働時間差別禁止法が制定された。これによりフルタイムもパートタイムも賃金や福利厚生が同条件となり、労働時間だけが異なる「同一労働同一条件」で働けるようになった。2000年には労働時間調整法が制定され、自分のライフスタイルにより、子育て期や介護期は労働時間をフルタイムから労働時間の短いパートタイムに変えるなど、個人がフレキシブルに労働時間を変更できるようになった。実際この働き方改革により、女性の就労率は30年前に30%だったのが、ここ最近では70%になってきている。
一方で、オランダには「女性が子育て後にパートタイムからフルタイムに戻る割合は少ない」という課題がある。だが、自分にとっていまベストな働き方がパートタイムであるならば、「好んで」選択できる権利があり、何も問題はないそうだ。
企業の働き方改革への取り組み
オランダ政府の取り組みとしては上記のような法律整備が挙げられる。では、企業はどのような取り組みをしてきたのか。特徴的なものを5つ挙げる。
①働く時間や日数、場所を柔軟に変えられる
ライフステージに合わせて全社員が理由に関わらず変えることができ、もし社員が働けずに退職するとなった場合は会社の損失と捉えられるとのこと。当然のように子育て期に男性も女性も産休を取るので、孤立している人はいないそうだ。
②企業には法律以上の細かな就業規則が少ない
法律ですでに規則がしっかり定められているため、就業規則のような規定・規約はかなり少ない。人生のステージにより、個人の状況はさまざまに変わるものだ。ガチガチに定められた就業規則では、おのおのの状況に合わせられなくなる。細かなルールは信頼関係のもと、上司と部下で話し合って決められ、そこに人事は介入しないそうだ。
③アウトプット重視の評価制度
労働時間よりアウトプットが重視される。アウトプットの管理も上司と部下で綿密に話し合って進めていく。目標を明確に設定するため、目標を達成できなければ「そもそものゴール設定が間違っていた」という考え方なのだとか。
④テレワークは管理しない
アウトプットが適切ならば労働時間は問わず、タイムログも取らなければ、Webカメラも使用しない。むしろ働きすぎを心配するそうだ。多くは通勤時間が長い人がテレワークを利用しており、全ての社員が自分にとって一番良い働き方を選択できるという社員間の共通認識があるため、社員同士の軋轢はないとのこと。
⑤チーム主義
仕事はチームで行うもので、ゴールに到達できなければチーム全体の責任である。プライベートの情報も積極的に共有しており、例えば「来年はW杯を観に行きたいから1週間休暇を取る」なんてことも問題ないそうだ。人が人としての権利を尊重されているといったところだろうか。
まずは自分たちで。信頼関係と助け合いが核
子どもの教育に関しても、オランダは特徴的だ。秋山さんらが実施したオランダの子育て方針に関する調査結果によると、親が子どもに望むことは「芸術の良さをわかるようになって欲しい」ことが7割を占めるそうだ。オランダ社会がこのような意識を持っていることの背景には、子どもの頃からの「イエナプラン教育」もあるのだろうと、秋山さんはいう。
小学校におけるイエナプラン教育の特徴
小学校では学校から与えられる目標と自分の目標とがあり、1週間のカリキュラムは自分で決めるのだという。月曜日に立てた目標を達成できたか、金曜日に自己評価をする。小学校1年生は上級生がメンターに付き、話し合いながら自分の目標を達成できるように進めて行くそうだ。
また、授業でわからないことがあっても、すぐ先生に聞くのではなく、まずは友達3人に聞いて、友達同士で解決するようにしている。自分が集中できる環境ならばバランスボールに座ったり、廊下で授業を受けたりすることも可能だという。
このような働き方や教育が成り立つ核の部分にあるのは「信頼関係」と「助け合い」だ。ソフトワーカーが増えたことで働き方が変わり、自分も家族も大切にするようになったことで、その一瞬一瞬も大切にするようになった。これが、仕事面での生産性アップにも繋がっていった、と秋山さんはいう。
自分で自分の働き方を選択できることが、すべての生産性に繋がっていくとしたら、日本の規則は細かすぎるのではないか。まずは上司と部下の信頼関係のあり方を見直すことから取り組んでいけるのではないかと、秋山さんは講演を締めくくった。
グループワークから参加者の質問タイムへ
秋山さんの講演後グループワークを行い、各グループで秋山さんに聞きたいことをリストアップし、グループごとの質問タイムとなった。
Q:日本の企業は教育とリンクしていないように感じる。
オランダでは企業と教育が共に取り組んでいることはあるか
小学生から転入や留年があるなど、制度自体が大きく違う。この部分の学力をもう少し伸ばすために、1年留年した方がこの子にとって良いというように、1人1人の成長に合わせて学習方法も決めて行く。個々の成長に合わせて教育していき、もちろんインターンなども行っていくため、大学生になり社会人になる頃にはその道のプロになっているケースが多いそうだ。
Q:従来の考え方の日本企業において、
働き方改革の第一歩として出来ることはあるか
経営陣や管理職が考え方を切り替えてくれることがベストだが、今の働き方に危機感を持ってもらうように動いてみると良いとのこと。また、メールを共有して会議の時間を少なくするとか、壁に全プロジェクトの進捗状況を貼っておき、誰もが常に状況を共有できるようにしておく、などのアドバイスもあった。
Q:学校の目標と自分の目標を決めるところで、
小学生はどのように目標を決めているのか
子ども本人の目標なのでスポーツでも学力でも良く、子ども本人と親と先生の3人で一緒に決めていく。月曜日にその週の目標をみんなの前で発表するが、この時間はいつでも親が参観できるそうだ。
Q:残業はないのか
月末や期末などの忙しい時期は残業をすることもあるが、個々の目標達成への意識が高いため、多くの社員がチームや会社のために残業もいとわないという。その代わり、残業した週の翌週は労働時間を減らすか、残業した分の賃金をもらうかを自分で選択できる。それが仕事に対する個々の意識の高さにも繋がっているのだろう。
視点は常に「自分」であるため、人を羨んだり妬んだりすることもなく、社員間の軋轢もないそう。きっと「平等」の概念自体がそもそも違うのだろう。日本の「平等」は同じ規定の中で一律に働くことだとすると、オランダの「平等」は自分にとって良い働き方を自由に選択・実現できることなのかもしれない。
* * *
オランダの働き方の事例は、日本では一見再現性がないように感じるが、冷静になって考えてみると、会議の回数や時間を少しでも減らせないか見直したり、自分のことを少しでも開示してチームワーク主義を取り入れてみたりなど、自分1人からできる働き方改革もあるように思う。あなたの働き方はいかがですか。
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