幸福度ランキング上位のデンマーク。その根底にあるのは「遊び心」と「環境知性」― 昭和女子大学ダイバーシティ推進機構セミナー

2020年2月12日(水)
望月 香里(もちづき・かおり)

12月20日(金)、昭和女子大学にて、昭和女子大学キャリアカレッジ(ダイバーシティ推進機構)主催の海外働き方事情シリーズ第3弾となるデンマーク編が開催された。テーマは「『幸福な人生、幸福な社会、幸福な世界のために働く』~ヒュッゲでは分からないデンマーク人が幸福である秘密と楽しみながら働くことが出来る理由とは?~」。

講師を務めたのは、デンマーク大使館 投資部 部門長 中島健祐氏だ。社会保障制度や幸福度だけではない、デンマークの「いま」を解説した。

デンマーク大使館 投資部 部門長 中島健祐氏

デンマークはどんな国?

デンマークは、人口およそ560万人、面積は43,000km²(九州地方と同じ位)の小国。だが幸福度ランキングでは常に上位にランクインし、日本とは反対に食料とエネルギーにおいて自立している。

デンマークの概要

デンマークと聞けば、シンプルなデニッシュデザインやレストランNOMAが頭に浮かぶ人も多いのではないか。また、オランダと並ぶ自転車大国でもあり、首都コペンハーゲンの4割の人々が通勤通学で自転車を使っている。日本の三菱重工とデンマークのMHIヴェスタス社と共同で作られた洋上風力もデンマークを象徴するものの1つだ。

ロイヤルコペンハーゲンやアンデルセンのイメージも根強くある一方、テクノロジーや技術など、様々な面で日本との繋がりも深い。2年前には日本・デンマーク外国関係樹立150周年を迎えたことも記憶に新しいだろう。

下図のグラフを見てほしい。黒のラインは経済成長、赤のラインはエネルギー消費を示している。経済は成長しているがエネルギー消費量は一定で、二酸化炭素の排出量も減らしていることが見てとれる。そして、デンマーク政府は2050年までに石油・ガス・石炭を一切使わない脱化石燃料の国家・社会を作ることを宣言している。「その目標を達成するために、IoTを含めた最先端技術を使い、スマートグリッドを取り入れたスマートシティ国家を創っている」と中島氏は紹介した。

デンマークは高い経済成長を遂げながらもエネルギー消費や二酸化炭素排出量を大きく削減

幸福な社会、人生のために

デンマークの仕事には「仕事」「私事」「志事」の3つがあり、デンマーク人はしなくてはならない仕事も生き生きと行い、幸福と感じているという。その理由として、中島氏は「日本は仕事とプライベートが分断されている傾向があるが、デンマーク人は仕事とプライベートを一体化しているケースが多いからだ」と示唆する。

では、どのような社会ならば幸福なのか。中島氏によると、宇沢弘文氏の著書『社会的共通資本』の中で謳っている「デンマーク流の幸福な社会」と同義であるという。

デンマークにおける幸福な社会の定義(宇沢弘文著『社会的共通資本』より)

自然環境ありきの経済成長

では、デンマークではどのように価値を作ってきたのか。小国ながらも国際社会でイニシアチブを取り、自然環境を保全しながらも幸福度の高い国家を創りあげているデンマークは、国家目標として「Green Growth・持続的成長」を掲げている。

元来、日本人も同様の考え方や発想を持ち合わせていたが、第二次世界対戦以降の経済成長の中で、その理念や概念は掻き消され、産業一本槍になってしまったことが、いまの日本と北欧の差異であると言える。デンマークの知恵は経済成長も重視するが、社会全体において一番重要な哲学や理念を保持しながら成長してきたところにあるとか。

デンマークの国家目標と価値創造

マイナスの価値をプラスの価値に

ここで、豊かな社会を作るための事例として、中島氏は廃棄物発電所の構想図を紹介した。この施設では廃棄物から電力を作り、約6万世帯に送られ、16万世帯に熱供給される。一番のねらいは「2025年に世界初のカーボンニュートラルな首都を作る」を実現させることだ。

豊かな社会を作るために構想された「廃棄物発電+都心リゾート」

また、廃棄物発電所の屋外は人工スキー場になっており、夏には併設のトレッキングコースが楽しめるほか、ラウンジや建物内は高級リゾートマンションか美術館のような設計になっている。

廃棄物発電所の屋外には人工スキー場とトレッキングコースが併設されている

廃棄物処理というマイナスの価値に新しい価値を加えた「廃棄物発電+都心リゾート施設」。発電する際に煙突から排出される煙は輪となっており、プロジェクションマッピングにより瞬時の二酸化炭素排出量を色の装飾で示しているという。このような構想の狙いは、市民も含めたすべての人に「気づき」を与えることだ。

自分の生活を見直すためには、気づきを与えないと忘れがちになる。このような遊び心のある仕掛けにより、休日に子どもに「あれは何?」と聞かれた大人は、その仕組みを知っておく必要があり、大人自身が生活を振り返るような1つの教育効果にもなっているそうだ。

【参考】廃棄物発電+都心リゾート施設紹介サイト
https://big.dk/#projects-arc

人が環境やエネルギーについて考え、行動に繋がるような仕掛けが要所要所に組み込まれており、社会を良くするために、遊び心を合わせ持ちながら「少ない労力でたくさんの価値を創る」のがデンマーク流であり、リソースもお金も少ない小国の知恵であると言える。「これは日本でも実現可能な1つの事例だ」と中島氏は力説する。

さらに、2021年には廃棄物発電所の横に隈 研吾氏デザインのデンマーク・ウォーターカルチャーセンターが完成する予定だとか。なんとも、ワクワクしてくる話だ。

【参考】デンマーク・ウォーターカルチャーセンター
https://kkaa.co.jp/works/architecture/waterfront-culture-center/

幸福な世界は環境知性の上に成り立つ

デンマークは2019年のSDGs達成度ランキング(欧州)で1位となったが、17の目標のうち完璧に達成したのは「貧困・不平等をなくす」「平和と公正」だ。一方、日本は15位で、達成したのは「教育・産業&技術革新」だ。産業革新は小国で資源がない国が生き残る1つのアプローチではあるが、日本の豊かな自然を守りながら1人1人の幸福度を上げ、世界中から尊敬される国を創るというデンマークが築き上げてきたフレームワークを活かすことはできる。ここで重要になってくるのは「リーダーシップ、人間教育、環境知性」である。

欧州における2019年のSDGs達成度ランキングでデンマークは1位に

デンマークは、どの国も右肩上がりで経済もエネルギー消費も伸びていた1980年代、政治家や市民などが話し合い、エネルギー消費を削減していく「AE83」を作成した。1985年には原子力発電に依存しない公共エネルギー計画を議決。さらに1990年の「EP90」では脱大量生産・大量消費、右肩成長を見直し、ついに2011年には「2050年に化石燃料を使わないエネルギー社会を目指す」政策を行ってきた。子孫も含めた地球全体の本当の価値を実現するために、他の国に流されず、エネルギー削減の道を選択した。デンマークには、そんな環境知性を持ち合わせていることが見てとれる。

デンマークが行ってきたエネルギー政策(1973~)

人生の価値は達成・存在価値のバランス

また、人生の価値の考え方においても、達成価値(自然を制御していく考え方)と存在価値(自然と調和し豊かに生きていく考え方)があり、「重要なのはバランスが取れていること」と中島氏は語った。

デンマークは達成価値と存在価値とのバランスがとれている

デンマークがこのような社会システムを確立できたのは、100年以上にわたって試行錯誤してきた結果だ。童話「アンデルセン」は、社会に対する気づきを与えるために創られた、という一説もあるとか。

デンマーク流「幸せに生きるヒント」

では、なぜデンマークは幸福なのか。そのポイントは「明確な目標に向かって進むプロセス」など、自分の内面に関係することにあるようだ。一方で日本の幸せの傾向は、モノ・カネの豊かさや他人と比較した優越感にあると言える。

デンマーク人が考える「幸福」の基準

具体的にデンマーク人の考える幸せには「シンプルに暮らす」「自然と共に生きる」「日々自分を見つめ直す」の3つがあるという。1つずつ見ていこう。

・シンプルに暮らす

デンマークの消費税は25%もあり、なかなか物を買えない。よって、厳選した商品を長く大切に使うことでシンプルな暮らしになる。また、リビングルームの真ん中には暖炉を置くなど、人々が集まり会話しながら価値を生み出す空間を創り出している。スマートフォンやテレビなどの「五感から入るノイズを減らす」ようにしている。「特に東京は情報の洪水。せめて家にいる間は色々な情報ノイズを減らすことで自分の感度を高めると、幸せのヒントが見えるかもしれない」と中島氏はアドバイスした。

ヒント1:シンプルに暮らし、五感から入るを減らすこと

・自然と共に生きる

デンマークは「森の幼稚園」の発祥の地であり、子どもは外気温が-20度でも森の中で遊んでいるという。幼少時から自然と触れ合う機会をたくさん与えられ、休みの日には大人も無理に計画を立てず、自然の中で親しい人たちと過ごしている。小洒落たサマーハウスもリーズナブルな価格で手に入るため、夏の間はスマートフォン等の電子機器から離れ自然の中で過ごすことも多いそうだ。

・自分を見つめ直す

日々の生活に追われてはいるが、自分の人生の意味やその先に何があるか、よく考えているとのこと。他人のことはあまり気にせず、自分の目の前のことだけにエネルギーを注ぐため非常にストレスが少ないそうだ。高齢者も含め、多くの人が保守的にならず、新しいことに挑戦しているという。

幸福に生きるためのキーワードは「自分以外のマイナスのエネルギーにコントロールされず、自分が人生の本当の主人公になること」。中島氏は「仕事を早く切り上げて家庭や仲間と過ごす時間を多く取り、ワークライフバランスの観点からもストレスフリーだ」とまとめた。

参加者はみな真剣に中島氏の解説に聞き入っていた

ミニワークショップ:
幸福な社会・人生をどのように作るか

ここからは、デンマークから考える“私のしごと”ワークシートを元に、最近気になることやデンマークの話から得た気づきなどを共有しながら、中島氏がより深く解説した。

ミニワークショップで活用したワークシート。幸せをつかむパスポートだ

  • デンマークの企業はニッチな業界で世界シェアを取っている。中小企業であれ30~40年先の市場を見据え、絶えず研究開発に相当な投資を回してブルーオーシャンを開拓している。大手企業から声が掛かった場合は権利を譲渡し、さらなるブルーオーシャンを開拓していくという。
  • 極力仕事は早めに切り上げ、新たなスキルを習得するために大学へ通う人もたくさんいる。生産性も高く、仕事中のランチは15分ほどで手軽に食べられるサンドイッチなどで済ませ、仕事は高速で回して16時頃までに終わらせて帰宅するようなイメージだ。デンマークの生産性の高さは、人口が少ないこともあり、これまで4時間掛かっていた仕事を3時間で終わらせるなど、発想の転換をしていかないと他国に対抗する価値を作っていけない点もある。
  • 教育は「合意を通じて最適な答えを最短で効率よくダイバーシティを持って導くこと」に力を入れている。現代社会で起きていることの情報は30年後にはほとんど使い物にならないため、知識として知っておく程度でよく、今後、複雑化する社会において、どのように効率よく公平に、答えのない答えのバランスを取っていくか。そのプロセスを考える能力の方が大切になってくるので、幼少期からしっかり教えているとのこと。
  • ミニワークショップでは参加者と交わってより深く解説した

    なお、もっとデンマーク人の詳細な生き方や考え方を知りたい方は、中島氏と島崎 信氏共著の「デンマーク×日本式 未来に通用する生き方」(クロスメディア・パブリッシング刊)を読んでほしい。

    * * *

    幸福度ランキングで常に上位のデンマーク。その根幹にはアンデルセンの「環境知性」と遊び心があると言えるだろう。大ブームとなっている「アナと雪の女王」はアンデルセンを参考に作られているというのは有名な話だとか。今回紹介した3つの「幸せに生きる知恵」を生活に取り入れ、私たち1人1人の幸福度を一緒に上げていきませんか。

著者
望月 香里(もちづき・かおり)
元保育士。現ベビーシッターとライターのフリーランス。ものごとの始まり・きっかけを聞くのが好き。今は、当たり前のようで当たり前でない日常、暮らしに興味がある。
ブログ:https://note.com/zucchini_232

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