手作り感満載のテックカンファレンス、All Things Openとは
「東海岸での最大のテックカンファレンス」と謳われているAll Things Open 2022が2022年10月30日から11月2日にノースカロライナ州ローリーで開催された。All Things Open(以下、ATO)はオープンソースとソフトウェア、サービスに関するテクノロジーカンファレンスで、2012年に初めて開催されてから10周年という記念すべきカンファレンスとなった。筆者はこのイベントには初参加で、デトロイトで行われたKubeCon NA 2022の翌週ということで予備知識をそれほど持たずに参加した。イベント自体はローリーのダウンタウンの中心地にあるローリーコンベンションセンターで行われ、イベントの参加登録数で約5,500名、リアルでの参加者は3,600名、セッション数としては170を超えるカンファレンスと数字的には集計されている。ただ体感としては2,000人から2500人程度の参加者がそれぞれのトラックに参加していたという感覚だ。会場もそれほど広大ではないため移動も楽で、1日のアジェンダもチラシ1枚に収まる程度の規模感だ。KubeCon NA 2022がCOVID-19に対する厳しいプロトコルを課しているのに対して、ATOは屋内でのマスク着用も必須ではなく、初日にワクチンの接種確認があるだけで比較的緩い環境の中で開催された。
●公式サイト:https://2022.allthingsopen.org/
しかしコンベンションセンターの前に無料のPCR検査を行うトレーラーが駐車されており、不安であれば何時でも検査を受けられるような配慮がされていたことは記録しておきたい。
カンファレンス自体は11月1日と2日の2日間で、その前の2日間に併設のプレカンファレンスが行われるというのはKubeConなどでもお馴染みのやり方で、トピックを分けて集約する発想だ。10月30日はInclusion&Diversity、31日はCommunity Leadership Summitと称したミニカンファレンスとBlenderやRemixなどのワークショップも開催された。
本稿では個々のセッションではなくイベント全体を紹介したい。セッションについてはRed HatのBarr Sutter氏によるセッションとインタビュー、サイドカーレスのIstioを解説するSolo.ioのLin Sun氏のセッション、KubeConでも注目されたWebAssemblyのPaaSを紹介したFermyonのMatt Butcher氏のセッションを紹介する。そしてRed HatからSoloに転職したBrian Gracely氏のインタビューも別途紹介する。
キーノートは両日とも朝一番と夕方にも行われ、最初と最後をキーノートで締めるやり方だった。Cloud Native Computing Foundation(CNCF)とは違って、主催している組織に何からのメッセージ性がある訳でもなく、スポンサー企業やコミュニティからのプレゼンテーションが行われた。
●キーノートのプレイリスト:Keynotes - All Things Open 2022
スポンサーとしては大手が並んでいるが、FacebookのMetaがトップレベルのスポンサーであるのは珍しい。珍しいと言えばノースカロライナに本社があるRed Hatが入っておらず、当然ブースの展示もなかった。自身の地元のイベントに協賛しないのは特に雇用などにプラスの要素がないからだろうか。またCapital OneやFidelity、Discoverなどのエンドユーザー側の企業もブースを出展して、エンジニアのハイヤリングを行っていた。
またSWAG(ノベルティグッズ)だけではなくセッションやライブストリーミングなどにもすべてスポンサーの名前が入っており、スポンサーの資金がなければカンファレンスが成立しえない現実が垣間見える。
すでに2023年の開催も決定しているようで、「予定を空けておいて!」というチラシも配布されていた。2023年は10月15日から18日に同じ場所で開催される。
過去10年を振り返って「大変なこともあったが、スポンサー、パートナー、ローリー市、1500名を超えるスピーカーに感謝する。これからの10年もよろしく」とATOの運営サイドからの感謝の言葉も掲示されていた。ちなみにポスターも複数種類がSWAGとして提供されていたが、ポスターのスポンサーはMetaだった。
ランチタイムは屋内だけではなく外で食事を取る参加者たちも多く見られた。
Capital One
Capital Oneはインターネットを最大限に活用した金融サービスを提供している企業だが、クラウドネイティブなシステムを、オープンソースを使って開発運用していることでも有名だ。このブースではエンジニア採用がメインの目的だろう。
Discover
Discoverも基本的にはエンジニア採用のためのブースを出展していた。
Free Software Foundation
変わったところではGNUのFree Software Foundationがブースを出していた。ブースの担当者はグッズの販売をしているだけで「興味があればTシャツでも買ってくれ」という姿勢。
Electric Frontier Foundation
またElectric Frontier Foundationもイベント限定のメンバーシップとしてTシャツやステッカーなどを販売していた。
System 76
ハードウェア系の企業がスポンサーとして参加しているのも特徴だ。これはSystem 76という企業で、LinuxがプリインストールされたPCやキーボードなどを販売していた。
ChickTech
女性のIT業界への参画を促す非営利団体、ChickTechもブースを展示していた。Tシャツなどの支払いはQRコードだ。
New Relic
大手ではモニタリングソリューションで日本でも実績を挙げているNew Relicが大きなブースでバッグを配布して人気を博していた。
IBM
AWS
AWS、IBMはそれぞれ目立つところにブースを出してトップレベルスポンサーであることを有効利用していた。
企業ブースや企業に所属するエンジニアによるセッション以外にCNCFやThe Linux Foundationのイベントでは珍しい組織も参加していることがこのカンファレンスの特徴だろう。KubeConではスポンサーフィーが高くて参加できないが、ATOなら敷居が低く予算を圧迫しないということだろう。
目立ったところでは前述のChickTech、学生向けのハッカソンを企画運営するMajor League Hacking、そしてオープンソースに貢献するエンジニアの実績を可視化するサービスを通じて雇用を促進するためのプロジェクト、OpenSauced.pizzaなどが参加していた。
●ChickTech:https://chicktech.org/
●Major League Hacking:https://mlh.io/
●OpenSauced.pizza:https://opensauced.pizza/
OpenSauced.pizzaはGitHubのDeveloper RelationsのメンバーだったBrian Douglas氏が立ち上げたサービスで、単にプルリクエストだけでデベロッパーを評価せずに多角的に可視化することでより良い仕事に就くことを支援するサービスと言えば良いだろう。オープンソースに貢献するエンジニアがプルリクエストの数だけで評価されるのは偏りが生じてしまう欠点をカバーするサービスと言える。
非常に手作り感が強いながらもセッション後のスピーカーへの質問を行う列が途切れないことやスポンサーブースと参加者の交流が盛んに行われることなど、参加者にとっても出展した企業や組織にとっても満足度の高いカンファレンスだったと思える。10年持続したのにはちゃんとした理由があると思わせる内容だった。
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