マネジメントの常識が変わる

2008年12月15日(月)
矢野 和男

マネジメントの品質の指標:フロー

 1つ目は、社員が「仕事の挑戦を楽しんでいるか」である。これを明らかにするために「フロー理論」が有効である。「フロー」とは、クレアモント大のチクセントミハイ教授が提唱したもので、時のたつのも忘れるほど、ものごとに集中して、没頭する状態を「フロー」と呼び、知的生産性が高く、挑戦的な仕事にワクワクして楽しむことに対応する。

 これは、「最適経験」と呼ばれる。実は、この「フロー」になれることが本当の「幸せ」の正体だと考えられている。

 フローを増やすには、仕事のチャレンジと能力をマッチングさせて、「不安」と「退屈」の間の「フロー」のチャネルに入ることが必要である(図2)。仕事の場において、このフローをつくり、育てることは、マネジメントの核心である。

 筆者らは、チクセントミハイ教授と共同で、「フロー状態」をセンサーで計測する研究を行ってきた。その中で、人は「フロー」になると、動きに特徴的なパターンが現れることがわかってきた。これを用いて、社員の「フロー」を定量化することに成功した。これをマネジメント品質の指標とすることとした。

マネジメントの品質の指標:組織力

 2つ目は、組織力である。人が集まったことによる相乗効果が上げられているかを測るには、第2回で紹介した、組織ネットワークの構造に着目する。

 筆者らは、実組織の計測から、生産性の高い組織は、「アンバランスな三角形」が少ないという事実を見いだした。そういう組織では、少ないステップ数で、組織内がつながっている。逆に、アンバランスな三角形が多いと数十人の組織でも、端から端まで6ステップ以上必要な場合もある。社員の周りの三角関係のバランスの良さを表すものとして「結束度」と呼ばれる指標を定義した。

 この2つの指標を合わせて、マネジメントの品質を定量化する。筆者らは、3万人日の世界最大規模の組織データを収集し、組織により、このマネジメント品質に大きな差があることを見いだした。

株式会社日立製作所
1984年日立製作所入社以来、中央研究所にて半導体の研究、特に世界初の単一電子メモリの室温動作、携帯電話用プロセッサなどのシステムLSIの研究を行う。現在、センサー情報を使った新しい生き方や働き方の研究と事業化を進めつつ、自ら実践している。中央研究所主管研究長と基礎研究所人間情報システムラボ長を兼任。工学博士。IEEE Fellow。http://www.hitachi.co.jp/

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