EdgeX Foundryのコミュニティメンバーが語る「ロックインしないエコシステム」という方向性
IoTデバイスのプラットフォームとして開発が進められているEdgeX Foundryのコミュニティが、2020年5月12日に都内でハンズオンセミナーを開催した。通常であれば集合形式のハンズオンとして開催される予定だったものが、新型コロナウィルスの影響でオンラインセミナーに変更されたものだ。
Dell EMCのJonas Werner氏による最新情報のアップデート、コミュニティメンバーでシステムインテグレーターに勤務するエンジニアと同時にブロガーでもある田中佑樹氏(Twitterやブログでは@kurokoboがハンドル名)が講師として登壇した。その後、Werner氏、田中氏にインタビューを行い、EdgeX Foundryの方向性について意見を訊くことができた。
着実に進歩しているEdgeXの現況を紹介
ハンズオンはZoomを使ったリモート会議の形式で行われた。最初のパートはDell EMCのJonas Werner氏のプレゼンテーションで、EdgeX Foundryの最新リリースに関するアップデートが行われた。
これまで2017年10月の最初のリリースBarcelonaからFujiまで計6回のリリースが行われており、2020年5月にはGenevaがリリースされる予定だ。アルファベットのBから始まって順に進んでいくリリースネームは、OpenStackなどでも使われている手法で、リリースの前後関係が即座に分かる利点がある。
Genevaにおける変更点は、デバイスの自動的なプロビジョニング、リアルタイムのデータ送信に加えてバッチ的にストアしてからの送信、これまでのMongoDBに変えてデータストアをRedisに変更、ルールエンジンをGoで記述されたKuiperに変更などが挙げられている。ルールエンジンやデータストアが変更されることからもわかるように、EdgeX Foundry自体を進化させるために根本的な変更を厭わない姿勢が見て取れる。
Genevaの次に来るHanoiリリースは「マイナーリリースになる」としながらも、データストアを必要としない構成が可能になること、他のホスト配下で実行されるEdgeX Foundryとの通信が可能になるなど、着実に進化する予定であることがわかる。またHanoiはよりマイクロサービスを意識した機能強化が行われる予定だという。
こちらのスライドは、EdgeX Foundryのプロジェクトとしての現状を紹介したものだ。3年で6つのリリース、180名を超えるコントリビューター、30万台の実装などユースケースが拡がっていることを強調した。
また新しい試みとしてEdgeX Foundry Chinaというプロジェクトが立ち上がっていることを紹介。これは中国市場に特化してEdgeX Foundryを推進するというプロジェクトだが、2019年末から2020年の第1四半期にかけて参加者が490名から685名に増えたとして、活発に活動が行われていることを紹介した。同様にインド市場においても、Wiproが自社製のフレームワークからEdgeX Foundryに乗り換えたことを説明し、多くのサポーターがEdgeX Foundryを使い始めていることを強調した。
オンラインでのハンズオン
ここまででWerner氏のEdgeX Foundryのリリースやプロジェクトに関するアップデートは終わり、残りの約1時間はハンズオンとしてEdgeX Foundryの概要、データ送信の仕組みなどをZoomを利用して実行する時間となった。
ハンズオンの講師である田中氏は、業務としてはシステムインテグレーターに勤務するエンジニアだが、今回はあくまでプライベートな立場で登壇している。田中氏が自身のブログに公開しているハンズオンは以下のリンクから参照できる。
参考
EdgeX Foundry Fujiリリースに対応したハンズオン
実際に仮想マシンの上でサーバーを起動しながら解説を行う田中氏だったが、適時、画面上にマーカーを使ってポイントを強調するやりかたは非常にわかりやすい内容となった。
Werner氏、田中氏へのインタビュー
続いて、別途行われたインタビューを紹介しよう。これはこのMeetupの講師となったJonas Werner氏と田中氏にZoomを使って行われたもので、筆者の興味のポイントである他のエコシステムやツールとの連携、ルールエンジンの方向性などについて率直な意見が聞けた機会となった。
事前にマイクロサービスとしてのEdgeX Foundryのユースケースにおいて、死活管理などはどうやっているのか?という質問をお送りしました。それについて教えて下さい。
田中:技術的には、サービスやデバイスへのヘルスチェックは内部で行われていて、その結果もAPIやGUIを通じて確認は可能です。ですが、現段階ではセルフヒーリングなども充分ではなく、HA構成のサポートもこれからです。簡単な通知の仕組みは持っていますが、それも少なからず作りこみは必要で、いわゆる高可用性の実現にはまだまだ課題があるのが現実です。
とはいえ、EdgeX Foundryは、あらゆる機能をもった重厚なIoTデバイスの統合管理プラットフォームを目指しているわけではありません。小さいフットプリントでデバイスの相互運用性とデータのストリーミングに特化しようとしている印象が個人的にはありますので、そもそもいろいろなツールを併用して相互に補完していく姿勢なのかなと思っています。
Werner:EdgeX Foundryは閉じたエコシステムを目指しているのではなくて、商用ベンダーのソリューションなどとも連携していくことで全体的なソリューションになると思います。日本の製造業などではIoTを複数のレイヤーに分けてシステムを構築しようとしています。その中でEdgeX Foundryが受け持つ部分は、センサーに近い一番端の部分なのです。その上位のシステムにはさまざまなシステムもプロトコルもありますし、そういうソリューションと棲み分けをしていくのが方向性だと思います。
エッジで処理を行うという意味では今、人工知能の推論の部分をクラウド側でやらずにエッジ側でやりたいというニーズがありますよね。機械学習のモデルを作るところはクラウド側でGPUをフルに使って行って、推論は処理が速いFPGAでやるみたいな流れですね。EdgeX Foundryもゆくゆくはそうなるんでしょうか?
田中:まだこれからというところだと思います。クラスターの対応もこれからですから。
Werner:Dellでは「マイクロデータセンター」という発想の製品が出てきています。なるべくエッジに近いところで処理を行うためのプラットフォームですね。
EdgeX Foundryが持っているルールエンジンではルールという形でロジックを書けるわけですが、アプリケーションとルールにビジネスロジックが分かれてしまった場合にInfra as CodeというかGitOpsみたいな形でコードをどうやって管理するのか?という疑問があります。つまりビジネスロジックとしてはアプリケーションのコードで記述してそれをGitで管理するような場合に、一部がルールエンジンの設定として分離されてしまうのではないか?ということです。
田中:それも使い分けかなと思っています。ルールエンジンが使われる状況というのは、センサーからデータが上がってきてそれをクラウド側で判断してなにか処理を行うというのでは遅いというような場合に、まずエッジで処理を行うという使い方なんだと思いますね。
EdgeX Foundryは、疎結合なマイクロサービスアーキテクチャーなので、ユーザー側でコンポーネント単位で置き換えることも想定されています。このため、EdgeX Foundryに閉じた世界でたくさんのビジネスロジックを作りこんで単体で運用していくというよりは、データフローの一部に他のツールや基盤をどんどん組み込んで処理させるモデルが理想だと思っています。
この「閉じていない」という意味でわかりやすい例に、ログの機能があります。ログの機能はもともとEdgeX Foundryには入っていたのですが、新しいリリースからはDocker標準のログの機能を使うように機能が落とされてしまっているということにも現れています。また今回、ルールエンジンがKuiperに置き換わるというのも、すべてをEdgeX Foundryで実装するのではなく、専門的にやっているモジュールがあるならそれに任せるという考え方なんだと思います。
現状の日本におけるEdgeX Foundryは、まだまだ基本的なことを知ってもらうための啓蒙活動の段階で、リアルなユースケースはこれからというのが田中氏、Werner氏の共通認識だ。実際にエンタープライズ企業が活用を検討するためには、ベンダーからのサポートやサービスの充実、ユースケースの公開、PoCなど多くのハードルがある。
実際にDell EMCで働くWerner氏は「EdgeX Foundryの活動をしていても私自身の評価にはならないんですけど、楽しいからやっています」と語る。また所属するシステムインテグレーターの業務とは別に、趣味としておもしろいから活動していると語る田中氏も、あくまでもボランティアの立ち位置だ。コミュニティメンバーがボランティアとして活動する段階からビジネスとしてお金が動く段階になることが、EdgeX Foundry自体が持続し、成長するためには必要だろう。今後もEdgeX Foundryに注目していきたい。
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