「仕事を愛せず人生は愛せない」ー四角大輔氏『超ミニマル主義』出版記念「超時短仕事術とサステナブルな働き方」イベントレポートー
何かを得るためには、手放すが先
実績ができ、地位や名声が付いてくると仕事はどんどんしやすくなった。だが、学生時代からの夢である、ニュージーランドへの移住を実現させるため、永住権を得た39歳のとき、レコード会社の仕事と慣れた暮らしの「安定」を全部手放した。
収入は10分の1になったが、自分のミニマム・ライフコスト(自分や家族が健康的に生きるために必要な最低限の生活コスト)をずっと把握していたので恐れはなかった。最悪、収入がゼロになっても、訓練してきた自給自足の暮らしを実践すればいい。衣食住さえ確保しておけば仕事がなくても大丈夫なのだから。代わりに得たものは圧倒的な自由時間。なによりも、本来の自分を取り戻せたことがもっとも大きかった。
「『本来無一物(人は何も持たずに裸で生まれ、最後何も持たずに土に還る)』という禅の言葉がある。学生時代の僕はお金も地位も何もなかった。レコード会社の実績や名声は、僕の中ではもともとなかったもの。だから、自分の所有物という感覚はなかった。今抱えている荷物が重すぎる、または違和感を感じるなら躊躇なく手放すこと。そのあと必ず大きなものが返ってくる。この法則は絶対。目の前にビッグチャンスが来ても、両手と両肩に荷物を抱えていたら、決して手にできない。まず手放し、身軽になってほしい。手放したものが大きければ大きいほど、後から大きなものが入ってくる」と、四角氏は自身の経験を踏まえて断言する。
ニュージーランド移住後は、幼少期からやっていたアウトドアが仕事になり、その道のプロとなった。アウトドア雑誌の表紙に幾度も登場し、釣りや登山雑誌で連載を持ち、自著『バックパッキング登山入門』『バックパッキング登山紀行』を刊行。そしてこの10年間で、60カ国以上を旅しながらノマドライフを送った。旅関係の本3冊と、ロングセラーの『人生やらなくていいリスト』を出版。まさに「好き」が仕事になった典型な成功例だ。アドバイザー、会社役員、プロデュース、商品開発など、場所の縛りを受けない仕事をしてきた。だが、2018年、超多忙だったレコード会社時代の年収を超えたこと、自己矛盾(心理学用語で認知的不協和)を感じていたことが重なり、2度目のフルリセットを決意。「天職でもあるプロデュースを手放すことは、自分のアイデンティティを手放す程の覚悟だった」と四角氏は振り返る。
年に10カ国以上、地球を何周もしながらマルチキャリア的に働く生活は刺激的だが、移動生活は膨大な温室効果ガスを出し、環境に負荷を与える。自分が本来こうしたいと思っていることができていなかったり、信念と違うことをしてしまうなど、長期的な「認知的不協和」は脳にダメージを与え、メンタルもむしばむことが、科学的にも証明されてきたという。
世界を旅する暮らしと、9割の仕事を手放し、本書の執筆、会員制コミュニティ〈LifestyleDesign.Camp〉の運営、環境活動に集中。収入を大幅に減らした代わりに、畑を3倍にし、果樹を追加で30本植え、海のカヤック釣りを習得することで、食料自給率を大幅にアップ。自己矛盾(認知的不協和)を解消していくことで、最高レベルの集中力を獲得していった。そして、仕事を大幅に手放したことで、心の余白と圧倒的な自由時間を手にすることができた。
時間にメリハリをつけることで、
人生は初めて豊かになる
そして得たものは、第一子の誕生と、52年の人生と27年のビジネス経験の集大成である、400ページの『超ミニマル主義』だ。
この1冊に盛り込んだのは、会社員サバイバル術と、自由自在に働くフリーランス術。この本では、誰もが再現できる実践的なノウハウのみを紹介している。
「やるべきことを最短で終わらせ、生み出した自由時間を、自分がやりたいこと、好きなこと、もしくは自分にしかできない仕事に全投下する」。
今までの人生では、冒険的なアウトドアや様々なプロジェクトに夢中になってきたが、育児ほど楽しい仕事はないという。育児にどうやって時間を割くか考え抜き、効率化を極めたことで超時短術が完成した。
サスティナブルな働き方は
バックパッキング登山方式
昔ながらの登山では「山頂の絶景を見るためなら、どんなに苦しくても山頂に立て」とされていたが、四角氏はどこか違和感を感じていた。登山には下山が付きまとう。山頂に行くまでに力を使い果たしたら倒れてしまう。そんな働き方をする日本人は多いだろう。
人生において仕事が占める割合は大きく、もうすぐ定年は70歳になると聞く。山頂だけを目指しての過重労働は持続可能ではない。「上」ではなく「奥」を目指し、余計なことを手放して身軽になり、楽しみながら働くことでいい成果を出し続ける。これが「バックパッキング登山方式」の働き方だ。“サステナブルに働くとは、ただ長く働くのではなく、仕事を愛し続けることでいい仕事をやり続けること。心が満たされて心地よい状態を維持できれば、自然といい成果は出る”
「ストイックなイメージがあるとよく言われるが、僕はただの『幸福探求家』。10歳のとき、どうすれば楽に生きられるだろうと思ってから、ずっと心を軽くするための創意工夫を妥協なく続けてきただけ」(四角氏)
最後に、「あなたにとって幸せな働き方とはどういうものか、自分の胸に問いかけながら『超ミニマル主義』を読んでほしい」と四角氏は呼びかけ、トークライブは幕を閉じた。
会場写真撮影・提供
@ujo_photography
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著書の最後に掲載された著者の仕事ヒストリーに並ぶ「史上初」の文字。「全ては心を軽くための効率化と、超時短術の結果。心と時間に余裕がないと、新しいアイデアは思いつかない。そして、画期的な発想はいつも静寂な朝が多かった」という四角氏。筆者も本書に書かれている前倒し・軽量化メソッドを1つずつ実践し始め、持ち物とともに思考が軽くなったように感じている。人生という連なる山脈を、共に楽しんで歩き続けよう。
●著書の紹介
「超ミニマル主義」(ダイヤモンド社刊)
https://www.diamond.co.jp/book/9784478108444.html
「自由であり続けるために20代で捨てるべき50のこと」(サンクチュアリ出版刊)
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4861139716/fg54s6d-4g6dsf-546-s54g-22/ref=nosim/
●四角大輔のHP
https://daisukeyosumi.com/
日本滞在も、残り数日。各地で開催される刊行記念イベントに参加し、著者のエネルギーに触れてみてはいかがだろうか。著者のイベント開催のお知らせは、こちらから。
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