Cloud Foundry FoundationのCTOが語る「Cloud Foundryの強さは数よりも品質」
オープンソースのPaaS(Platform as a Service)の最大手であるCloud Foundryのイベント、「Cloud Foundry Days Tokyo 2016」が2016年11月11日に横浜で開催された。PaaSとして国内では富士通やNTTコム、ヤフージャパン、楽天などでも導入が進んでいるCloud Foundryだが、開発の主体であるPivotalや周辺のサービスを提供するanynines、最近Googleに買収されたApigeeなどからもスピーカーが登壇し、自社導入の状況やコンセプト、連携するサービスなどについて、デモとプレゼンテーションが行われた。
イベントに先立って、今回の登壇者であるCloud Foundry FoundationのCTO、Chip Childers氏と、Cloud Foundry対応のデータサービスを提供するanyninesのCEO、Julian Fischer氏にインタビューを行ったので、その内容を紹介する。
Cloud Foundry特化のコンサルティングを手がけるanynines
まずドイツで創業されCloud Foundryのコンサルティングを提供するanynines(エニーナイン)のCEO、Julian Fischer氏に話を伺った。anyninesは、AverteqというRubyを専門とするソフトウェア開発会社のブランドの一つとして、Cloud Foundryに特化したコンサルティングとパブリッククラウドサービスを提供しているという。
Fischer氏は「元々はRubyを使ったソフトウェア開発を行っていました。同時に独自のPaaSのサービスも提供していたのですが、ヨーロッパでのCloud Foundryの利用が拡大してきたことに気がついて、Cloud Foundryに特化したコンサルティングサービスを提供することにピボットしたのです」と語る。「最初は自前でChefを使ってデータストア、例えばPostgreSQLやRedisをインストールする仕組みを作っていたのですが、Cloud Foundryが出てきたため、それを捨ててCloud Foundryに移行するということにしたのです。もともとAverteqがRuby on Railsの会社でしたし、Cloud FoundryがRubyで書かれていたということで、ナチュラルに移行できました」。
anyninesのサービスの強みとして、アプリケーションが利用するデータを簡単に利用でき、スケーラブル、かつ信頼性が高いことを挙げた。ドイツでは多くのCloud Foundryユーザーが利用しており、日本語でのサポートやドキュメンテーションもニーズに応じて対応するという。
今回の来日の目的を訊いたところ、「これまで私自身が得たRubyのコミュニティの経験から、物事は必ずしも計画通りに行くことばかりではないこと、コミュニティではまずGive、Shareすることが重要ということを学びました。何が返ってくるのかは分かりませんが、当面はanyninesが持っているノウハウをCloud Foundryのコミュニティに提供していく予定です」と語った。実際のセミナーの内容も、データストアに関する知見をプレゼンテーションするものであった。バイクでのツーリングを趣味とするFischer氏は、日本を初めて訪れたということで、日本でもツーリング仲間を求めているとのこと。興味があるエンジニアは、GitHubでコンタクトしてみるのも良いかもしれない。
新CTOが語るCloud Foundry
次に話を聞いたのは、Cloud Foundry FoundationのChip Childers氏だ。2016年11月17日のニュースで、これまでCloud Foundry FoundationのCEOを勤めてきたSam Ramji氏がGoogleに移り、Google Cloudに関わると報じられたが、同じニュースの中でCTO就任を報じられたのがChilders氏だ。17日のニュースでは正式にCTOとアナウンスされたが、仕事自体は以前と変わらずCloud Foundryのテクノロジーサイドをリードするという役割だ。パートナーだけではなく、パートナーの先にいるエンドユーザーとも頻繁に会って意見交換を行うという。
「まずCloud Foundryが他のオープンソースと異なっている部分は、コアの部分の開発をPivotal、IBM、EMC、SAPなどから派遣されたプログラマーが専任で行っているということでしょうね。サンフランシスコにあるPivotal Labsに行かれたのならご存知かもしれませんが、4階のフロアーではそれらの企業のプログラマー全員がペアプログラミングを集中して行っています。もちろん、ここ一カ所だけで行っているわけではなく北米、ヨーロッパでそれぞれ分散して、日々開発が進められてします」とCloud Foundryの開発スタイルについて解説した。「実際にコアな部分の開発に関わっているエンジニアは200名程度です。もちろん、Cloud Foundryのコントリビュータはそれこそ何百、何千といます。それはとても良いことですが、コアの開発は非常に少数の専任の人間が携わっています」と、組織としての開発体制がボランティアベースのオープンソースソフトウェアとは違うことを強調し、エンタープライズ向けの機能や信頼性を実現していることを訴えた。
「これまで日本では富士通やNTTコムのような企業がCloud Foundryをパブリックなサービスとして提供していますが、他にも同様なベンダーに拡げようという計画はありますか?」という質問には「これまで多くのベンダーにCloud Foundryを利用したサービスを提供してもらっています。富士通のK5、NTTコムのCloundn(クラウド・エヌ)、IBMのSoftLayerなどはサービスという形態で、PivotalやHPEはソフトウェアを提供するという形態でそれぞれCloud Foundryを利用しています。もちろん、コミュニティ版のCloud Foundryをそのまま使う米国政府のようなユーザーもいます。我々にとってはベンダーの数が多いかどうかという問題よりも、それぞれが開発者に提供する環境が均一であるかどうか、同じような品質かどうか、ユーザーエクスペリエンスが保たれるか、という部分により注力しています。そのために、Cloud Foundryのサーティフィケーションが重要になります。Cloud Foundryはパブリッククラウドでも動きますし、接続するためのAPI(Cloud Provider Plugin)も用意しています。」と答えた。
「Agileな開発方法やDevOpsを実現するためには、テクノロジーだけではなく組織としての変革が必要だと思います。Cloud Foundryとして、その部分を加速するヒントはありませんか?」と質問を向けたところ、以下のような答えが得られた。
「確かにデジタルトランスフォーメーションを実現するためには、テクノロジーだけではなく組織も同時に変革する必要があります。そのためのひとつのアイデアが『小さく始める』ことです。例えばアメリカの保険会社のオールステートは、社内の開発チームとは全く別の「CompoZed Labs」という組織をアイルランドに立ち上げました。ここでは、Pivotal Labsと全く同じスタイルで開発が行われています。これは『今ある組織を変える』のではなく、新しく小さなチームで始めるというやり方の例になります。これがうまく行き始めると、企業のエグゼクティブはソフトウェア開発が速くなるという効果を実感して、さらに推進していきます。また現場のプログラマーも実感としてペアプログラミングの良さを理解していきます。その際、一番の問題は中間管理職なのです。でもマネージメントという仕事はなくなりません。ただその性質が替わるだけなのです。ですから、中間管理職は『仕事がなくなる』という心配するのではなく、『そのチームの人事面の管理を行う人』になるか『そのチームが開発するソフトウェアのオーナー』になるかを選択する時がきたと言えるでしょう」
Childers氏はこのように語り、Cloud Foundryというテクノロジーだけではなく、組織面でもAgile開発とDevOpsのベースになる知識と経験が蓄積されている部分に自信を深めているようだった。そのことがよく見て取れるインタビューであった。
イベントそのもののレポートは、続編を参照されたい。
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